製造委託に伴う金型の所有権と長期保管の負担を定める契約書。民法第657条の寄託と下請法第4条第2項第3号の不当な経済上の利益提供要請の禁止に配慮します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
金型の所有・保管に関する契約書
第1部: 書式本文
金型の所有・保管に関する契約書
発注者【企業名】(以下「甲」という。)及び製造受託者【企業名】(以下「乙」という。)は、甲乙間の製造委託取引において使用する金型の所有及び保管に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、【製品名】の製造に用いる別紙記載の金型(以下「本金型」という。)につき、その所有権の帰属並びに乙による保管の条件を定めることを目的とする。
第2条(本金型の特定及び製作費用) 1. 本金型の型式、型番、製作年月日及び製作費用の負担者は別紙「金型仕様書」に定めるとおりとする。 2. 本金型の製作費用を甲が全額負担した場合、本金型の所有権は完成と同時に甲に帰属する。
第3条(所有権の帰属及び表示) 1. 本金型の所有権は甲に帰属する。乙は、本金型に甲の所有物である旨を表示する銘板その他の識別標を貼付する。 2. 乙は、本金型につき、譲渡、質入れ、担保設定その他所有権を侵害する一切の行為をしてはならない。
第4条(保管の委託) 甲は乙に対し本金型の保管を委託し、乙はこれを受託する。乙は、善良な管理者の注意をもって本金型を保管する。
第5条(保管期間) 1. 保管期間は、本金型引渡日から、対象製品の生産終了後【3】年間とする。 2. 甲は、保管期間満了前に、保管の継続、返還又は廃棄のいずれかを乙に書面で通知する。通知がないまま保管期間が満了した場合、保管期間は自動的に1年間更新されるものとし、以後も同様とする。
第6条(保管費用の負担) 1. 本金型の保管に要する費用の負担については、別紙「保管条件一覧」に定めるところによる。 2. 甲は、保管費用の負担を定めずに乙に無償かつ無期限の保管を求めるなど、乙に一方的に不利益となる条件を強要してはならない。
第7条(維持管理及び補修) 1. 乙は、本金型を製造委託契約に基づく生産に使用可能な状態に維持するため、通常の点検、清掃及び防錆処置を行う。 2. 本金型の経年劣化又は通常の使用に伴う摩耗による補修費用は甲の負担とし、乙の善管注意義務違反による損傷の補修費用は乙の負担とする。 3. 補修の要否及び費用分担について疑義が生じた場合、甲乙協議のうえ決定する。
第8条(第三者への貸与・転用の禁止) 乙は、甲の書面による事前の承諾なく、本金型を第三者に貸与し、又は甲乙間の製造委託契約以外の目的で使用してはならない。
第9条(返還及び廃棄) 1. 甲が本金型の返還を求めたときは、乙は【30】日以内に甲の指定する場所に本金型を引き渡す。返還に要する費用は甲の負担とする。 2. 甲が廃棄を指示したときは、乙は甲の立会い又は甲が指定する方法により廃棄し、廃棄完了報告書を甲に提出する。廃棄費用の負担は別紙「保管条件一覧」による。
第10条(不可抗力による滅失・毀損) 乙の責めに帰すことができない火災、天災その他不可抗力により本金型が滅失又は毀損した場合、乙はその旨を直ちに甲に通知するものとし、双方の帰責事由の有無を踏まえて損害の分担を協議する。
第11条(下請法上の留意事項) 甲は、本金型の保管に関し、下請代金支払遅延等防止法第4条第2項第3号に定める不当な経済上の利益の提供要請に該当するような、対価を伴わない長期保管の強要その他乙に一方的な負担を課す行為を行ってはならない。
第12条(秘密保持) 乙は、本金型の構造、仕様その他甲の営業秘密に該当する情報を、甲の事前の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。
第13条(有効期間) 本契約は締結日から効力を生じ、第9条に基づく本金型の返還又は廃棄が完了するまで存続する。
第14条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関して紛争が生じた場合、【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため、本契約書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【作成日】
甲(発注者) 住所: 名称: 代表者: 印
