類似する商標や特許をめぐり相互に権利行使しないと定める共存契約。商標法第4条第1項第11号の抵触を調整し併存を可能にする書式です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
権利不行使の合意書(共存契約)
第1部: 書式本文
【先行権利者名】(以下「甲」という。)と【後行出願人名】(以下「乙」という。)は、甲が有する【商標登録番号/特許番号】に係る権利(以下「甲権利」という。)と、乙が出願又は保有する【商標登録番号/特許番号】に係る権利(以下「乙権利」という。)との間で類似又は抵触の可能性が指摘されていることを踏まえ、両権利の共存に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(前提事実の確認) 甲及び乙は、甲権利と乙権利が、指定商品・役務又は技術範囲の一部において類似又は抵触するとの指摘があり得ることを相互に確認したうえで、需要者・取引者に出所混同又は権利抵触による紛争が生じないよう、以下の条件により共存を図ることに合意する。
第2条(使用範囲の限定) 乙は、乙権利を、別紙記載の商品区分【】及び地域【】の範囲に限り使用するものとし、当該範囲を超える使用(甲の主要事業分野への進出等)を行わない。
第3条(権利不行使の合意) 甲は、乙が前条の範囲内で乙権利を使用する限りにおいて、甲権利に基づく差止請求、損害賠償請求その他の権利行使を行わない。乙は、甲が甲権利を従前の範囲で使用する限りにおいて、乙権利に基づく権利行使を行わない。
第4条(出願・登録手続への不争) 甲は、乙が第2条の範囲内での使用を前提として商標登録出願又は特許出願の手続を行うことに異議を述べず、当該出願に対して異議申立て又は無効審判請求を行わない。
第5条(混同防止表示) 乙は、乙権利に係る商標を使用する商品又は役務について、甲の商標と混同を生じさせないよう、乙の商号又は事業主体を明示する表示を付するものとする。
第6条(使用態様の遵守) 乙は、乙権利の使用にあたり、書体、色彩、レイアウト等を別紙使用態様指定書のとおりとし、甲権利の使用態様に類似させる改変を行わない。
第7条(第三者による侵害への共同対応) 甲権利又は乙権利のいずれかについて第三者による侵害が判明した場合、甲及び乙は、自己の権利に基づく対応を優先しつつ、必要に応じて情報共有及び協力を行う。
第8条(承継人への効力) 本契約に基づく権利不行使の合意は、甲権利又は乙権利が第三者に譲渡された場合、譲渡人は譲受人に対し本契約上の義務を承継させるよう努めるものとし、これを怠ったことにより生じた損害について譲渡人が責任を負う。
第9条(契約内容の見直し) 甲及び乙は、事業内容の変化その他の事情変更が生じた場合、本契約の内容(使用範囲、混同防止表示の方法等)について協議し、必要に応じて変更できる。
第10条(存続期間) 本契約の有効期間は、甲権利及び乙権利のいずれかが消滅するまでとする。ただし、甲及び乙が別途合意した場合はこの限りでない。
第11条(解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、出所混同のおそれが現実化したと認められる場合、相当期間の催告後も是正されないときは本契約を解除できる。
第12条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の締結交渉過程で知り得た相手方の営業上の秘密情報を第三者に開示してはならない。
第13条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己及び自己の役員が暴力団員等の反社会的勢力に該当しないことを表明し保証する。
第14条(準拠法及び合意管轄) 本契約の準拠法は日本法とし、本契約に関する紛争は【】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【契約締結日】 甲(先行権利者):住所 名称 代表者 印 乙(後行出願人):住所 名称 代表者 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 先行権利者向けの修正
A-1. 使用範囲拡大の事前承諾制
追加条文例:「乙は、第2条の使用範囲を将来拡大しようとする場合、事前に甲の書面による承諾を得るものとし、承諾のない拡大使用は本契約上の権利不行使の対象としない。」 一言解説: 事業拡大に伴い後行権利者が徐々に使用範囲を広げ既成事実化することを防ぎ、先行権利者が範囲変更をコントロールできるようにする修正である。
A-2. モニタリング及び是正要求権の追加
追加条文例:「甲は、乙による乙権利の使用状況を年1回程度確認でき、混同のおそれが生じていると認める場合、乙に対し表示方法の是正を求めることができ、乙は合理的な範囲でこれに応じる。」 一言解説: 混同防止表示の遵守状況を事後的に確認する仕組みを設け、契約締結後の形骸化を防ぐ修正である。
