長年続いた取引基本契約を更新せず終了する際の覚書。継続的契約の解消に関する裁判例と民法第1条第2項の信義則を踏まえ、予告期間と経過措置を定めます。

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継続的取引の更新拒絶に関する覚書

第1部: 書式本文

【甲商号】(以下「甲」という。)と【乙商号】(以下「乙」という。)とは、甲乙間で【〇〇年〇〇月〇〇日】から継続してきた【対象取引の内容】に関する取引基本契約(【〇〇年〇〇月〇〇日付】締結、以下「原契約」という。)の更新拒絶及びこれに伴う経過措置について、次のとおり覚書(以下「本覚書」という。)を締結する。

第1条(更新拒絶の確認) 甲及び乙は、原契約が【〇〇年〇〇月〇〇日】(以下「契約満了日」という。)をもって期間満了となり、以後更新しないことを相互に確認する。

第2条(取引終了予定日) 甲乙間の個別の発注及び納品に基づく取引(以下「本件取引」という。)は、契約満了日をもって終了するものとする。ただし、次条に定める経過措置期間中の取引を妨げない。

第3条(経過措置期間) 1. 甲及び乙は、本件取引の急激な終了が乙の事業運営に与える影響を考慮し、契約満了日の翌日から【3】か月間(以下「経過措置期間」という。)、従前の取引条件(価格、数量、支払条件を含む。)を維持して本件取引を継続する。 2. 経過措置期間中の発注数量は、原契約締結期間中の直近【6】か月間の平均発注数量を目安とし、著しくこれを下回らないよう甲は配慮する。

第4条(在庫及び仕掛品の取扱い) 1. 乙が経過措置期間の終了時点で保有する本件取引に係る原材料、仕掛品及び完成品の在庫のうち、甲からの発注に基づき合理的に準備したものについては、甲は乙からの申出により、当該在庫を相当な価格で買い取るものとする。 2. 前項の買取価格は、乙の仕入価格又は製造原価を基準とし、甲乙協議のうえ定める。

第5条(債権債務の清算) 甲及び乙は、経過措置期間の終了までに、本件取引に関して生じた一切の債権債務を清算するものとし、その具体的な方法及び期限については別途協議する。

第6条(代替取引先への移行協力) 1. 甲は、乙の求めに応じ、乙が代替の取引先を確保するために合理的に必要な範囲で、取引数量、取引実績その他の情報を提供するものとする。 2. 乙は、甲の求めに応じ、甲が代替の仕入先又は販売先を確保するために合理的に必要な範囲で協力するものとする。

第7条(秘密保持義務の継続) 原契約に定める秘密保持条項は、本件取引の終了後も、原契約に定める存続期間又は【3】年間のいずれか長い期間、効力を有するものとする。

第8条(競業避止に関する確認) 本覚書は、乙が甲以外の事業者と新たに取引を開始し、又は甲の競合事業者との取引を行うことを制限するものではない。

第9条(清算条項) 甲及び乙は、本覚書に定めるもののほか、原契約に基づき甲乙間に何らの債権債務がないことを相互に確認する。ただし、経過措置期間中に生じる債権債務及び本覚書に基づく債権債務はこの限りでない。

第10条(協議事項及び合意管轄) 1. 本覚書に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。 2. 本覚書に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 更新を拒絶する側向け

修正後: 「甲は、経過措置期間中、第3条の取引条件の維持に努めるものとするが、乙の重大な契約違反又は乙の信用状態の著しい悪化が認められる場合には、経過措置期間中であっても本件取引の全部又は一部を停止することができる。」

一言解説: 経過措置期間中の取引継続を無条件で約束すると、相手方に契約違反や信用不安が生じた場合にも取引の縮小・停止ができなくなる。停止事由を明記することで、更新拒絶を行う側が経過措置期間中のリスクを限定的に管理できるようにする趣旨である。

追加条文例: 「本覚書の締結及び原契約の更新拒絶は、甲がこれまでの取引において乙の業務遂行に何らの問題も認めていたことを意味するものではなく、甲の事業方針の変更その他甲の経営判断に基づくものである。」

一言解説: 更新拒絶の理由を明示しない場合、後日、優越的地位の濫用や不当な取引拒絶を疑われる紛争に発展することがある。経営判断に基づく旨を確認的に記載することで、更新拒絶が特定の不当な動機によるものでないことを記録に残す狙いがある。

