海貨業者(乙仲)へ船積手配や貨物の受渡し、保税地域への搬入を委託する書式。港湾運送事業法と関税法の保税規制を前提に、事故時の責任範囲と立替金精算を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
海貨業務(乙仲)委託契約書
第1部: 書式本文
【荷主】【商号・所在地】(以下「甲」という。)と【海貨業者】【商号・所在地・港湾運送事業許可番号】(以下「乙」という。)は、甲の貨物に係る海貨業務(いわゆる乙仲業務)の委託に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的)
本契約は、甲が輸出又は輸入する貨物について、乙が港湾運送事業者として船積手配、保税地域への搬入・搬出及び貨物の受渡しに係る業務を行うことを目的とする。
第2条(委託業務の範囲)
- 甲は乙に対し、次の業務(以下「本件業務」という。)を委託する。 (1) 船会社との船腹予約及び船積書類(B/L、S/O等)の手配 (2) 貨物の保税地域(関税法第29条以下に定める保税蔵置場、保税展示場等)への搬入及び搬出手配 (3) はしけ運送、沿岸荷役その他港湾運送事業法第2条に定める港湾運送に付随する作業の手配 (4) 船積後の書類回収及び甲への引渡し (5) その他甲乙が別途合意する附帯業務
- 通関士による輸出入申告そのものは本件業務に含まないものとし、別途通関業務委託契約による。
第3条(貨物の受渡し及び保税地域への搬入)
- 乙は、甲から引渡しを受けた貨物を善良な管理者の注意をもって保管し、指定された保税地域へ搬入する。
- 乙は、保税地域における貨物の管理状況(蔵入承認、搬出承認等)について、甲の求めに応じ報告する。
第4条(船腹の手配)
乙は、甲の指示する船積スケジュール、仕向地及び運賃条件に基づき、船会社との間で船腹予約を行い、予約完了後速やかに甲に通知する。
第5条(貨物事故時の責任)
- 乙の保管中又は荷役作業中に生じた貨物の滅失、毀損又は数量不足については、乙の責めに帰すべき事由がある場合、乙がその損害を賠償する。
- 乙の賠償責任額は、当該貨物の実損害額を上限とし、かつ乙が加入する貨物賠償責任保険の填補限度額を超えないものとする。ただし、乙に故意又は重大な過失がある場合はこの限りでない。
- 甲は、貨物の性質上特に高価なものについては、事前に乙に申告し、必要に応じて別途保険を付保するものとする。
第6条(立替金の精算)
- 乙は、本件業務の遂行に必要な港湾諸掛り、倉庫料、検数料その他の実費を甲に代わって立て替えることができる。
- 甲は、乙が発行する精算書に基づき、立替金及び手数料を請求受領後【10】営業日以内に支払う。
第7条(報酬)
甲は乙に対し、本件業務の対価として、別紙料金表に定める海貨手数料及び実費を支払う。
第8条(遅延時の取扱い)
船腹の欠航、保税地域の混雑その他乙の責めに帰すべからざる事由により船積みが遅延した場合、乙は速やかに甲へ通知し、代替スケジュールの調整に協力する。この場合、乙は遅延自体について損害賠償責任を負わない。
第9条(通関業者・船会社等との関係)
乙が本件業務の遂行にあたり通関業者、船会社又は他の港湾運送事業者(以下「協力業者」という。)を利用する場合、乙は自己の名と責任において協力業者を選定し、協力業者の行為について甲に対し責任を負う。
第10条(秘密保持)
甲及び乙は、本契約の履行に関連して知り得た相手方の営業上の秘密を第三者に開示してはならない。本条の義務は契約終了後【3】年間存続する。
第11条(契約期間及び解約)
- 本契約の有効期間は締結日から【1】年間とし、期間満了の【1】か月前までに解約の申出がないときは同一条件でさらに【1】年間更新する。
- 甲又は乙は、【2】か月前に書面で通知することにより本契約を解約できる。
第12条(契約解除)
甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、催告後相当期間内に是正されないとき、又は港湾運送事業の許可取消し等の事由が生じたときは、書面通知により本契約を解除できる。
第13条(反社会的勢力の排除)
甲及び乙は、自己及び自己の役職員が暴力団等の反社会的勢力に該当せず、将来にわたっても該当しないことを表明し、保証する。
第14条(協議及び管轄)
