納品後に発覚した不具合の修補範囲・期間・費用負担を取り決める覚書。民法第562条以下の契約不適合責任と第637条の期間制限を前提に運用を具体化。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
契約不適合(瑕疵)対応に関する覚書
第1部: 書式本文
第1条(前提事実) 甲(ユーザー)及び乙(ベンダー)は、【原契約名/締結日】に基づき乙が甲に納品した【成果物名】(以下「本成果物」という。)について、【発見日】に【不具合内容】が発見されたことを確認する。
第2条(契約不適合の該当性) 甲及び乙は、前条の事象が、民法第562条第1項にいう「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」に該当することを相互に確認する。
第3条(修補の方法及び範囲) 乙は、自己の費用負担で、【修補内容】を【期限】までに実施する。修補の実施にあたり、甲は乙に対し必要な作業環境及び情報を提供する。
第4条(代替手段の選択) 前条の修補が困難又は相当でないと甲が合理的に判断する場合、甲は民法第562条第1項ただし書に基づき、〔選択A: 代替物の引渡し/選択B: 不足分の追完/選択C: 代金減額〕を請求することができる。
第5条(代金減額) 甲が民法第563条に基づき代金減額を請求する場合、減額の金額は、不適合の程度に応じ、甲乙協議のうえ【算定方法】により定める。
第6条(修補期間中の運用継続) 修補期間中、本成果物の運用継続に支障が生じるおそれがある場合、乙は甲と協議のうえ、代替措置又は暫定対応を講じる。
第7条(追加の損害賠償) 修補によっても填補されない損害が生じた場合、甲は、民法第564条に基づき、第415条の債務不履行に基づく損害賠償を乙に請求することができる。ただし、乙の責めに帰することができない事由による場合はこの限りでない。
第8条(通知期間の確認) 甲は、本条項に基づく請求を、民法第637条第1項に定める「不適合を知った時から1年以内」に乙に通知するものとし、当事者は本覚書締結時点で当該期間内であることを確認する。
第9条(修補完了の確認) 乙による修補が完了したときは、甲は速やかに動作確認を行い、【〇営業日】以内に修補完了確認書を交付する。甲が期限内に異議を述べないときは、修補が完了したものとみなす。
第10条(再発防止) 乙は、本件不具合の原因分析結果及び再発防止策を書面で甲に提出する。
第11条(既発生の損害の取扱い) 本覚書締結前に既に甲に生じた損害(業務停止による逸失利益等)の取扱いについては、別途甲乙協議のうえ定める。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. ベンダー向け
A-1. 修補上限額(責任制限)の追加
修正条文例:「乙が本覚書に基づき負担する損害賠償額は、原契約に定める本成果物の対価総額を上限とする。ただし、乙の故意又は重過失による場合はこの限りでない。」 一言解説: 民法上、責任制限特約自体は原則有効だが、故意・重過失には及ばないことを明記し、限定の有効性を高める修正である。
A-2. 甲の協力不履行による免責
修正条文例:「甲が正当な理由なく第3条の修補に必要な作業環境の提供を拒み、又は遅延した場合、当該遅延期間について乙は履行遅滞の責任を負わない。」 一言解説: 修補の遅延がユーザー側の非協力に起因する場合の免責を明確にする修正である。
B. ユーザー向け
B-1. 修補期間の上限設定
修正条文例:「乙による修補は、本覚書締結日から【〇日】以内に完了しなければならず、当該期間内に完了しない場合、甲は民法第563条に基づき代金減額を請求できる。」 一言解説: 修補の長期化を防ぐため、期限徒過時に代金減額請求へ移行できることを明記する修正である。
B-2. 業務停止による損害の填補
修正条文例:「本件不具合により甲の業務が停止した期間に生じた逸失利益についても、乙は第7条の損害賠償の対象に含まれることを確認する。」 一言解説: 損害賠償の範囲に業務停止による逸失利益が含まれることを明示し、後日の争いを防ぐ修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、システム開発やソフトウェア納品後に不具合が発覚し、原契約に基づく契約不適合責任(旧法下の瑕疵担保責任に相当)の内容を、当事者間で個別に具体化・合意する場面で用いる。不具合の原因や責任の所在自体に激しい争いがあり、責任の有無から交渉する必要がある場合には、本覚書のように責任を前提とした合意書ではなく、まず責任原因の調査・協議を先行させるべきである。
根拠法令 民法第562条第1項は、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合、注文者(買主)は履行の追完として目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しを請求できる旨を定める。同法第563条は、追完がない場合又は追完が不能な場合等における代金減額請求を、同法第564条は追完請求・代金減額請求をしても損害賠償請求(第415条)や解除(第541条・第542条)を妨げない旨を定める。請負契約における契約不適合責任については、平成29年民法改正により瑕疵担保責任の規定(旧634条・635条)が削除され、売買の契約不適合責任の規定(第559条により準用)に一本化された。また、民法第637条第1項は、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は当該不適合を理由として履行の追完請求等をすることができなくなる旨を定める(除斥期間)。
実務でよくある失敗と対策 第一に、不具合発見から時間が経過した後に本覚書を締結し、民法第637条第1項の1年の期間制限に抵触するおそれがあることに気づかない失敗がある。第8条のように通知期間内であることを当事者間で確認しておくことが望ましい。第二に、修補の範囲や方法を具体的に定めず「速やかに修補する」とだけ合意し、修補が完了したか否かで再び争いになる失敗がある。第3条及び第9条のように修補内容と完了確認の手続を具体化する必要がある。第三に、損害賠償の範囲について、修補費用のみを想定し、業務停止による逸失利益等の間接的な損害が含まれるかどうかを明記しなかったため、後日の請求範囲を巡って紛争化する失敗がある。B-2のように損害の範囲を明示することが対策となる。
第四に、修補完了確認書の交付をもって以後の請求を一切できないものと解釈できる条項を設けてしまい、修補完了後に別の不具合が新たに発見された場合の対応根拠を失う失敗もある。第9条のみなし完了規定は、あくまで当該修補箇所についての完了確認であることを明確にし、別個の不具合には別途本覚書の枠組みが適用されることを確認しておく必要がある。
契約不適合の該当性判断や損害額の算定は個別の契約内容と事実関係に強く依存するため、通知期間の起算点も含め専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 不具合の内容及び発見日を具体的に特定したか
- [ ] 契約不適合責任(民法第562条以下)の該当性を当事者間で確認したか
- [ ] 民法第637条第1項の通知期間(1年)内であることを確認したか
- [ ] 修補の方法・範囲・期限を具体的に定めたか
- [ ] 修補が困難な場合の代替手段(代替物引渡し・代金減額)を定めたか
- [ ] 修補期間中の運用継続に関する暫定対応を定めたか
- [ ] 損害賠償の範囲(逸失利益を含むか)を明記したか
- [ ] 責任制限(上限額)を設ける場合、故意・重過失を除外しているか確認したか
- [ ] 修補完了の確認手続(確認書の交付・みなし完了)を定めたか
- [ ] 再発防止策の提出義務を定めたか