乙(製造受託者) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 金型を所有する発注者向け
生産終了後も金型が受託者の倉庫に長期間放置され、実態把握ができなくなる事態を避けるため、定期報告義務を追加することが望ましい。 before:「甲は、保管期間満了前に、保管の継続、返還又は廃棄のいずれかを乙に書面で通知する。」 after:「乙は、毎年【4】月末日までに、本金型の保管状況(保管場所、状態、点検記録)を甲に書面で報告する。甲は当該報告を踏まえ、保管の継続、返還又は廃棄のいずれかを決定し乙に通知する。」 受託者からの定期報告を起点とすることで、発注者が多数の金型を横断的に管理しやすくなる。
B節 保管する製造受託者向け
受託者としては、無償かつ無期限の保管義務を負わされないよう、保管費用及び保管期間の上限を明確化する必要がある。 before:「本金型の保管に要する費用の負担については、別紙「保管条件一覧」に定めるところによる。」 after:「甲は乙に対し、本金型1型あたり月額【金額】円の保管料を、保管期間中毎月末日までに支払う。保管期間が生産終了後【3】年を超えて継続する場合、甲乙は保管料の見直しについて協議する。」 下請法第4条第2項第3号との関係で、保管料の定めがない長期保管は不当な経済上の利益提供要請と評価されるリスクがあるため、有償化及び期間上限の明記が実務上重要である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、発注者が所有する金型を製造受託者の工場内で保管させ、継続的な生産委託を行う場面で使用する。金型の所有権が受託者に帰属する場合や、金型製作費用を発注者と受託者が共同で負担し持分を有する場合には、第3条の権利帰属条項が実態と齟齬をきたすため、共有関係を前提とした条項に組み替える必要があり、本書式をそのまま使用すべきではない。また、生産が既に終了し金型の廃棄のみを目的とする場合は、保管契約ではなく廃棄合意書として別途整理する方が簡明である。
法律関係としては、乙が甲の物である本金型を占有して保管する点で民法第657条の寄託契約の性質を有し、乙の保管義務は同法第659条(無償受寄者の注意義務)又は有償の場合は民法第400条の善管注意義務が基礎となる。また、金型の長期保管は親事業者と下請事業者の力関係の差から無償化・無期限化されやすく、下請代金支払遅延等防止法第4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)及び同条第1項各号の趣旨に照らして問題視される類型であるため、公正取引委員会・中小企業庁が示す型取引の適正化に関する実務指針も踏まえて条項設計を行う必要がある。
実務でよくある失敗として、第一に、保管期間を定めず生産終了後も金型が受託者の倉庫を長期間占有し続け、受託者の保管スペースを圧迫するケースがある。対策として第5条のように保管期間と更新手続を明記する。第二に、補修費用の負担区分が曖昧なまま経年劣化と受託者起因の損傷が混在し、費用精算の場面で紛争化するケースがある。対策として第7条第2項のように劣化原因ごとの負担区分を条項化する。第三に、保管料の定めがないまま慣行的に無償保管が継続し、公正取引委員会の調査で下請法違反を指摘されるケースがある。対策として第2部B節のように保管料条項を明記する。金型の取扱いに関する下請法上の規制の適用範囲は取引の実態により異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 金型仕様書(型式・型番・製作費用負担者)を別紙として作成しているか
- [ ] 本金型の所有権の帰属を明記し、識別標の貼付を義務付けているか
- [ ] 保管期間及び更新手続を具体的に定めているか
- [ ] 保管費用の負担者及び金額を明記し、無償・無期限保管になっていないか
- [ ] 補修費用の負担区分(経年劣化と受託者起因の損傷)を明確にしているか
- [ ] 第三者への貸与・転用禁止を定めているか
- [ ] 返還及び廃棄の手続・費用負担を明記しているか
- [ ] 不可抗力による滅失・毀損時の損害分担について協議規定を置いているか
- [ ] 下請法第4条第2項第3号の不当な経済上の利益提供要請に該当しないか確認したか
- [ ] 秘密保持条項を金型の構造・仕様に及ぶ形で定めているか
- [ ] 定期報告義務など保管状況を発注者が把握できる仕組みを設けたか
- [ ] 管轄裁判所の指定が実務上適切な場所になっているか