引渡し前後の滅失・損傷リスクの分配を定める危険負担の特約。民法第536条と第567条の引渡しによる危険移転を踏まえ、運送中の事故処理を明確にします。

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危険負担に関する特約

第1部: 書式本文

本特約は、【売主商号】(以下「甲」という。)と【買主商号】(以下「乙」という。)との間の【〇〇年〇〇月〇〇日付】売買契約書(以下「原契約」という。)に基づく【対象商品】(以下「本商品」という。)の売買に関し、原契約に追加して適用する危険負担に関する条項である。

第1条(危険負担の原則) 本商品の滅失、毀損その他の損傷(以下「滅失等」という。)に関する危険は、民法第567条の定めるところにより、甲が乙に本商品を引き渡した時に、甲から乙に移転するものとする。

第2条(引渡し前の危険負担) 本商品の引渡し前に、甲乙いずれの責めにも帰することのできない事由により本商品が滅失等した場合、乙は、民法第536条第1項の定めるところにより、甲の本商品引渡債務の履行を待たず、自己の代金支払債務の履行を拒むことができる。

第3条(危険移転の基準時) 1. 本商品の引渡しは、甲が乙の指定する場所において本商品を乙又は乙の指定する者に現実に交付した時に完了したものとする。 2. 前項にかかわらず、乙が正当な理由なく本商品の受領を遅滞した場合には、甲が乙に対し受領の準備が整った旨を通知した時をもって引渡しがあったものとみなし、以後の危険は乙が負担する。

第4条(運送を伴う場合の危険移転) 1. 本商品の運送を甲が手配し、甲の選定する運送人に本商品を引き渡す場合、当該運送人への引渡しの時に本商品の滅失等の危険は甲から乙に移転するものとする。 2. 前項にかかわらず、乙が運送人を指定し、又は乙の指定する引取場所において甲が乙の手配した運送人に本商品を引き渡す場合には、当該引渡しの時に危険が移転する。 3. 甲及び乙は、運送の方法(持参、送付又は取立てのいずれによるか)並びにこれに対応する危険移転の基準時を、個別の注文書又は納品書において明記するよう努める。

第5条(運送中の滅失・損傷の取扱い) 1. 前条の危険移転前に運送中の本商品が滅失等した場合、甲は、代替品の納入又は代金の返還その他乙と協議のうえ定める方法により処理するものとし、これによって乙に生じた合理的な損害を賠償する。 2. 前条の危険移転後に運送中の本商品が滅失等した場合、乙は、運送人に対して直接損害賠償を請求するものとし、甲は当該請求に必要な資料(運送契約書、送り状の写し等)の提供に協力する。

第6条(検収による危険移転の特則) 甲及び乙が別途合意した場合には、第3条にかかわらず、乙による検収(数量及び外観上の異常の有無の確認をいう。)が完了した時をもって危険移転の基準時とすることができる。

第7条(部分滅失・損傷時の代金減額) 本商品の一部について滅失等が生じ、その原因が危険移転前に生じた事由による場合、乙は、民法第563条の規定に準じて、滅失等の程度に応じた代金の減額を甲に請求することができる。

第8条(通知義務) 乙は、本商品の受領時又はその後において滅失等を発見したときは、遅滞なくその状況を甲に通知しなければならない。乙が正当な理由なく通知を怠った場合、甲は、通知の遅延により拡大した損害について責任を負わない。

第9条(不可抗力による滅失等) 地震、水害その他の天災、戦争、暴動、法令の制定改廃、感染症の流行その他甲乙いずれの責めにも帰することのできない不可抗力により本商品が滅失等した場合の処理については、第1条から第7条までの定めるところによるものとし、甲及び乙は、いずれの当事者にも帰責事由がないことを理由に相手方に対し損害賠償を請求することができない。

第10条(保険の付保) 甲及び乙は、危険移転前後それぞれが危険を負担する期間について、本商品の性質及び価額に応じ、運送保険その他の保険を付保するよう努めるものとする。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 売主向け

修正後: 「本商品の運送は甲が手配するものとするが、運送中の危険は、運送人への引渡しの時に甲から乙に移転するものとし、乙は、運送中に生じた滅失等について、甲に対し代替品の納入その他の請求をすることができない。」

一言解説: 引渡し場所への到達まで甲が危険を負担する建付けにすると、長距離輸送や海外発送を伴う取引では滅失等のリスクが甲に集中する。発送時点(運送人への引渡し時)で危険を移転させることで、甲は運送区間のリスクから早期に解放される。

追加条文例: 「乙が正当な理由なく本商品の受領期日から【3】営業日を経過してもなお受領しないときは、甲は、当該期日の経過をもって引渡しがあったものとみなし、以後の保管費用及び滅失等の危険を乙の負担とすることができる。」

