取引先と共同で環境負荷低減に取り組む方針を確認する覚書です。省資源、化学物質管理、報告と改善要請の手続を定めます。実務で迷いやすい記載箇所には解説コメントを付しています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
環境配慮に関する覚書(取引先間)
第1部: 書式本文
【発注企業】(以下「甲」という。)と【取引先】(以下「乙」という。)は、両者間の【基本取引契約(締結年月日)】に基づく継続的取引に関し、環境負荷低減の取組みについて、次のとおり覚書を締結する(以下「本覚書」という。)。
第1条(目的) 本覚書は、甲及び乙が事業活動に伴う環境負荷を低減し、持続可能なサプライチェーンを構築することを目的とする。
第2条(基本方針) 甲及び乙は、環境基本法第8条に定める事業者の責務を踏まえ、次の各号に掲げる方針に基づき事業活動を行う。 (1) 省資源・省エネルギーの推進 (2) 化学物質の適正な管理及び情報開示 (3) 温室効果ガス排出量の把握及び削減 (4) 廃棄物の削減及びリサイクルの推進
第3条(省資源への取組み) 乙は、甲に供給する製品又は部材の製造工程において、原材料の使用量削減、再生材の利用拡大及び包装資材の簡素化に努める。乙は、これらの取組状況を年【1】回、甲に報告する。
第4条(化学物質管理) 1. 乙は、甲に供給する製品又は部材に含有される化学物質について、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化学物質排出把握管理促進法、いわゆるPRTR法)に基づく対象化学物質の排出量・移動量を適切に把握し、甲の求めに応じて情報を提供する。 2. 乙は、対象化学物質の管理状況に重大な変更が生じた場合、速やかに甲に通知する。
第5条(温室効果ガス排出量の把握・報告) 1. 乙は、甲が地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく温室効果ガス算定・報告・公表制度その他のサプライチェーン排出量(スコープ3)算定を行うために必要な範囲で、乙の事業活動に伴う温室効果ガス排出量に関するデータを、甲の指定する様式により年【1】回報告する。 2. 前項のデータ提供は、乙にとって過度な負担とならない合理的な範囲とし、具体的な報告項目は別紙【スコープ3報告様式】のとおりとする。
第6条(調査及び報告の要請) 甲は、乙の環境負荷低減の取組状況を確認するため、乙に対し必要な資料の提出又は説明を求めることができる。乙は、正当な理由なくこれを拒まない。
第7条(改善要請) 1. 甲は、乙の環境配慮の取組みが本覚書の基本方針に照らして著しく不十分と認める場合、乙に対し書面で改善を要請することができる。 2. 乙は、前項の改善要請を受けたときは、【〇】日以内に改善計画を甲に提示し、誠実に対応する。
第8条(取引条件への反映) 甲は、乙の改善状況を踏まえ、既存の取引基本契約に定める発注数量、単価その他の取引条件の見直しについて協議することができる。ただし、本覚書に基づく要請のみを理由として、乙に不当な不利益を与える取引条件の変更を強制するものではない。
第9条(相互協力) 甲及び乙は、環境負荷低減に関する情報、技術及びノウハウの共有に努め、共同での改善活動の実施について協議することができる。
第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本覚書に基づき取得した相手方の営業上・技術上の情報を、環境配慮の取組みの目的以外に使用せず、第三者に開示しない。
第11条(有効期間) 本覚書の有効期間は、締結日から【1】年間とする。期間満了の【1】か月前までにいずれかの当事者から書面による終了の申出がない限り、同一条件でさらに【1】年間自動更新するものとし、以後も同様とする。
第12条(協議) 本覚書に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
【年月日】
甲(発注企業) 【住所】【氏名又は名称】 印 乙(取引先) 【住所】【氏名又は名称】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:発注企業(甲)の視点
発注企業は、サプライチェーン排出量の算定に必要なデータを乙から確実かつ継続的に得られる仕組みを重視する。
Before(乙提示の原案・第5条1項): 「乙は、可能な範囲で温室効果ガス排出量に関するデータを提供する。」
