原材料費や労務費の高騰を単価に反映する価格改定合意書。下請法第4条第1項第5号の買いたたきや独占禁止法の優越的地位の濫用に配慮した協議手続を定めます。
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価格改定合意書
第1部: 書式本文
〇〇株式会社(以下「甲」といい、購入側・発注者を指す。)と△△株式会社(以下「乙」といい、供給側・受注者を指す。)は、甲乙間の【原契約名称】に基づく取引の単価改定に関し、次のとおり合意する(以下「本合意書」という。)。
第1条(価格改定の背景) 乙は、原材料費、エネルギーコスト、労務費その他の製造原価の変動により、現行単価での取引継続が困難であることを甲に申し入れ、甲乙は当該事情を踏まえて協議を行った上で本合意書を締結する。
第2条(改定後単価) 対象品目及び改定後の単価は、別紙「価格改定明細表」に定めるとおりとする。同表には、品目ごとの現行単価、改定単価、改定率及び主な改定理由(原材料費・エネルギーコスト・労務費等の内訳)を記載する。
第3条(改定の根拠資料の開示) 乙は、単価改定の申入れに際し、原価上昇の根拠を示す資料(仕入価格の推移、公的指標、賃金上昇率等)を甲に提示するものとし、甲は当該資料を基礎として協議に応じる。
第4条(協議手続) 1. 甲は、乙からの改定申入れを受けた日から【 】日以内に、協議のための第一回会合を実施する。 2. 甲は、単価改定の要否及び金額について、乙の提示した根拠資料を十分に検討し、根拠のない理由による減額要求又は協議の引き延ばしを行わない。 3. 協議が調わない場合、甲乙は改めて協議期日を設け、合理的な期間内に結論を得るよう努める。
第5条(適用開始日) 改定後単価は、【西暦年月日】発注分から適用する。ただし、既に確定している発注分については、別紙に特段の定めがない限り従前単価を適用する。
第6条(改定単価の見直し時期) 甲乙は、経済情勢の変化を踏まえ、原則として【 年 】ごと、又は原材料費等が【 】%以上変動した場合に、単価改定の要否について再協議するものとする。
第7条(段階的適用・激変緩和措置) 改定率が大きい場合、甲乙は、別紙に定めるとおり、適用開始日から【 】か月間、改定率の一部を段階的に適用する激変緩和措置を講じることができる。
第8条(既存発注分の取扱い) 本合意書締結前に甲が発注し、乙が未納品の分については、原則として発注時点の単価を適用する。ただし、甲乙合意によりこれと異なる取扱いをすることを妨げない。
第9条(記録の保存) 甲及び乙は、本合意書に基づく協議の経緯及び根拠資料を、協議終了後【 】年間保存する。
第10条(その他取引条件への不影響) 本合意書は単価改定のみを対象とし、原契約に定めるその他の取引条件(納期、検収条件、支払条件等)には影響を及ぼさない。
第11条(準拠法及び管轄裁判所) 本合意書は日本法に準拠し、本合意書に関する紛争については【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 値上げを求める供給者(乙)向け
供給者側は、単に「値上げしたい」ではなく、根拠資料の提示と協議期限の設定をセットで求めることで、買いたたきの疑いを未然に防ぎつつ実効性を確保できます。
第4条第1項を次のように差し替える例: 「甲は、乙からの改定申入れを受けた日から14日以内に協議期日を設定するものとし、正当な理由なく協議に応じない場合、乙は当該期間経過後、改定後単価を暫定的に適用した納品を行うことができる。」
一言解説:協議に応じない発注者に対する牽制として「協議不応諾時の暫定適用」を入れる手法です。ただし一方的な単価引上げの実施は別途トラブルの火種にもなるため、暫定適用の要件(通知方法・猶予期間)を丁寧に定めることが望まれます。
B. 購入側(発注者・甲)向け
購入側は、コスト増の実態を確認しつつ、根拠のない値上げ要求に歯止めをかける条項を置くことが実務上重要です。
第3条の後に次を追加する例: 「2. 乙は、改定申入れの根拠資料について、甲の求めに応じ追加の説明を行うものとする。甲は、根拠資料の裏付けを欠く改定申入れについては、改定率の見直しを求めることができる。」
