高齢の親の不動産や金銭を子に託して管理・承継させる場面の書式。信託法第3条の信託契約に基づき、受託者の権限と受益者連続を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
家族信託契約書
第1部: 書式本文
委託者〇〇〇〇(以下「甲」という。)と受託者〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、信託法第3条第1号に基づき、次のとおり信託契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(信託の設定) 甲は、乙に対し、別紙信託財産目録記載の財産(以下「信託財産」という。)を信託し、乙はこれを引き受ける。
第2条(信託の目的) 本信託は、甲の生活の安定及び財産の適切な管理・承継を図るとともに、甲の判断能力が低下した場合においても信託財産の管理・処分が滞ることのないようにすることを目的とする。
第3条(受益者) 本信託の当初受益者は甲とする。甲の死亡後、第二次受益者を【第二次受益者の氏名・続柄】とする。
第4条(信託財産の内容) 信託財産は、次のとおりとする。 1. 金銭 金【信託金銭額】円 2. 不動産 別紙物件目録記載の不動産
第5条(受託者の権限) 乙は、信託財産について、次の権限を有する。 1. 信託不動産の維持管理、修繕及び第三者への賃貸 2. 信託不動産の売却(受益者の書面による同意を要する場合はその旨を別途定める) 3. 信託金銭の管理及び受益者への給付のための払戻し
第6条(信託不動産の登記) 乙は、信託財産に不動産が含まれる場合、信託法第14条に基づき、当該不動産について信託を原因とする所有権移転登記及び信託登記を行う。
第7条(受益者への給付) 乙は、受益者の生活費、医療費及び介護費用に充てるため、信託財産の中から必要な金銭を受益者に給付する。
第8条(受託者の義務) 乙は、信託法第29条の善管注意義務、同法第30条の忠実義務及び同法第34条の分別管理義務を負う。
第9条(信託の計算及び報告) 乙は、毎年【時期】に信託財産の状況及び信託事務の処理状況を記載した計算書類を作成し、受益者に報告する。
第10条(受益者連続) 甲及び乙は、第二次受益者の死亡後、さらに信託を継続する場合の第三次受益者を【氏名】と定める。ただし、信託法第91条により、信託がされた時から30年を経過した後は、新たな受益者への受益権の承継は当該期間の経過後最初に受益権を取得した受益者が死亡するまでに限られる。
第11条(信託の終了) 本信託は、【信託終了事由(受益者の死亡、信託財産の消滅等)】により終了する。信託終了時の残余財産の帰属先は【帰属権利者】とする。
【契約日】
甲: 【住所・氏名】 印 乙: 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 委託者(親)向けの修正
A-1. 不動産売却への同意権の留保
追加条文例:「乙が信託不動産を売却する場合、事前に受益者の書面による同意を得なければならない。」 一言解説: 受託者に不動産処分権限を与えつつも、委託者兼受益者である本人の意向が反映されるよう、売却について同意権を留保する修正である。
A-2. 信託監督人の設置
追加条文例:「甲は、乙の信託事務の遂行を監督するため、信託監督人として【氏名】を指定する。信託監督人は、信託法第131条以下に基づき、乙に対し信託事務の状況について報告を求めることができる。」 一言解説: 受託者が親族一人であると監督機能が働きにくいため、委託者側は信託監督人の設置により受託者の権限濫用を防ぐ修正を行う。
B. 受託者(子)向けの修正
B-1. 受託者の報酬に関する規定
追加条文例:「乙は、本信託事務の処理の対価として、信託財産の中から月額金【報酬額】円の報酬を受け取ることができる。」 一言解説: 家族信託では無報酬とする例が多いが、事務負担が大きい場合、受託者側は報酬を明記することで負担に見合った対価を確保する修正を行う。
B-2. 信託財産の分別管理方法の具体化