After(甲修正案): 「乙は、甲が指定する算定基準(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の算定方法を準用する。)に基づき、毎事業年度終了後【60】日以内に排出量データを甲所定の様式で提出する。データの正確性について乙は合理的な根拠資料を保持し、甲の求めに応じて開示する。」 一言解説:「可能な範囲で」という努力義務では実務上データが集まらないことが多いため、提出期限・様式・根拠資料の保持を具体的に定めることが望ましい。
また、甲は改善要請の実効性を確保するため、第7条に「改善計画が提示されない場合又は改善が認められない場合、甲は次期契約更新時の取引条件の見直しを検討する」旨を追記することを検討する。
B節:取引先(乙)の視点
取引先は、過度なデータ提供義務や、環境配慮を口実にした一方的な取引条件変更を警戒する。
Before(甲提示の原案・第8条): 「甲は、乙の取組状況に応じて取引条件を随時変更することができる。」
After(乙修正案): 「甲は、乙の取組状況を踏まえて取引条件の見直しを協議することができるものとし、当該協議は既存の取引基本契約及び下請代金支払遅延等防止法その他関係法令に従って行うものとする。本覚書は、既存の取引基本契約に定める対価の減額その他不利益な取扱いを甲が一方的に行う根拠とはならない。」 一言解説:環境配慮の取組みを理由とする取引条件の一方的変更は、優越的地位の濫用に該当するおそれがあるため、既存契約及び関係法令の枠内であることを明記しておくことが重要である。
さらに、乙はデータ提供の負担軽減のため、第5条2項に「甲が求める報告項目は、経済産業省・環境省が示すサプライチェーン排出量算定に関するガイドラインに準拠したものに限る」旨を追記することが考えられる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面:継続的な取引関係にある企業間で、環境負荷低減の方針を共有し、化学物質管理やスコープ3排出量データの授受の枠組みを整備したい場合に使用する。基本取引契約に付随する覚書として位置づけることを想定している。
使ってはいけない場面:本覚書は努力義務・協力義務を中心とする性質のものであり、これのみを根拠に取引先に一方的な設備投資や仕様変更を強制する場面には適さない。強制力を伴う義務を課す場合は、基本取引契約本体の改定や個別合意によることが望ましい。
根拠法令:環境基本法第8条(事業者の責務)、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)、地球温暖化対策の推進に関する法律(温室効果ガス算定・報告・公表制度)。なお、スコープ3報告そのものを直接義務付ける法令は現時点で存在せず、実務上の要請・任意の情報開示枠組みとして整理されている点に留意する。
よくある失敗と対策: 1. データ提供義務を「可能な範囲で」等の抽象的な努力義務にとどめ、実際の算定に必要な情報が得られない。→提出期限・様式・算定基準を具体的に定める(第5条)。 2. 改善要請と取引条件見直しの関係が曖昧で、優越的地位の濫用と評価されるリスクを残す。→取引条件の見直しは既存契約及び関係法令の枠内であることを明記する(第8条)。 3. 秘密保持の範囲を定めずに機微な排出量・化学物質データを授受し、情報漏洩のリスクを高める。→第10条で使用目的・開示禁止を明確化する。
取引先の業種・規模によって現実的に対応可能なデータ範囲は異なるため、個別の事案については弁護士・行政書士等の専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 既存の基本取引契約との関係(本覚書が付随するものであることの明記)を確認したか
- [ ] 化学物質管理に関する報告義務の対象範囲を具体的に定めたか
- [ ] スコープ3排出量データの提出期限・様式を明記したか
- [ ] データ提供が乙にとって過度な負担とならない範囲か確認したか
- [ ] 改善要請の手続(期限・改善計画の提示)を定めたか
- [ ] 取引条件の見直しが既存契約・関係法令の枠内であることを明記したか
- [ ] 秘密保持義務の範囲を定めたか
- [ ] 有効期間及び自動更新条項の要否を確認したか
- [ ] 優越的地位の濫用に該当しうる表現がないか見直したか
- [ ] 別紙(報告様式)の添付を確認したか