一言解説:根拠資料の追加説明を求める権利を明記することで、恣意的な値上げ要求への対抗手段を確保します。同時に、下請法上「買いたたき」と評価されないよう、説明を求める行為自体が協議の引き延ばしにならないよう期限(第4条第1項)とセットで運用する必要があります。
C. 中立・折衷案
第三者的な立場や双方合意を重視する場合は、改定率の算定式を客観的な指標に連動させる方式が有効です。
第2条の後に次を追加する例: 「2. 改定単価は、【経済産業省公表の企業物価指数・特定原材料価格指数等】の変動率に連動する算定式(別紙参照)に基づき機械的に算出するものとし、甲乙いずれの裁量にも依らないものとする。」
一言解説:算定式を公的指標に連動させることで、優越的地位の濫用や買いたたきの評価を受けにくい客観的な改定プロセスを構築できます。
第3部: 価格改定合意書の書き方と法的ポイントの解説
使う場面 継続的取引において、原材料費・エネルギーコスト・労務費等の外部要因により従来単価での供給が困難となった場合に、単価のみを見直す場面で用います。既存の取引基本契約の枠組みは維持したまま、価格条件のみを改定する典型的な書式です。
使ってはいけない場面 取引そのものを打ち切る、あるいは発注数量・仕様を大幅に変更する場合には、本書式ではなく契約解除通知や個別契約の再締結など別の手続を検討すべきです。また、価格改定を口実に実質的な取引条件の全面変更を行う場合、本来必要な説明・協議プロセスが省略されるおそれがあるため注意を要します。
根拠法令 本書式で特に留意すべきは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第4条第1項第5号が禁止する「買いたたき」です。同号は、下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めることを禁止しています。原材料費等が上昇しているにもかかわらず、発注者が一方的に従来単価を据え置く、又は協議に応じないまま単価を据え置く行為は、買いたたきに該当するおそれがあります。加えて、下請法に該当しない取引であっても、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第2条第9項第5号が定める優越的地位の濫用(取引の相手方に不当に不利益となるように取引条件を設定する行為等)に抵触するおそれがある点にも留意が必要です。公正取引委員会・中小企業庁が公表する「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」等のガイドラインも実務上参考になります。個別の取引が買いたたきや優越的地位の濫用に該当するかどうかは、取引依存度や交渉経緯等の個別事情によって判断が異なるため、専門家への確認を推奨する。
実務でよくある失敗 1. 発注者側が根拠資料の提示を求めるだけ求めて協議期限を定めず、実質的に改定申入れを放置してしまうケース。第4条で協議期日の設定義務を明記することが対策となります。 2. 改定率の算定根拠が曖昧なまま合意書を締結し、次回改定時に前回合意の位置づけを巡って争いになるケース。第2条の別紙で品目ごとの改定理由を明示することが対策です。 3. 適用開始日と既存発注分の取扱いを区別せず、遡及適用の有無を巡ってトラブルになるケース。第5条・第8条で明確に切り分けることで防止できます。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 改定対象品目及び改定単価を別紙で具体的に特定したか
- [ ] 単価改定の根拠資料(原材料費指標・賃金統計等)を確認・添付したか
- [ ] 協議期日の設定義務と応諾期限を明記したか
- [ ] 適用開始日と既存発注分(未納品分)の取扱いを区別したか
- [ ] 激変緩和措置(段階的適用)の要否を検討したか
- [ ] 下請法第4条第1項第5号の買いたたきに該当しないか、対価の水準を確認したか
- [ ] 優越的地位の濫用に該当する一方的な条件設定になっていないか確認したか
- [ ] 次回改定時期又は改定トリガー条件を明記したか
- [ ] 協議記録及び根拠資料の保存期間・方法を定めたか
- [ ] 価格改定以外の取引条件に影響がないことを明記したか