追加条文例:「乙は、信託金銭を管理するため、乙の固有財産とは別に「委託者甲信託受託者乙」名義の信託口口座を開設し、当該口座により金銭を管理する。」 一言解説: 分別管理義務(信託法第34条)の履行を明確にし、受託者自身の財産と混同しているとの疑いを避けるための実務的な修正である。
C. 受益者向けの修正
C-1. 給付額の見直し条項
追加条文例:「受益者の生活状況又は医療・介護費用の変化に応じ、乙は受益者と協議の上、第7条の給付額を見直すことができる。」 一言解説: 固定額の給付では将来の状況変化に対応できないため、受益者側は柔軟な見直しの仕組みを求める修正を行う。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、高齢の親が、自己の判断能力が低下した場合に備え、不動産や金銭の管理・処分の権限をあらかじめ子等の家族に託し、円滑な管理と将来の承継を実現する場面で用いる。いわゆる「家族信託」または「民事信託」と呼ばれる仕組みであり、信託業法の適用を受ける信託銀行等の商事信託とは異なり、受託者が反復継続して不特定多数から信託を引き受けるものではないため、信託業の免許を要しない。ただし、受託者が対価を得て反復的に家族以外からも信託を引き受けるような実態になると信託業法上の規制対象となりうるため、あくまで特定の家族関係を基礎とした信託にとどめる必要がある。認知症等により既に判断能力を喪失している場合には、有効な信託契約を締結することができず、法定後見の申立てによることになる。
根拠法令 信託は信託法第3条第1号に基づき、委託者が受託者との間で締結する信託契約により設定することができる。受託者は、信託事務の処理にあたり善良な管理者の注意をもって行う義務(信託法第29条第2項)、専ら受益者の利益のために行動する忠実義務(同法第30条)、信託財産と固有財産及び他の信託財産とを分別して管理する義務(同法第34条)を負う。信託財産に不動産が含まれる場合、対抗要件として信託の登記をしなければ第三者に対抗できない(同法第14条)。受益者を順次指定する受益者連続型信託については、信託法第91条により、信託がされた時から30年を経過した後は、その時点で存する受益者が死亡するまでの間に限り新たな受益者への受益権の承継が認められるという期間制限があり、永続的な財産承継の指定はできない点に留意が必要である。信託の計算及び受益者への報告義務は信託法第37条に規定される。
実務でよくある失敗と対策 第一に、受託者に不動産の処分権限を包括的に与えたまま監督の仕組みを設けず、受託者による不適切な売却や使途不明金が生じても発見が遅れる失敗がある。A-1及びA-2のように同意権の留保や信託監督人の設置により監督機能を確保することが対策となる。第二に、信託金銭を受託者自身の固有口座で管理してしまい、分別管理義務(信託法第34条)違反が問題となる失敗がある。B-2のように信託口口座による分別管理を徹底することが対策となる。第三に、受益者連続の定めを永続的に設計してしまい、信託法第91条の30年ルールに抵触して意図した承継が実現しない失敗がある。第10条のように期間制限を踏まえた設計とすることが対策となる。
家族信託の設計は税務(みなし贈与課税、相続税評価)及び信託法の双方にまたがる専門性を要するため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 信託財産(不動産・金銭)の範囲を目録で特定したか
- [ ] 受益者及び第二次受益者(受益者連続の場合)を明確にしたか
- [ ] 受益者連続の定めが信託法第91条の30年ルールに抵触しないか確認したか
- [ ] 受託者の権限(不動産売却等)の範囲及び同意要件を定めたか
- [ ] 信託監督人の設置の要否を検討したか
- [ ] 信託口口座による分別管理の方法を確認したか
- [ ] 受託者の報酬の有無及び金額を定めたか
- [ ] 信託不動産の信託登記(信託法第14条)の手続を確認したか
- [ ] 受益者への定期的な計算報告の頻度を定めたか
- [ ] 信託終了事由及び残余財産の帰属先を明確にしたか