専門家に書籍や教材の監修を依頼する場面の契約書。監修者表示は著作権法第19条の氏名表示権を踏まえ、責任範囲と報酬を明記します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
監修契約書
第1部: 書式本文
監修契約書
【出版社又は制作会社名】(以下「甲」という)と【監修者名】(以下「乙」という)は、甲が制作する【書籍/教材/番組】「【作品名】」(以下「本作品」という)の監修業務に関し、次のとおり契約を締結する。
第1条(監修業務の内容) 乙は甲に対し、本作品について次の各号の監修業務(以下「本業務」という)を行う。 (1) 本作品の企画段階における専門的助言 (2) 原稿・台本・構成案(以下「本原稿」という)の専門的正確性の確認 (3) 誤り又は不適切な表現の指摘及び修正案の提示
第2条(監修の範囲及び責任の限界) 1. 乙が行う監修は、本原稿のうち乙の専門分野に関する事実関係及び学術的・専門的正確性の確認に限られるものとし、本作品全体の構成、表現の巧拙、文体その他編集上の事項は乙の監修対象に含まれない。 2. 甲は、乙の監修対象範囲を本原稿中の該当箇所として乙にあらかじめ明示するものとし、乙は明示された範囲についてのみ確認・助言の義務を負う。 3. 本作品の最終的な内容決定及び公表の可否は、甲の責任と判断において行うものとし、乙は最終稿の内容について著作者としての責任を負わない。
第3条(監修者の表示) 1. 甲は、本作品において乙を監修者として表示する。表示の位置、文言(「監修」「監修協力」等)及び書体は甲乙協議のうえ定める。 2. 乙は、甲が事前に乙の確認を得た表示方法に従い、自己の氏名及び肩書を本作品に表示することを承諾する。
第4条(監修結果の反映) 1. 甲は、乙から提示された修正案について、これを本作品に反映するか否かを判断する権限を有する。 2. 甲が乙の修正案を採用しない場合であって、当該箇所に乙の専門分野における明白な誤りが残ると乙が判断するときは、乙は監修者名の表示から当該箇所を除外するよう甲に求めることができる。
第5条(監修料) 甲は乙に対し、本業務の対価として監修料【 】円(税別)を、【本作品刊行時/月払い/納品完了後】に、乙の指定する口座に振り込んで支払う。
第6条(監修スケジュール) 乙は、甲があらかじめ提示するスケジュールに従い、原稿受領後【 】日以内に監修結果を甲に提出する。
第7条(著作者人格権との関係) 1. 監修者表示は、著作権法第19条に定める氏名表示権の趣旨を踏まえ、本作品の著作者(甲又は甲の指定する執筆者)とは別の立場での表示であることを甲乙双方が確認する。 2. 乙は、本作品の著作者としての権利(著作権及び著作者人格権)を主張しない。ただし、乙が独自に執筆した監修コラム、解説文等が本作品に含まれる場合、当該部分の著作者人格権は乙に留保される。
第8条(秘密保持) 乙は、本業務を通じて知り得た甲の未公表の企画内容その他の秘密情報を、甲の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。
第9条(利益相反の回避) 乙は、本作品の内容と直接競合する他の作品の監修を新たに引き受けようとする場合、事前に甲に通知し、甲の懸念があるときは協議のうえ対応を決定する。
第10条(監修結果の誤りに関する責任) 乙が本業務において故意又は重過失により明白に誤った助言を行い、これにより甲に損害が生じた場合、乙はその損害を賠償する責任を負う。ただし、乙の責任は監修料相当額を上限とする。
第11条(契約期間) 本契約は締結日から本作品の初版刊行日又は放送・公開日をもって終了する。ただし、第3条、第7条、第8条及び第10条の規定は本契約終了後も存続する。
第12条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争は【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 出版社・制作会社向け
出版社・制作会社の立場では、監修者の確認漏れによる誤情報の公表リスクを最小化しつつ、監修責任の所在を明確にしておくことが重要である。
書き換え例(第2条に追加): 「甲は、乙による監修が完了していない箇所を含む原稿を、乙の書面による承諾なく公表してはならない。監修未了箇所を含めて公表した場合、甲は当該箇所について乙の監修を経ていない旨を明示するものとする。」
