原材料費やエネルギー価格の変動に応じて対価を改定する合意書です。指標、改定の頻度、上限下限、協議手続を定めます。社内の承認手続と証跡管理にもそのまま活用できます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
価格スライド条項に関する合意書
第1部: 書式本文
価格スライド条項に関する合意書
【売主・受注者】(以下「甲」という。)と【買主・発注者】(以下「乙」という。)は、甲乙間で【年】年【月】月【日】日付で締結した【原契約名称】(以下「原契約」という。)における対価の改定について、以下のとおり合意する。
第1条(目的) 本合意書は、原材料費、エネルギー価格その他の指標の変動に応じて原契約に基づく対価を改定する仕組み(以下「価格スライド」という。)を定める。
第2条(対象となる指標) 価格スライドの算定にあたり参照する指標は下記のとおりとする。 【指標名、例:経済産業省公表の企業物価指数、特定原材料の市況価格等】
第3条(改定の算定方法) 対価の改定額は、下記の算式により算出する。 改定後単価 = 現行単価 ×(基準時点の指標値に対する改定時点の指標値の変動率)× 【調整係数】
第4条(改定の頻度) 価格スライドによる改定は、原則として【 】か月ごとに実施する。ただし、指標が【 】パーセント以上変動した場合は、随時改定を協議することができる。
第5条(上限及び下限) 1回あたりの改定幅は、現行単価の上下【 】パーセントを上限とする。
第6条(協議手続) 甲は、価格スライドの適用を求めるときは、算定根拠となる資料を添えて乙に書面で通知する。乙は通知受領後【 】日以内に回答する。
第7条(合意に至らない場合の取扱い) 前条の協議が【 】日以内に整わない場合、甲乙は【第三者機関への相談・仲裁・従前単価の暫定適用等】により取り扱う。
第8条(下請法上の留意事項) 乙が下請代金支払遅延等防止法上の親事業者に該当する場合、価格スライドに基づく協議を理由なく拒否し、又は一方的に不利益な単価を押し付けることは同法第4条第1項に抵触するおそれがあることを甲乙確認する。
第9条(適用開始時期) 価格スライドは、本合意書締結日以降に発注される個別契約から適用する。既に発注済みの個別契約には遡及適用しない。
第10条(記録の保存) 甲及び乙は、指標の推移及び改定協議の経緯に関する資料を【 】年間保存する。
第11条(原契約との関係) 本合意書に定めのない事項は、原契約の定めるところによる。原契約と本合意書の内容に矛盾がある場合、対価の改定に関する事項については本合意書を優先する。
第12条(協議) 本合意書に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
以上の合意を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する。
【年】年【月】月【日】日
甲 住所: 氏名又は名称: 印 乙 住所: 氏名又は名称: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:売主・受注者側でコスト転嫁を確実にする場合
受注者としては、指標変動時に自動的に改定される仕組みを強化します。
第4条(修正例) 指標が基準時点比【 】パーセント以上変動した場合、甲の通知により改定単価が自動的に適用される。乙の承諾を要しない。
一言解説:協議が難航してコスト転嫁が遅れるリスクを避けるため、一定の変動幅を超えた場合は自動適用とする修正です。
B節:買主・発注者側で予見可能性を確保する場合
発注者としては、上限を設け、予算管理への影響を限定します。
第5条(修正例) 1回あたりの改定幅は現行単価の上下【 】パーセントを上限とし、年間の累計改定幅は【 】パーセントを超えないものとする。
一言解説:年間累計の上限を設けることで、急激な指標変動時の予算超過リスクを抑えます。
C節:下請取引に該当する場合
発注者側が親事業者に該当する場合、下請法上の減額禁止・買いたたき禁止に配慮した記載にします。
第8条(修正例) 乙は、甲からの価格スライド適用の申出があったときは、合理的な理由なくこれを拒否せず、下請代金支払遅延等防止法第4条第1項第5号の買いたたきに該当する単価を提示しない。
一言解説:買いたたき規制を明記することで、発注者側のコンプライアンス意識を条項上も明確にします。
D節:複数の原材料が対価に影響する場合
単一指標でなく複数の指標を組み合わせて改定額を算定する場合の修正です。
第3条(修正例) 改定後単価は、原材料費指標(寄与率60%)、エネルギー価格指標(寄与率30%)、労務費指標(寄与率10%)の加重平均により算出する。
一言解説:単一指標では実態を反映しきれない場合、寄与率を明示した複合指標を用いることで納得感を高めます。
E節:改定協議が不調の場合の代替手段を定める場合
協議が整わない場合の処理方法をより具体化します。
第7条(修正例) 協議が【 】日以内に整わない場合、甲乙は中立的な第三者(業界団体又は専門機関)の意見を聴取し、これを参考に再協議する。それでも合意に至らないときは、従前単価を暫定的に適用しつつ、差額分は事後精算する。
一言解説:合意に至らない場合の「落としどころ」をあらかじめ定めておくことで、交渉の停滞を防ぎます。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面
原材料費やエネルギー価格の変動が大きい業種において、長期継続的な取引契約における対価を市況に応じて柔軟に改定したい場合に使用します。製造業の部品供給契約や建設工事請負契約など、履行期間が長期にわたる契約に適しています。
使ってはいけない場面
価格スライドの名を借りて、実質的に発注者が一方的に単価を引き下げる手段として利用する場合には使用すべきではありません。特に下請取引においては、指標の変動を口実にした不当な単価引下げは下請代金支払遅延等防止法第4条第1項第5号の買いたたきに該当するおそれがあります。また、算定方法が恣意的で客観性を欠く場合、対価の合意が成立しているとはいえず契約の有効性自体に疑義が生じる可能性があります。
根拠法令
対価の改定に関する合意は民法第521条以下の契約自由の原則に基づきます。下請取引に該当する場合は下請代金支払遅延等防止法第4条第1項各号(下請代金の減額禁止、買いたたきの禁止)が重要な規律となります。また、事情変更の原則(判例上認められた法理であり民法に明文規定はないものの、契約解釈の一場面で考慮されることがあります。)も価格スライド条項導入の背景として理解しておくと有用です。
よくある失敗と条項上の対策
- 参照指標を曖昧に記載し、どの統計・市況データを基準とするか争いになる失敗があります。対策として第2条で指標の名称・公表機関を具体的に特定します。
- 改定の算定方法を定めず「協議のうえ改定する」とだけ記載し、結局協議が進まない失敗があります。対策として第3条で明確な算式を定めます。
- 協議が不調の場合の取扱いを定めず、指標が大きく変動しても対価が固定されたままになる失敗があります。対策として第7条のように不調時の代替手段を明記します。
価格スライド条項の設計は業界慣行や取引の力関係によって適切な内容が異なり、下請法の適用可能性も個別に判断が必要となるため、個別事案は専門家に確認のうえ条項内容を確定してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- 参照する指標を具体的に特定したか(公表機関・統計名)
- 改定の算定方法(算式)を明確にしたか
- 改定の頻度及び随時改定の条件を明記したか
- 改定幅の上限・下限を設定したか
- 協議手続(通知方法・回答期限)を明記したか
- 協議不調時の取扱いを定めたか
- 下請法上の買いたたき・減額禁止に抵触しないか確認したか
- 適用開始時期(遡及適用の有無)を明記したか
- 指標の推移や協議経緯の記録保存体制を整えたか
- 原契約との優先関係を明記したか
- 経理・調達部門と算定方法の妥当性を確認したか
- 記名押印者の代表権限を確認したか