係争物に関する仮処分や地位を定める仮処分を求める申立書です。被保全権利の疎明と保全の必要性の記載方法を示します。相手方との認識のずれを防ぐ具体的な記載例を示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
仮処分命令申立書
第1部: 書式本文
仮処分命令申立書
【令和◯年◯月◯日】
【地方裁判所名】民事保全部 御中
債権者 【債権者氏名または商号】 債権者代理人 弁護士 【氏名】
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 被保全権利の要旨 【権利の内容(例:通行妨害禁止請求権、地位保全請求権等)】 申立ての趣旨に対応する仮処分の種類 【係争物に関する仮処分・仮の地位を定める仮処分】
第1 申立ての趣旨 1 債務者は、別紙物件目録記載の土地について、債権者の通行を妨害してはならない。 2 申立費用は債務者の負担とする。 との裁判を求める(係争物に関する仮処分の例)。
【仮の地位を定める仮処分の場合の記載例】 1 債務者は、債権者に対し、債務者が【令和◯年◯月◯日】付でした【解雇・契約解除等】の効力を仮に停止し、債権者を従業員(取引先)としての地位にあるものとして取り扱わなければならない。 2 申立費用は債務者の負担とする。 との裁判を求める。
第2 申立ての理由 1 被保全権利 (1) 債権者は、【権利発生原因事実(例:土地の共有持分、雇用契約上の地位等)】を有しています。 (2) 債務者は、【令和◯年◯月◯日】から、【妨害行為・不利益処分の内容】を行っています。 (3) 上記行為は、債権者の【権利の内容】を侵害するものであり、債権者は債務者に対し、【差止請求権・地位確認請求権等】を有しています。
2 保全の必要性 (1) 債務者による上記行為が継続することにより、債権者には【回復困難な損害(例:通行不能による事業継続への支障、収入途絶による生活困窮)】が生じています。 (2) 本案訴訟の確定判決を得るまでの間、現状が継続すれば、債権者の被る損害は著しく、金銭による事後的な回復では償うことができません。 (3) よって、債権者は、本案判決の確定を待たずに緊急に権利保全を図る必要があり、本申立てに及びました。
第3 疎明方法 1 甲第1号証 登記事項証明書(または雇用契約書) 2 甲第2号証 現況写真 3 甲第3号証 通知書(または解雇通知書) 4 甲第4号証 陳述書(債権者作成)
第4 添付書類 1 甲号証写し 各【◯】通 2 資格証明書 【◯】通 3 訴訟委任状 【◯】通
第5 担保について 本申立てに関する担保については、裁判所の定める額を、【金銭または支払保証委託契約締結による有価証券に代わる方法】により立てることを希望します。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 債権者の立場から
係争物に関する仮処分(通行妨害禁止等の物権的請求)の場合、被保全権利の疎明として、登記事項証明書に加え「債権者は【期間】にわたり、本件土地を【用途】のため継続的に通行してきました」という利用実績を示す記載を加える。理由は、通行権原の存否のみならず、現実の利用状況が保全の必要性の判断にも影響するため、両者を関連づけて記載することで裁判所の心証形成に資するためである。
仮の地位を定める仮処分(労働契約上の地位保全等)の場合、保全の必要性の項目において「債権者は【解雇後の期間】、収入が途絶えており、生活費の原資は【貯蓄・親族からの援助等】に限られ、本案判決確定までの生活維持が著しく困難です」のように、金銭的な困窮の程度を具体的に記載する。地位保全型の仮処分は本案の先取りに近い強い効力を持つため、単なる不利益ではなく、緊急に保全しなければ回復し難い損害であることを丁寧に説明する必要があるためである。
相手方(債務者)が法人であり、社会的影響の大きい事業を営んでいる場合には、申立ての趣旨をできるだけ限定的に構成し、「債務者は、【特定の行為】を除き、通常の事業活動を継続することを妨げられない」旨を付言することがある。仮処分は必要最小限度の内容にとどめるべきとされており、過度に広範な禁止を求めると、債務者の営業活動への影響を理由に必要性が否定されるおそれがあるためである。
B節: 債務者の立場から(保全異議を検討する場合)