B. 後行出願人向けの修正
B-1. 甲権利の不使用時における本契約の失効条項
追加条文例:「甲権利が継続して3年以上使用されていないことが判明した場合、乙は甲に通知のうえ、第2条の使用範囲の制限を解除するよう求めることができる。」 一言解説: 先行権利者が実際には権利を使用していないにもかかわらず範囲制限のみが存続する不均衡を是正し、不使用取消審判(商標法第50条)の可能性も踏まえた交渉材料とする修正である。
B-2. 拒絶査定を受けた場合の甲の協力義務
追加条文例:「乙の出願が甲権利との類似を理由に拒絶理由通知を受けた場合、甲は乙の求めに応じ、共存に同意する旨の書面(承諾書)を特許庁に提出することに協力する。」 一言解説: 本契約締結後も出願段階で拒絶理由が通知される可能性があるため、審査段階での甲の協力(いわゆる同意書提出への協力)をあらかじめ確保しておく修正である。
C. 商標・特許双方対応の修正
C-1. 権利種別ごとの個別条件設定
追加条文例:「商標に関する権利不行使の範囲は別紙1(商品区分・地域)のとおり、特許に関する権利不行使の範囲は別紙2(実施態様・技術範囲)のとおりとし、いずれか一方の権利についてのみ本契約が終了した場合、他方の権利については本契約の効力を存続させる。」 一言解説: 商標と特許では権利の性質・存続期間・侵害要件が異なるため、一本の契約書で扱う場合でも権利種別ごとに条件を分離し、一方の消滅・変更が他方に無用な影響を及ぼさないようにする修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、類似する商標又は特許について、当事者双方の事業分野・商品区分・地域が実質的に異なり、使用態様の限定によって出所混同や権利抵触のリスクを合理的な水準まで低減できると見込まれる場合に用いる。他方、需要者に現実に混同が生じている、又は生じる高度の蓋然性がある場合には、共存契約によって私的に解決を図ること自体が需要者保護の観点から適切でないことがあり、そのような場合には共存によらず権利関係の整理(譲渡、使用権設定等)を検討すべきである。
根拠法令 商標法第4条第1項第11号は、先願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、指定商品又は指定役務が同一又は類似のものについては、商標登録を受けることができない旨を定める。令和5年改正商標法により、先行商標権者の同意を得た場合に類似商標の併存登録を認めるいわゆるコンセント制度が導入されたが、これは特許庁における登録審査上の制度であり、本書式のような当事者間の共存契約とは法的性質が異なる。重要な点として、当事者間で権利不行使を合意しても、これは債権的合意にとどまり、特許庁における登録審査の結果(拒絶査定等)や第三者との関係を当然に拘束するものではない。特許についても同様に、特許法第39条の先願主義のもとで抵触が問題となる場合があり、権利不行使の合意はあくまで契約当事者間の効力にとどまる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、共存契約さえ締結すれば当然に商標登録が認められると誤解し、実際には特許庁の審査で商標法第4条第1項第11号を理由に拒絶査定を受けてしまう失敗がある。共存契約は審査を拘束しないことを当事者双方が理解したうえで、必要に応じてコンセント制度の活用や出願戦略の見直しも並行して検討すべきである。第二に、使用態様や商品区分の限定を曖昧にしたため、後行使用者が徐々に先行権利者の主要市場に進出し、結局は混同が現実化してしまう失敗がある。第2条・第6条のように商品区分・地域・使用態様を別紙で具体的に特定することが重要である。第三に、当事者の事業承継や権利譲渡の際に共存契約の効力が譲受人に及ぶかを定めず、譲受人との間で紛争が再燃する失敗がある。第8条のように承継時の取扱いをあらかじめ定めておくことが望ましい。共存の可否や範囲設定は個別の市場実態に強く依存するため、専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 甲権利・乙権利の登録状況(登録番号・出願番号)を確認したか
- [ ] 両権利の類似・抵触の範囲(商品区分・技術範囲)を具体的に特定したか
- [ ] 乙の使用範囲(商品区分・地域)を別紙で明確にしたか
- [ ] 混同防止表示の具体的な方法を定めたか
- [ ] 共存契約が特許庁の審査を拘束しないことを当事者双方が理解しているか
- [ ] コンセント制度の活用可能性を検討したか
- [ ] 出願段階で拒絶理由が通知された場合の協力義務を定めたか
- [ ] 権利譲渡・事業承継時における本契約の承継条項を定めたか
- [ ] 商標と特許を同一書式で扱う場合、権利種別ごとに条件を分離したか
- [ ] 甲権利の不使用が判明した場合の取扱いを検討したか
- [ ] 契約違反(混同の現実化等)時の解除条件を定めたか