クロージング後に運転資本や純有利子負債の確定額で譲渡代金を調整する合意書です。算定方法、確定手続、異議申立ての期限を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
価格調整(運転資本調整)合意書
第1部: 書式本文
〇〇〇〇(以下「甲」という。売主)と〇〇〇〇(以下「乙」という。買主)とは、甲乙間の令和〇年〇月〇日付株式譲渡契約書(以下「原契約」という。)に基づく対象会社株式の譲渡に関し、クロージング後の運転資本及び純有利子負債の確定額に応じた譲渡代金の調整について、次のとおり合意(以下「本合意」という。)する。
第1条(目的) 本合意は、原契約に定めるクロージング日(以下「基準日」という。)における対象会社の運転資本及び純有利子負債の実額を確定し、これに基づき譲渡代金を調整する手続を定めることを目的とする。
第2条(定義) 1. 「基準運転資本」とは、別紙に定める算定方法により算出された、原契約締結時点における対象会社の運転資本の見込額(【〇〇円】)をいう。 2. 「確定運転資本」とは、第3条に定める確定計算書に記載される、基準日時点の対象会社の実際の運転資本額をいう。 3. 「確定純有利子負債」とは、確定計算書に記載される、基準日時点の対象会社の借入金その他の有利子負債の合計額から現金及び現金同等物を控除した金額をいう。
第3条(クロージング後確定計算書の作成) 乙は、基準日から【60】日以内に、対象会社の会計帳簿に基づき、確定運転資本及び確定純有利子負債を記載した計算書(以下「確定計算書」という。)を作成し、算定根拠資料とともに甲に提出する。
第4条(異議申立て) 1. 甲は、確定計算書の受領後【30】日以内(以下「異議申立期間」という。)に限り、その記載内容に異議がある場合、異議の対象項目及び理由を記載した書面(以下「異議通知」という。)により乙に通知することができる。 2. 甲が異議申立期間内に異議通知を発しなかったときは、確定計算書の内容は当事者間で確定したものとみなす。
第5条(協議による解決) 甲が異議通知を発した場合、甲及び乙は、異議通知の到達後【15】日以内に誠実に協議し、異議の対象項目について合意に至るよう努める。
第6条(独立会計士による最終判断) 1. 前条の協議によっても異議の対象項目について合意に至らない場合、甲及び乙は共同して、いずれの当事者からも独立した公認会計士又は監査法人(以下「独立会計士」という。)を選任し、当該項目の確定を委嘱する。 2. 独立会計士の選任について甲乙間で合意が調わない場合、甲又は乙の申立てにより、〇〇公認会計士協会が指名する者を独立会計士とする。 3. 独立会計士は、異議の対象項目に限り、会計基準及び別紙に定める算定方法に従って判断を行い、その判断は甲及び乙を拘束する。 4. 独立会計士の判断に要する費用は、原則として甲及び乙が折半して負担する。ただし、独立会計士が甲乙いずれか一方の主張をおおむね採用した場合、当該費用は他方当事者の負担とすることができる。
第7条(調整金の算定) 1. 確定運転資本が基準運転資本を上回る場合、乙は甲に対し、その差額に相当する金額(以下「増額調整金」という。)を支払う。 2. 確定運転資本が基準運転資本を下回る場合、又は確定純有利子負債が原契約締結時点の見込額を上回る場合、甲は乙に対し、その差額に相当する金額(以下「減額調整金」という。)を支払う。 3. 増額調整金及び減額調整金は相殺の上、一本化して精算することができる。
第8条(調整金の支払) 調整金の支払義務を負う当事者は、確定計算書の内容が第4条第2項により確定した日、又は前条に定める独立会計士の判断が示された日のいずれか早い日から【14】日以内に、調整金及びこれに対する年3分の割合による利息を相手方の指定口座に送金して支払う。
第9条(資料開示及び協力義務) 甲及び乙は、確定計算書の作成、異議申立ての検討及び独立会計士による判断に必要な会計帳簿、証憑その他の資料を、相手方又は独立会計士の求めに応じて速やかに開示し、必要な協力を行う。
第10条(原契約との関係) 本合意は原契約を補完するものであり、本合意に定めのない事項については原契約の定めるところによる。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本合意の履行の過程で知り得た相手方及び対象会社の財務情報その他の秘密情報を、本合意の目的以外に使用し、又は第三者に開示してはならない。
第12条(合意管轄) 本合意に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 売主(甲)向けの修正
