元請業者が専門工事業者と継続的に取引する場面で交わす下請負基本契約書。建設業法の書面契約義務と一括下請負の禁止を踏まえ、代金支払期日や設計変更の扱いを定める。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
建設工事下請負基本契約書
第1部: 書式本文
建設工事下請負基本契約書
【元請業者名】(以下「甲」という。)と【下請業者名】(以下「乙」という。)は、甲が乙に継続的に発注する建設工事(以下「本工事」という。)の取引条件について、次のとおり基本契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的及び個別契約との関係) 本契約は、甲乙間で反復継続して行われる建設工事請負取引に共通して適用される基本条件を定める。個別の工事の発注は、甲が乙に対し工事内容・工期・請負代金等を記載した注文書を交付し、乙がこれに対応する請書を交付する方法(以下「個別契約」という。)により行う。個別契約は本契約の一部を構成し、個別契約と本契約の定めが抵触するときは個別契約が優先する。
第2条(注文書の記載事項) 甲は個別発注に際し、工事内容、着手及び完成の時期、請負代金の額及び支払の時期・方法、契約不適合責任の定めその他建設業法第19条第1項各号に掲げる事項を記載した注文書を乙に交付する。
第3条(工事内容及び工期) 乙は個別契約に定める工事内容に従い、【工事名称・場所】記載の工事を、着手日【年月日】から完成日【年月日】までに完成させる。
第4条(請負代金の支払期日) 1. 請負代金の額は個別契約に定めるとおりとする。 2. 甲は、乙から出来形又は完成した目的物の引渡しの申出を受けた日から起算して50日を経過する日以前のできる限り短い期間内に定める支払期日までに、下請代金を支払う。 3. 甲が発注者から工事代金の支払を受けたときは、甲は当該支払を受けた日から起算して1か月以内で、かつ前項の期間内に、乙に下請代金を支払う。
第5条(設計変更・追加工事) 1. 甲は工事内容の変更又は追加工事(以下「設計変更等」という。)を必要とするときは、あらかじめその内容を乙に通知し、変更後の工事内容、工期及び請負代金の額を書面で合意する。 2. 前項の書面合意を経ない限り、乙は設計変更等に係る作業に着手する義務を負わない。ただし緊急やむを得ない事情がある場合はこの限りでない。
第6条(一括下請負の禁止) 1. 乙は甲から請け負った本工事の全部又はその主たる部分を一括して第三者に請け負わせてはならない。 2. 乙が本工事の一部を第三者に施工させる場合であっても、乙は施工計画の作成、工程管理及び品質管理について主体的な役割を担うものとし、名義貸しに類する再委託を行ってはならない。
第7条(建設業許可及び技術者の配置) 乙は本工事の施工に必要な建設業許可を保有し、工事現場に主任技術者又は監理技術者を配置し、その氏名及び資格を甲に通知する。
第8条(検査及び引渡し) 1. 乙は本工事を完成したときは速やかにその旨を甲に通知する。 2. 甲は通知を受けた日から【 】日以内に完成検査を行い、合格したときは乙から目的物の引渡しを受ける。
第9条(契約不適合責任) 引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約内容に適合しないときは、甲は乙に対し、引渡しを受けた日から【1年】以内に限り、履行の追完、代金減額、損害賠償又は契約の解除を請求できる。
第10条(下請代金の支払確保) 乙が甲から前払金の支払を受けたときは、乙は資材の購入及び労働者の募集その他工事の着手に必要な費用に相応する金額を、甲から下請代金の支払を受ける前であっても適切に充当できるよう努める。
第11条(解除) 甲又は乙は、相手方が本契約又は個別契約に違反し、相当の期間を定めた催告後もこれが是正されないときは、本契約及び個別契約の全部又は一部を解除できる。
第12条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己及び自己の役員が暴力団その他の反社会的勢力に該当しないことを表明し保証する。
第13条(協議事項) 本契約及び個別契約に定めのない事項について疑義が生じたときは、甲乙誠実に協議して解決する。
第14条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため本契約書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【締結日】 甲(元請負人)【住所・商号・代表者名・印】 乙(下請負人)【住所・商号・代表者名・印】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 元請負人に有利な修正例