債務者側で保全異議を申し立てる場合、被保全権利について「債権者主張の【通行権原・雇用契約上の地位】は【理由(時効消滅、契約の適法な解除等)】により存在しない」ことを具体的事実とともに主張する。また、保全の必要性についても「債権者の主張する損害は金銭賠償により回復可能であり、緊急に現状変更を阻止すべき事情は存在しない」ことを疎明資料とともに反論する。
緊急性が高いとして債権者が主張する事情(生活困窮等)に対しては、債務者は「債権者には【他の収入源・資産】が存在し、直ちに生活が困窮する状況にはない」ことを示す資料を提出し、保全の必要性の程度を争う。仮の地位を定める仮処分は発令後の原状回復が困難な場合があるため、必要性の要件を厳格に争う対応が求められる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
仮処分命令申立書は、金銭債権以外の権利について、本案訴訟の確定を待っていては権利の実現が困難になる、または著しい損害・急迫の危険を避ける必要がある場合に、現状の維持(係争物に関する仮処分)または暫定的な権利関係の形成(仮の地位を定める仮処分)を求めるために使用する。他方、被保全権利が金銭債権である場合には仮処分ではなく仮差押えを用いるべきであり、また、本案での立証が著しく困難な事案や、金銭賠償で十分に救済が図れる事案では、保全の必要性が認められにくく、申立てを避けるべき場合がある。
根拠法令として、民事保全法23条1項は、係争物に関する仮処分命令について、その現状の変更により債権者が権利を実行できなくなるおそれがあるとき、または権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる旨を定める。同条2項は、仮の地位を定める仮処分命令について、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるために必要があるときに発することができる旨を規定している。また、同法24条は、仮処分命令の内容について、係争物の現状変更を禁止し、または一定の行為を命じ、もしくは禁止する等、裁判所が相当と認める処分を命ずることができる旨を定めている。
よくある失敗の第一は、被保全権利の性質を見誤り、金銭債権の保全を仮処分の形式で申し立ててしまうことである。申立て前に被保全権利が金銭債権か、それ以外の権利かを整理し、金銭債権であれば仮差押えを選択する対策が必要である。
第二の失敗は、仮の地位を定める仮処分において、保全の必要性(著しい損害または急迫の危険)の疎明が不十分なまま、本案で争うべき実体的主張のみに終始することである。生活困窮の程度、営業継続への具体的支障等、緊急性を裏付ける客観的資料(給与明細、預金残高、取引先からの通知等)を疎明資料として添付する対策が有効である。
第三の失敗は、申立ての趣旨が過度に広範であり、必要最小限度を超える内容を求めてしまうことである。求める処分の内容を被保全権利の侵害を防止するために必要な範囲に限定し、代替的な軽い処分(部分的な差止め等)も選択肢として検討する対策により、発令の可能性を高めることができる。なお、被保全権利の構成や保全の必要性の程度、申立ての趣旨の設計については事案ごとに大きく異なるため、個別事案については弁護士等の専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- 被保全権利が金銭債権ではなく、仮処分になじむ権利であることを確認したか
- 係争物に関する仮処分か仮の地位を定める仮処分か、類型を明確にしたか
- 申立ての趣旨が必要最小限度の範囲にとどまっているか
- 被保全権利の発生原因事実が具体的に記載されているか
- 保全の必要性(著しい損害または急迫の危険)を裏付ける客観的資料があるか
- 疎明資料(甲号証)が申立ての理由の各段落と対応して整理されているか
- 相手方が法人の場合、事業活動への影響を過度に及ぼさない内容になっているか
- 担保額について事前に資金準備を検討したか
- 代理人による申立ての場合、訴訟委任状に保全命令申立てに関する授権が含まれているか
- 本案訴訟の提起予定または見通しを申立書に記載したか
- 発令後の執行方法(公示・執行官送達等)について確認したか
- 仮の地位を定める仮処分の場合、審尋期日での対応(陳述準備)を想定しているか
- 発令により生じ得る相手方の損害と担保額の関係を検討したか
- 疎明資料の写真・書面等が撮影日時や作成日時とともに整理されているか