一言解説: 買主の受領遅滞が長期化すると、売主が保管費用と滅失リスクを二重に負担する状況が生じやすい。受領遅滞時のみなし引渡し規定を設けることで、売主が不当に長期のリスク負担を強いられることを防ぐ。

B. 買主向け

修正後: 「本商品の危険は、乙による検収が完了し、数量及び外観上の異常がないことを確認した時に甲から乙に移転するものとする。検収前に判明した滅失等については、乙は代金支払義務を負わない。」

一言解説: 引渡し(到達)時点で一律に危険を移転させると、荷解き前の外観検査で初めて判明する損傷について、買主が事実上の立証負担を強いられる。検収完了時を基準とすることで、買主が現実に商品状態を確認できた時点まで危険負担を留保できる。

追加条文例: 「運送中の滅失等について、乙は、運送人に対する損害賠償請求権の行使に代えて、甲に対し代替品の即時納入を請求することができるものとし、甲乙間の求償関係は別途甲乙間で清算する。」

一言解説: 買主にとって、見知らぬ運送人に対して自ら損害賠償請求を行う負担は大きく、事業への支障(欠品)を避けたい場面も多い。買主が甲に対して直接代替品を請求できる仕組みとし、運送人との求償は売主に委ねることで、買主の実務負担を軽減する。

C. 中立・折衷案

第1部の本文がこれに該当する。危険移転の基準時は民法第567条の原則どおり引渡し時とし、運送手配者(持参債務か送付債務か)に応じて基準時を整理しつつ、当事者間の合意により検収完了時への後倒しも選択できる建付けとした。運送中の滅失等については、危険移転の前後で請求先(売主への請求か運送人への請求か)を分け、双方に過度な負担が偏らないよう設計している。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

本特約は、動産の売買契約において目的物の引渡しに一定の期間や運送過程を要する取引に適する。役務提供のみを内容とする契約や、対面での即時引渡し・即時決済が完結する店頭販売には、詳細な危険負担条項を設ける必要性は乏しい。

根拠法令としては、民法第536条第1項及び第567条が中心となる。2020年施行の民法(債権法)改正前は、危険負担の効果として反対給付債務そのものが消滅すると解されていたが、改正後の民法第536条第1項は、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者(買主)は反対給付の履行を拒むことができると定めており、危険負担の効果は債務消滅ではなく履行拒絶権として整理されている。また、民法第567条は、特定物の引渡しをもって、以後の目的物の滅失等の危険を買主に移転させる旨の特則を定めており、実務上は本条が売買契約における危険負担の基準時を画する中心的な規定として機能する。

実務でよくある失敗として、第一に、危険移転の基準時を「引渡し時」とのみ記載し、持参債務・送付債務・取立債務のいずれを前提とするかを明確にしないため、運送中の事故が生じた際にどちらが危険を負担するのか解釈上の争いになる例がある。第4条のように、運送人の選定主体に応じて基準時を書き分けることが望ましい。第二に、検収による危険移転の後倒しを定めながら、検収の方法や期間を具体的に定めないため、いつまでも危険が移転しない不安定な状態が生じる例がある。検収の方法・期間を別途明記し、みなし合格規定と組み合わせることが有効である。第三に、危険負担条項と契約不適合責任(民法第562条から第564条まで)の適用範囲を混同し、引渡し後に判明した品質上の問題まで危険負担の枠組みで処理しようとしてしまう例がある。滅失・損傷という物理的な危険の問題と、契約内容への不適合という別の問題を条項上も区別して整理することが望ましい。個別の取引における危険移転の基準時の設計は、商品の性質や運送形態によって適切な内容が異なるため、専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 危険移転の基準時を民法第567条の原則(引渡し時)に沿って明記したか
  • [ ] 持参債務・送付債務・取立債務のいずれを前提とするかを明確にしたか
  • [ ] 運送人の選定主体(甲乙いずれか)に応じた危険移転時点を整理したか
  • [ ] 検収完了時への後倒し特約の要否を検討したか
  • [ ] 受領遅滞時のみなし引渡し規定の要否を検討したか
  • [ ] 運送中の滅失等について請求先(売主か運送人か)を整理したか
  • [ ] 部分滅失・損傷時の代金減額の算定方法を定めたか
  • [ ] 滅失等の発見時の通知義務とその懈怠時の効果を定めたか
  • [ ] 不可抗力による滅失等について免責の範囲を明記したか
  • [ ] 保険付保の要否・負担者を検討したか
  • [ ] 危険負担条項と契約不適合責任条項の適用範囲を区別して整理したか