A-1. 設計変更等の着手前合意を厳格化 「乙は、甲から設計変更等の指示があった場合であっても、第5条第1項の書面による代金及び工期の合意が成立するまでは当該作業に着手してはならず、書面合意前に乙が独自の判断で着手した部分については、甲は追加代金の支払義務を負わない。」 一言解説: 現場での口頭指示による見切り発車の着手を防ぎ、書面合意を代金請求の要件として明確化する修正である。
A-2. 一括下請負防止のための施工体制報告義務 「乙は、本工事の一部を第三者に施工させるときは、当該第三者の商号、工事内容及び配置技術者を事前に甲に書面で報告し、甲の確認を受けるものとする。甲は必要に応じて乙に対し施工体制台帳の写しの提出を求めることができる。」 一言解説: 再委託の実態を元請が随時把握できるようにし、一括下請負の疑いを早期に発見する仕組みを設ける。
B. 下請負人に有利な修正例
B-1. 支払期日の短縮 「前条第2項の規定にかかわらず、下請代金の支払期日は、乙が目的物の引渡しを申し出た日から起算して30日以内とする。」 一言解説: 建設業法上の上限である50日をさらに短縮し、資金繰りの負担が大きい下請負人の立場を保護する修正である。
B-2. 既施工部分の出来高払い 「甲の都合により本工事が中断し、又は解除されたときは、甲は乙に対し、中断又は解除の時点における既施工部分に相応する請負代金を、当該部分の出来高査定に基づき遅滞なく支払う。」 一言解説: 元請都合による工事中断時に、既に施工した部分の対価が未回収となるリスクを回避する条項である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面の解説 本書式は、元請業者が専門工事業者に継続的に建設工事の一部又は全部を発注する場面で、個別発注のたびに全条件を協議し直す手間を省くための基本契約として用いる。単発かつ小規模な工事で継続的取引の予定がない場合は、基本契約ではなく個別の工事請負契約書を用いる方が簡明である。また、実質的に労働者を指揮命令下に置いて働かせる形態(偽装請負)を糊塗する目的で本書式を用いることは許されない。
根拠法令の解説 建設業法第19条は、建設工事の請負契約の当事者に対し、工事内容、請負代金の額、工事着手及び完成の時期その他同条第1項各号に掲げる事項を書面に記載し相互に交付することを義務付けている。同法第22条は、建設業者が請け負った建設工事を一括して他人に請け負わせること(一括下請負)を原則として禁止し、施工に対する実質的な関与を欠く名義貸し的な再委託を排除する趣旨である。同法第24条の3は、元請負人が下請負人に対して支払う下請代金の支払期日について、出来形又は完成した目的物の引渡しの申出があった日から起算して50日を経過する日以前のできる限り短い期間内に定めなければならないと規定する。
実務でよくある失敗と対策の解説 第一に、現場監督の口頭指示のみで追加変更工事の施工が進められ、完成後の代金精算段階で追加分の合意内容や金額をめぐって紛争化する例が多い。第5条及びA-1のように、書面合意を着手の要件とすることが対策になる。第二に、下請代金の支払期日を建設業法上の基準を超えて設定してしまい、行政指導の対象となる例がある。第4条のように支払期日の起算点と上限を明記し、必要に応じてB-1のようにさらに短縮することが望ましい。第三に、専門工事業者に発注した工事の施工を実質的にすべて別の業者に再委託し、一括下請負に該当してしまう例がある。第6条及びA-2のように、施工への主体的関与の維持と再委託状況の報告義務を組み合わせて防止することが有効である。個別の事案については専門家(弁護士等)に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 元請負人・下請負人双方が対象工事に必要な建設業許可を保有しているか確認したか
- [ ] 個別契約(注文書・請書)の交付方法と基本契約との優先関係を明記しているか
- [ ] 下請代金の支払期日が建設業法第24条の3の基準(引渡し申出から50日以内等)を超えていないか確認したか
- [ ] 設計変更・追加工事について書面合意を要件とする条項を設けているか
- [ ] 一括下請負に該当しないよう、下請負人の主体的な施工関与を条項化しているか
- [ ] 再委託を行う場合の事前報告・承諾手続を定めているか
- [ ] 主任技術者又は監理技術者の配置及び通知を義務付けているか
- [ ] 契約不適合責任の期間及び内容を明記しているか
- [ ] 前払金・出来高払いなど下請代金の支払確保に関する定めを設けているか
- [ ] 解除事由及び手続を具体的に定めているか