回収不能部分を切り捨てて残額の一括支払を受ける場面の合意書。民法第519条の債務免除の効果と、貸倒処理を意識した免除額の特定文言を収めます。

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貸付金の一部免除に関する合意書

第1部: 書式本文

【債権者商号】(以下「甲」という。)と【債務者商号】(以下「乙」という。)とは、甲の乙に対する貸付金債権の一部免除に関し、次のとおり合意する(以下「本合意」という。)。

第1条(対象債権及び残高の確認) 甲乙は、【〇〇年〇〇月〇〇日】現在における甲の乙に対する【〇〇年〇〇月〇〇日】付金銭消費貸借契約に基づく貸付金債権(元本、既発生利息及び遅延損害金を含む。以下「本件債権」という。)の残高が金【 】円であることを相互に確認する。

第2条(免除額の特定) 甲は乙に対し、本件債権のうち金【 】円(以下「本件免除額」という。)を免除し、乙はこれを了承する。免除後の残債権額は金【 】円(以下「本件残存債権」という。)とする。

第3条(免除の効力発生時期) 本件免除額に係る免除の意思表示は、本合意締結日をもって効力を生じ、以後、乙は本件免除額について弁済義務を負わない。本免除は民法第519条に定める債務免除に該当する。

第4条(本件残存債権の弁済) 乙は、本件残存債権につき、【〇〇年〇〇月〇〇日】限り、甲の指定する口座に振り込む方法により一括して支払う。

第5条(免除の前提条件) 本免除は、乙が本合意締結日から【 】日以内に本件残存債権の全額を支払うことを条件として効力を生じるものとし、乙が当該支払を怠った場合、本免除は当然に効力を失い、甲は本件債権の全額(免除額を含む。)について請求することができる。

第6条(担保及び保証への影響) 本件債権に付されていた担保及び保証は、本件残存債権を担保する範囲でその効力を存続する。本件免除額に対応する部分の担保・保証は、免除の効力発生と同時に消滅する。

第7条(税務上の取扱いに関する確認) 甲及び乙は、本免除が甲において貸倒損失又は寄附金として、乙において債務免除益として、それぞれ税務上の取扱いを受ける可能性があることを相互に確認し、各自の責任において適切な税務処理を行う。

第8条(清算条項) 甲及び乙は、本件債権に関し、本合意に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。

第9条(協議及び合意管轄) 本合意に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。

【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】

(甲) 住所:【     】 商号:【     】 代表者:【     】 印 (乙) 住所:【     】 商号:【     】 代表者:【     】 印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 債権者向け書き換え

A-1. 貸倒処理を目的として回収不能部分を切り捨てる場面

第7条追加例:「甲は、本免除が法人税基本通達9-6-1に定める形式基準による貸倒れに該当するか、乙の資産状況を示す資料に基づき自ら判断するものとする。」 解説: 貸倒損失として損金算入するには税務上の要件充足が必要であるため、乙の資力状況等を裏付ける資料の保存を促す。

A-2. 免除と引き換えに乙の事業継続へのコミットメントを求める場面

第5条修正例:「本免除の効力は、乙が本合意締結後3年間、主要事業を継続し甲へ四半期ごとに事業状況を報告することを条件とする。」 解説: 単なる債権放棄ではなく、事業継続による残存債権の回収可能性向上を条件とする設計とする。

B. 債務者向け書き換え

B-1. 残存債権の一括払いが困難な場面

第4条修正例:「乙は、本件残存債権を【〇〇年〇〇月】から毎月末日限り、金【 】円ずつ【 】回に分割して支払う。」 解説: 免除を受けても残額の一括払いが困難な債務者のために、分割弁済への変更で実行可能性を高める。

B-2. 免除の前提条件を緩和したい場面

第5条修正例:「乙が支払期限までに残存債権の80パーセント以上を支払った場合、本免除の効力は維持されるものとし、甲は不足額についてのみ改めて協議する。」 解説: 全額支払いを免除の絶対条件とすると些少な不足でも免除全体が失効するリスクがあるため、一部未達でも協議による救済の余地を残す。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、債務者の資力悪化等により回収可能性が乏しい貸付金の一部を放棄し、残額の確実な回収を図る場面で用いる。単に返済条件(期日・分割方法)を変更するにとどまる場合は、免除を伴わない金銭消費貸借契約変更契約書(リスケジュール)を用いるべきであり、本書式はなじまない。また免除額が高額で贈与とみなされるおそれがある場合は、相続税法上のみなし贈与課税(相続税法第8条)にも留意する必要がある。

根拠法令 債務免除は民法第519条により、債権者が債務者に対し債務を免除する意思表示をすることでその効力を生じる単独行為である(債務者の承諾は要件ではないが、本書式では合意の形式をとり紛争を予防する)。税務上は、免除を行う債権者側で貸倒損失(法人税法第22条第3項、法人税基本通達9-6-1ないし9-6-3)又は寄附金(法人税法第37条)として、免除を受ける債務者側で債務免除益(法人税法第22条第2項)として、それぞれ課税関係が生じ得る。個人間の免除の場合は、免除益が乙にとって一時所得等として所得税の課税対象となる可能性や、相続税法上のみなし贈与に該当する可能性がある。

実務でよくある失敗と対策 第一に、免除額と残存債権額の内訳を明確にせず、後日「どこまで免除されたのか」が争いになる失敗がある。第1条・第2条のように金額を具体的に特定する。第二に、免除を無条件で行い、残存債権についても回収できないまま終わる失敗がある。第5条のように残存債権の支払を条件とする設計にする。第三に、税務上の取扱い(貸倒損失の要件、債務免除益課税)を検討せずに合意し、後日税務調査で否認されるリスクがある。第7条のように税務処理は各自の責任で行う旨を明記し、事前に税理士へ確認するよう促す。第四に、グループ会社間の免除において、免除が実質的な利益供与や寄附金として問題視されるにもかかわらず、対価関係や事業上の必要性を裏付ける資料を残していない失敗もある。免除に至った経緯や乙の経営状況を示す資料を保存しておくことが望ましい。個別の税務判断は専門家に確認することが望ましい。

免除額の設定にあたっての留意点 免除額を決定するにあたっては、乙の弁済能力を客観的に把握することが重要である。資産・負債の状況、事業の継続可能性、他の債権者への弁済状況等を踏まえずに免除額を決定すると、後日、免除が過大又は過小であったとして甲の株主や取締役から責任を問われる可能性もある。特に甲が法人である場合は、取締役の善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)の観点からも、免除額の決定プロセスを書面で記録しておくことが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 本件債権の残高(元本・利息・遅延損害金)を正確に確認したか
  • [ ] 免除額と残存債権額を明確に区分して記載したか
  • [ ] 免除の効力発生時期を明記したか
  • [ ] 残存債権の支払条件を免除の前提条件として設計したか(条件付き免除とするか)
  • [ ] 既存の担保・保証への影響(存続範囲・消滅範囲)を確認したか
  • [ ] 貸倒損失としての損金算入要件(法人税基本通達等)を確認したか
  • [ ] 免除額が贈与とみなされるリスクがないか税理士に確認したか
  • [ ] 清算条項により免除対象債権に関する紛争を防止したか
  • [ ] 免除が高額な場合、取締役会等の社内承認手続を経たか