一言解説: 監修完了前の原稿がそのまま公表されると、読者・視聴者は監修者による専門的保証があるものと誤認し得るため、未監修箇所の公表制限と明示義務を課すことでリスクを分離する。
B節: 監修者(専門家)向け
監修者の立場では、自らの専門分野を超える事項について責任を問われないようにすること、及び意に反する形での氏名表示を防ぐことが最重要の関心事となる。
書き換え例(第4条に追加): 「乙は、甲が乙の修正案を採用せず、かつ乙が指摘した誤りが是正されないまま公表された場合、当該事実を理由として本契約を将来に向かって解除することができる。」
一言解説: 監修者の氏名表示権(著作権法第19条)は、本人の意に反する氏名の利用を防ぐ機能を持つが、契約上も「誤りが是正されない場合の離脱権」を明記することで、専門家としての信用毀損リスクを実効的に回避できる。
C節: 書籍・教材・番組対応
媒体によって監修の性質は異なる。書籍では原稿の正確性確認が中心だが、番組では収録内容の事後確認が困難な場合があり、教材では改訂版発行時の再監修の要否が論点となる。
書き換え例(番組の場合、第6条に追加): 「乙は、収録内容が事前に確認した台本と齟齬する場合に備え、収録後の完成版(プレビュー版)を放送・配信前に確認する機会を求めることができる。甲は合理的な範囲でこれに応じる。」
一言解説: 生放送や編集後のナレーション追加等により台本と完成版が異なることがあるため、収録後のプレビュー確認機会を契約上確保しておくことが、番組監修特有の実務対応として有効である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
この書式を使う場面/使ってはいけない場面
本書式は、専門知識を有する第三者(研究者、実務家、専門機関等)に対し、書籍・教材・番組等のコンテンツの専門的正確性の確認を依頼する場面を想定している。監修者が単なる肩書貸しとして名前のみを提供し実質的な確認作業を行わない、いわゆる「名義貸し監修」を目的とする場合には、監修者としての責任の所在が不明確になり、後日の誤情報公表時に紛争化しやすいため、本書式をそのまま用いるべきではなく、業務内容を実態に即して見直す必要がある。
根拠法令の解説
監修者表示は、著作権法第19条が定める氏名表示権(著作者がその著作物の公表に際し実名・変名を表示し、又は表示しないことを決定する権利)とは本来別個の問題である。監修者は通常、本作品自体の著作者ではなく、監修という役務提供の対価として名前を掲載される立場にあるため、監修者名の表示は契約上の合意事項として整理するのが実務上一般的である。もっとも、監修者が独自に執筆した解説やコラムが本作品に組み込まれる場合、その部分については監修者自身が著作者となり、著作者人格権(氏名表示権を含む)が発生する点に注意を要する。第7条第2項はこの区別を明確にする趣旨である。
実務でよくある失敗と対策
第一に、監修の対象範囲(全体か一部か)を明示しないまま契約し、公表後に監修者が関与していない箇所の誤りについてまで監修者が責任を問われる事態が生じる。対策として第2条のように監修対象範囲を原稿上で明示する運用を義務付ける。
第二に、監修者の修正案が採用されないまま公表され、専門家としての信用が損なわれるケースがある。対策として第4条第2項のように、不採用時の表示除外請求権を設ける。
第三に、監修料の支払時期を「刊行時」とだけ定め、企画中止や刊行延期時の対価が宙に浮くケースがある。対策として、着手金と完了時支払を分ける等、支払時期を具体的かつ現実的に定める。
個別事案は専門家に確認してください。特に監修者の責任の上限や、誤情報公表時の対外的な責任分担は、媒体の性質や監修者の専門分野により個別に検討する必要がある。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 監修の対象範囲(全体か特定分野・特定箇所か)を明示したか
- [ ] 監修者表示の位置・文言・書体について事前確認の手続を定めたか
- [ ] 監修結果を甲が採用しない場合の取扱い(表示除外請求等)を定めたか
- [ ] 監修未了箇所を公表する場合の制限・明示義務を定めたか
- [ ] 監修料の金額及び支払時期(着手金・完了時等)を明記したか
- [ ] 監修スケジュール(原稿受領から回答までの日数)を定めたか
- [ ] 監修者が独自に執筆した部分の著作者人格権の帰属を整理したか
- [ ] 利益相反(競合作品の監修)への対応を定めたか
- [ ] 監修者の責任範囲及び賠償額の上限を定めたか
- [ ] 番組の場合、収録後の完成版確認機会を設けたか