B. 取引を打ち切られる側向け

修正後: 「経過措置期間は【6】か月間とする。甲は、経過措置期間の満了後もなお乙が代替取引先を確保できていない場合には、乙の求めに応じ、経過措置期間を合理的な範囲で延長することについて誠実に協議する。」

一言解説: 長年の継続的取引の相手方から一方的に取引を打ち切られる場合、代替取引先の確保や事業転換には相応の時間を要することが多い。経過措置期間を長めに設定し、延長協議義務を加えることで、事業への急激な打撃を緩和する趣旨である。

追加条文例: 「甲は、乙が本件取引のために専用の設備投資又は人員配置を行っていた事実を考慮し、契約満了日以降【〇〇】円を目途とする協力金を乙に支払うものとする。」

一言解説: 継続的取引の解消に伴う裁判例では、相手方が当該取引のために特別な投資を行っていた事情が、解約の相当性や協力金の要否を判断する考慮要素とされることがある。協力金の支払いを明記することで、投資回収の機会を失う相手方の不利益を一定程度填補する構成である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

本覚書は、長年にわたり反復継続してきた取引基本契約を、期間満了を機に更新せず終了させる場合に、当事者双方が終了条件について合意した内容を記録する場面で用いる。短期間しか継続していない取引や、当初から単発・スポット取引として位置付けられていた契約の終了には適さず、その場合は通常の契約終了通知で足りることが多い。

継続的な取引契約の解消については、契約書上に更新拒絶の手続が明記されている場合であっても、民法第1条第2項が定める信義誠実の原則(信義則)を踏まえ、更新拒絶の意思表示が権利の濫用に当たらないか、また、相手方に不測の損害を与えないための相当な予告期間が確保されているかが問題とされる裁判例が集積している。これらの裁判例は、取引の継続期間、取引依存度、相手方が当該取引のために行った専用投資の有無、契約書上の解約条項の内容等を総合的に考慮して、更新拒絶の効力や損害賠償責任の有無を判断する傾向にある。本覚書のように、経過措置期間や在庫買取り、代替取引先への移行協力といった具体的な措置を合意のうえで定めることは、後日の紛争予防に資するとともに、相当な予告期間が確保されたことの裏付け資料としても機能し得る。

また、継続的取引を一方的に打ち切る行為は、取引依存度が高い相手方に対して行われる場合、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)上の優越的地位の濫用又は不当な取引拒絶に該当するリスクが問題となることがある。公正取引委員会の実務上の考え方に照らし、更新拒絶に至る経緯や理由を記録化し、相手方との協議を経たうえで合意に至った経過を書面化しておくことは、こうしたリスクへの対応としても意味を持つ。

実務でよくある失敗として、第一に、更新拒絶の通知のみを一方的に送付し、相手方との合意形成のプロセスを経ないまま取引を終了させ、後日、予告期間の不足を理由とする損害賠償請求に発展する例がある。本覚書のように双方合意の書面を取り交わすことで、少なくとも終了条件について合意があった事実を明確にできる。第二に、経過措置期間中の取引条件を曖昧にしたまま合意してしまい、実際の発注数量や価格をめぐって新たな紛争が生じる例がある。第3条のように、目安となる発注数量の基準を具体的に定めることが望ましい。第三に、在庫や仕掛品の取扱いを定めずに終了してしまい、相手方に発注に基づき準備した在庫が不良資産として残る例がある。第4条のような買取条項を設けることで、この種の紛争を防ぎやすくなる。継続的契約の解消における予告期間の相当性や協力金の要否は、取引の実態や裁判例の傾向に照らして個別に判断されるべき事項であるため、専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 対象となる取引基本契約及び本件取引の範囲を正確に特定したか
  • [ ] 更新拒絶に至った経緯を書面又は議事録等で記録しているか
  • [ ] 経過措置期間の長さが、取引の継続期間や相手方の依存度に照らして相当か検討したか
  • [ ] 経過措置期間中の発注数量・価格・支払条件を具体的に定めたか
  • [ ] 在庫・仕掛品の買取条件(価格算定方法を含む)を定めたか
  • [ ] 経過措置期間中の債権債務の清算方法・期限を定めたか
  • [ ] 代替取引先への移行に関する協力事項を定めたか
  • [ ] 秘密保持義務の存続期間を明記したか
  • [ ] 独占禁止法上の優越的地位の濫用・不当な取引拒絶のリスクを検討したか
  • [ ] 協力金その他の金銭的措置の要否を検討したか
  • [ ] 相手方との協議経過を証拠化する方法(署名押印、メール等)を確保したか