紛争が生じた場合の第一審の管轄裁判所を定める合意書です。専属的合意と付加的合意の違い、消費者契約での留意点を整理します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
合意管轄書
第1部: 書式本文
管轄合意書
【当事者A】(以下「甲」という。)と【当事者B】(以下「乙」という。)は、甲乙間の【原契約名称又は取引関係】に関して、以下のとおり管轄裁判所について合意する。
第1条(目的) 本合意書は、甲乙間の【原契約名称】(以下「原契約」という。)に関して生じる一切の紛争について、第一審の管轄裁判所を定めることを目的とする。
第2条(合意管轄) 甲及び乙は、原契約に関して生じる一切の紛争について、【裁判所名、例:東京地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
第3条(専属的合意管轄であることの確認) 前条の合意は、民事訴訟法第11条に定める専属的合意管轄であり、法定管轄が生じる他の裁判所への提訴を排除するものであることを甲乙確認する。
第4条(対象となる紛争の範囲) 本合意書が適用される紛争の範囲は下記のとおりとする。 (1) 原契約の成立、効力、解釈及び履行に関する紛争 (2) 原契約に付随して締結される個別契約に関する紛争 (3) 原契約の終了後に生じる紛争を含む
第5条(保全処分及び強制執行への適用) 本合意書は、原契約に関する仮差押え、仮処分等の保全処分の申立て及び強制執行の手続には適用しない。これらの手続については、法令の定めるところによる管轄裁判所に申し立てることができる。
第6条(消費者契約における留意) 乙が消費者契約法第2条第1項に定める消費者に該当する場合、本合意書の効力は同法及び関連する法令の規律に従う。
第7条(合意管轄の変更) 本合意書に定める管轄裁判所は、甲乙の書面による合意によらなければ変更することができない。
第8条(原契約との関係) 本合意書は原契約の一部を構成するものとし、原契約が変更又は更新された場合であっても、別段の合意がない限り本合意書の効力は存続する。
第9条(協議) 本合意書に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
以上の合意を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する。
【年】年【月】月【日】日
甲 住所: 氏名又は名称: 印 乙 住所: 氏名又は名称: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:遠隔地の相手方との取引で自社所在地を管轄とする場合
自社に有利な管轄地を確保したい当事者は、専属的合意管轄であることを明確にします。
第2条(修正例) 甲及び乙は、原契約に関して生じる一切の紛争について、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
一言解説:「甲の本店所在地を管轄する」という表現は、本店移転時の解釈が問題となり得るため、具体的な裁判所名も併記することが望ましい点に留意します。
B節:対等な当事者間で中立的な管轄地とする場合
特定の当事者に有利すぎる管轄を避け、中立的な地を選ぶ場合です。
第2条(修正例) 甲及び乙は、原契約に関して生じる一切の紛争について、【中立的な地、例:大阪地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
一言解説:双方の所在地以外の中立的な地を選定することで、交渉における公平感を確保する工夫です。
C節:専属的ではなく付加的合意管轄とする場合
法定管轄も残しつつ、選択肢を追加したい場合の修正です。
第2条(修正例) 甲及び乙は、原契約に関して生じる一切の紛争について、【裁判所名】を第一審の管轄裁判所の一つとすることに合意する。ただし、この合意は民事訴訟法上の法定管轄を排除する専属的合意管轄ではなく、付加的合意管轄とする。
一言解説:専属的合意管轄とすると法定管轄が排除されるため、選択肢を残したい場合は付加的合意管轄である旨を明記します。
D節:複数の契約にまたがる取引の場合
基本契約と個別契約が併存する場合、適用範囲を明確にします。
第4条(修正例) 本合意書は、原契約及び原契約に基づき締結される全ての個別契約、覚書その他の合意書に関する紛争に適用する。
一言解説:個別契約ごとに管轄合意を結び直す手間を省くため、基本契約段階で包括的に定める例です。
E節:消費者取引を含む可能性がある場合
事業者間取引を前提としつつ、消費者が関与する可能性を考慮する場合です。
第6条(修正例) 乙が消費者契約法第2条第1項の消費者に該当する場合、本合意書に基づく専属的合意管轄の定めは、乙が当該裁判所以外の裁判所に訴えを提起することを妨げない任意的なものとして扱う。
一言解説:消費者契約においては専属的合意管轄が消費者に不利に働く場合、消費者契約法第10条により無効と判断されるリスクがあるため、任意的な扱いとする配慮です。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面
継続的な取引関係にある事業者間で、将来紛争が生じた場合の訴訟提起先をあらかじめ明確にしておきたい場合に使用します。遠隔地の取引先との契約や、国内で複数拠点を持つ当事者間の契約において、訴訟の予見可能性を高めるために広く用いられます。
使ってはいけない場面
相手方が消費者契約法上の消費者に該当する取引において、事業者の本店所在地のみを専属的合意管轄とし、消費者にとって著しく不利益な内容とする場合には、消費者契約法第10条により当該条項が無効と判断されるリスクがあります。また、労働契約に関する紛争については、労働契約法等の趣旨や個別労働関係紛争の性質上、通常の商事契約と同様の合意管轄条項をそのまま用いることは適切でない場合があります。
根拠法令
合意管轄については民事訴訟法第11条が規定しており、第一審に限り、書面による合意によって管轄裁判所を定めることができます。専属的合意管轄と付加的合意管轄の区別は条項の文言によって解釈されるため、いずれを意図するか明確に記載する必要があります。消費者契約における不当条項規制については消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)が関係し、消費者契約においては専属的合意管轄条項の有効性が個別に問題となることがあります。
よくある失敗と条項上の対策
- 「管轄裁判所とする」とだけ記載し、専属的か付加的かが不明確なため、後日いずれの意味かで争いになる失敗があります。対策として第3条のように専属的合意管轄であることを明記します。
- 保全処分や強制執行の手続にまで本合意が及ぶかが不明確なまま契約書に組み込まれ、緊急を要する保全処分の申立て先で混乱が生じる失敗があります。対策として第5条で適用対象外であることを明記します。
- 相手方が消費者に該当する可能性を考慮せず、事業者間取引を前提とした専属的合意管轄条項をそのまま使用し、後日条項の有効性が争われる失敗があります。対策として第6条・E節のように消費者契約に関する留意事項を明記します。
管轄裁判所の選定は訴訟提起時の実務的な負担やコストに直結するため、取引の性質、当事者の所在地、想定される紛争類型を踏まえ、個別事案は専門家に確認のうえ決定してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- 対象となる契約・取引を明確にしたか
- 管轄裁判所を具体的な裁判所名で特定したか
- 専属的合意管轄か付加的合意管轄かを明記したか
- 対象となる紛争の範囲を明確にしたか
- 保全処分・強制執行への適用の有無を明記したか
- 相手方が消費者に該当する可能性を検討したか
- 民事訴訟法第11条の要件(書面による合意)を満たしているか確認したか
- 契約の変更・更新時の本条項の存続について明記したか
- 指定した裁判所が訴訟提起時に実務上便宜であるか確認したか
- 国際取引の場合、国際裁判管轄の考え方も別途確認したか
- 記名押印者の代表権限を確認したか
- 社内の紛争対応部署と管轄地選定の方針を共有したか