A-1. 異議申立期間中の帳簿閲覧権の明記
追加条文例:「甲は、異議申立期間中、対象会社の会計帳簿及び原始証憑を、乙の営業時間内において閲覧し、又は写しの交付を受けることができる。」 一言解説: 確定計算書は買主側が作成するため、売主が独自に内容を検証できるよう帳簿への直接アクセス権を確保しておく修正である。
A-2. 減額調整金の上限(キャップ)設定
修正後:「甲が第7条第2項に基づき負担する減額調整金の総額は、基準運転資本の【10】パーセントを上限とする。」 一言解説: 買主による恣意的な会計処理により減額調整額が想定外に膨らむリスクを避けるため、売主側は負担上限を設ける修正を求めることが多い。
B. 買主(乙)向けの修正
B-1. 確定計算書提出期限の延長事由
修正後:「前項の期間は、対象会社の会計監査の状況その他やむを得ない事由がある場合、乙は甲に通知の上、【30】日を限度として延長することができる。」 一言解説: クロージング直後は決算・監査対応と重なり計算書の作成が遅延しやすいため、買主側は合理的な延長余地を確保する修正を行う。
B-2. 独立会計士の判断範囲の限定(レンジ内判断)
追加条文例:「独立会計士は、異議の対象項目について、甲の主張額と乙の主張額の範囲内でのみ判断するものとし、当該範囲を超える金額を認定してはならない。」 一言解説: 独立会計士が両当事者の主張していない極端な数値を採用することを防ぎ、買主が想定するリスクの範囲を明確にする修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、株式譲渡契約等でクロージング時点の対象会社の運転資本や純有利子負債の実額が未確定であるため、いったん見込額で譲渡代金を確定した上で、クロージング後に確定額を精査し代金を調整する場合に用いる。譲渡代金がクロージング前に完全固定(ロックド・ボックス方式)されている取引や、そもそも運転資本調整を行わない合意の場合には本書式は適合しない。原契約に価格調整条項が既に存在する場合は、本合意は当該条項の実施細則として位置付けられることを前提に整合性を確認する必要がある。
根拠法令 譲渡代金の増減に関する合意は民法上の契約自由の原則(民法第521条)に基づくものであり、当事者間の合意内容がそのまま効力を持つ。調整金の支払は既存の売買代金債務の変更ないし新たな金銭債務の発生と整理され、履行遅滞に関する規定(民法第412条、第415条)が適用される。また、確定計算書の基礎となる会計帳簿は会社法第432条に定める帳簿資料であり、対象会社が株式会社である場合には計算書類(会社法第435条)との整合性も踏まえて算定方法を定めることが望ましい。独立会計士による判断(エキスパート・ディターミネーション)は、仲裁法上の仲裁ではなく契約上の第三者判断制度と位置付けられる点に留意が必要である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、基準運転資本の算定方法(勘定科目の範囲、会計方針)が原契約と本合意とで食い違い、確定計算書の作成段階で紛争になる失敗がある。第2条及び別紙で算定方法を具体的に一致させることが対策となる。第二に、異議申立期間や独立会計士選任の期限が定められておらず、精算手続が長期化する失敗がある。第4条から第6条のように各段階の期限を明記することが対策となる。第三に、独立会計士の判断範囲や費用負担が曖昧なため、専門家選任自体で当事者間の対立が生じる失敗がある。B-2のようにレンジ内判断とする、又は第6条第2項のように選任機関を事前に定めることが対策となる。
運転資本の算定方法や独立会計士の選任実務は業種や取引規模によって異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 原契約における価格調整条項の有無及び内容と本合意の整合性を確認したか
- [ ] 基準運転資本の算定方法(勘定科目の範囲・会計方針)を別紙で具体的に定めたか
- [ ] 確定計算書の作成・提出期限及び延長事由を定めたか
- [ ] 異議申立期間及び異議通知の記載事項を定めたか
- [ ] 協議期間及び独立会計士の選任手続を定めたか
- [ ] 独立会計士の判断範囲(レンジ内判断等)及び費用負担を定めたか
- [ ] 調整金の算定方法(増額・減額の相殺処理を含む)を定めたか
- [ ] 調整金の支払期限及び遅延利息を定めたか
- [ ] 資料開示・帳簿閲覧に関する売主の権利を確認したか
- [ ] 秘密保持義務の対象範囲(対象会社の財務情報を含む)を確認したか