本契約に定めのない事項については甲乙誠実に協議して解決するものとし、本契約に関する紛争については【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 荷主向け修正パターン
荷主側では、第5条第2項の賠償責任上限を保険填補限度額に限定する規定を、荷主にとってより有利な形に修正する余地がある。例えば「乙の賠償責任額は実損害額を上限とする。ただし、保険求償が填補限度額に満たない場合であっても、乙の責めに帰すべき事由による不足分は乙が負担する」との文言に改め、保険填補と実際の損害額との差額を乙に負担させることが考えられる。また第8条についても「乙の責めに帰すべからざる事由」の範囲を限定列挙(台風・地震等の不可抗力、船会社側の一方的欠航に限る)し、乙の保管体制の不備による遅延は免責対象から除く修正が有効である。
B. 海貨業者向け修正パターン
海貨業者側では、第3条第1項の「善良な管理者の注意をもって保管」という抽象的な注意義務水準について、具体的な保管条件(温度・湿度管理の要否、危険物取扱いの範囲)を甲があらかじめ書面で指定した場合に限り乙がその条件を遵守する義務を負う旨を追加し、指定なき場合の責任を軽減することが望ましい。さらに第6条の立替金精算について、「甲の支払遅延が【 】日を超えた場合、乙は以後の立替払を停止できる」との条項を追加し、資金繰りリスクを回避する修正が考えられる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、荷主が船積手配や保税地域への搬入・搬出、貨物の受渡しといった、いわゆる乙仲(海貨業者)固有の業務を委託する場面で使用する。輸出入申告そのものの代理を依頼する場合は、通関業法上の通関業務委託契約を別途締結する必要があり、本書式のみでは申告代理権限を付与したことにはならない点に注意が必要である。また、乙が港湾運送事業法上の許可(一般港湾運送事業等)を有しない事業者である場合には、本書式をそのまま使用してはならない。
根拠法令としては、港湾運送事業法(同法第2条に定める港湾運送の定義、事業許可制度)、関税法(保税地域に関する第29条以下の規定、貨物の搬入・搬出手続)が中心となる。保税地域における貨物管理は関税法上の規制が及ぶため、蔵入承認・搬出承認の手続に関する条項(第3条)は実務上特に重要である。
実務でよくある失敗として、第一に、貨物事故発生時の責任範囲(第5条)を保険填補限度額と実損害額の関係を整理せずに定めてしまい、事故後の求償で紛争化するケースが多い。対策としては、乙が加入する保険の種類・填補限度額をあらかじめ甲に開示させる条項を設けることが有効である。第二に、船腹欠航等による遅延について免責の範囲(第8条)を曖昧にしたまま契約し、遅延損害の負担をめぐって甲乙間の見解が対立する例が見られる。第三に、協力業者(通関業者・船会社等)の行為に関する責任の所在(第9条)を定めずに契約し、事故時に協力業者・乙・甲の三者間で責任の押し付け合いが生じるケースがある。
海貨業務は貨物の種類、輸送形態、寄港地の港湾管理者の規制によって実務運用が異なるため、条項の当てはめや保険設計の妥当性については、契約締結前に貿易実務又は海事法務に詳しい弁護士に個別事案として確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト(海貨業務委託契約用)
- [ ] 委託先が港湾運送事業法上の事業許可を保有していることを確認したか
- [ ] 委託する業務範囲(船腹手配・保税地域搬入出・荷役手配等)を具体的に特定したか
- [ ] 通関業務(申告代理)を含むか否かを明確にし、含まない場合は別契約の要否を確認したか
- [ ] 貨物事故発生時の責任範囲と乙の保険填補限度額の関係を確認したか
- [ ] 高価品・危険物等特別な取扱いが必要な貨物の申告手続を定めたか
- [ ] 立替金の精算サイトと支払遅延時の対応を定めたか
- [ ] 海貨手数料及び実費の料金表を別紙として添付したか
- [ ] 船腹欠航・港湾混雑等による遅延時の免責範囲を定めたか
- [ ] 協力業者(通関業者・船会社等)の選定責任の所在を確認したか
- [ ] 秘密保持義務の存続期間を定めたか
- [ ] 契約解除事由に港湾運送事業許可の取消し等を含めたか
- [ ] 紛争解決のための管轄裁判所を明記したか