病院や医療法人が常勤の勤務医を採用する場面で用いる雇用契約書。労働基準法の労働条件明示義務に加え、医師法の応召義務と医師の時間外労働上限規制への対応を定める。
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勤務医雇用契約書
第1部: 書式本文
医療法人【 】(以下「甲」という。)と医師【 】(以下「乙」という。)は、乙が甲の開設する【病院名】に常勤の勤務医として勤務するに当たり、次のとおり雇用契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(業務内容) 乙は、甲の指定する診療科【診療科名】において、外来診療、入院患者の診療、手術その他医師としての業務(以下「本業務」という。)に従事する。
第2条(勤務場所) 乙の勤務場所は、甲の開設する【病院名】(所在地【 】)及び甲が指定する関連施設とする。
第3条(労働条件の明示) 甲は、労働基準法第15条に基づき、本契約締結に際し、契約期間、就業場所、従事すべき業務、始業・終業の時刻、休日、賃金その他の労働条件を、本契約書及び甲が別途交付する労働条件通知書により明示する。
第4条(労働時間) 1. 乙の所定労働時間は、1週間について【 】時間、1日について【 】時間とする。 2. 甲は、乙の労働時間を、タイムカード、勤怠管理システムその他客観的な方法により把握する。
第5条(宿日直及び当直) 1. 乙は、甲が定めるシフトに従い、宿日直(当直)勤務に従事することがある。 2. 甲は、当直勤務のうち、労働基準監督署長の許可(労働基準法第41条第3号に基づくいわゆる断続的労働の宿日直許可)を得た態様のものについては、当該許可の範囲内で宿日直手当を支給し、許可の範囲を超えて通常の診療と同様の業務(急患対応等)に従事した時間については、時間外労働として取り扱い割増賃金を支払う。 3. 甲は、当直中の実作業時間と待機時間とを区分して記録するものとする。
第6条(時間外労働の上限) 1. 甲及び乙は、医療法及び医師の働き方改革に基づく時間外労働の上限規制の枠組みのうち、乙の適用水準を【A水準・連携B水準・B水準・C水準のいずれか】とすることを確認する。 2. 甲は、乙の時間外・休日労働の実績が前項の水準に定める上限を超えないよう管理するとともに、労働基準法第36条に基づく協定の範囲内で時間外労働を命じる。 3. 甲は、乙が連携B水準・B水準又はC水準の適用を受ける場合、面接指導及び連続勤務時間制限、勤務間インターバルの確保その他の追加的健康確保措置を講じる。
第7条(応召義務との関係) 1. 乙は、医師法第19条に定める応召義務の趣旨を理解し、正当な事由なく診療を拒んではならない。 2. 前項の規定は、乙の労働時間管理及び前条の時間外労働の上限規制の遵守を妨げるものではなく、甲は、応召義務を理由として乙に上限を超える時間外勤務を求めないものとする。
第8条(給与) 乙の給与は、基本給月額【 】円のほか、甲の給与規程に定める諸手当(宿日直手当、時間外勤務手当等)を加算して支給する。
第9条(医師賠償責任保険) 甲は、乙の診療行為に起因する医療事故に備え、乙を被保険者とする医師賠償責任保険を甲の負担により付保する。
第10条(兼業・副業) 乙が甲以外の医療機関等で診療業務に従事する場合、あらかじめ甲の許可を得るものとし、甲は、乙の労働時間が第6条の上限規制の水準を超えないよう、乙からの申告に基づき通算した労働時間を管理する。
第11条(休日及び休暇) 乙の休日及び年次有給休暇は、甲の就業規則の定めるところによる。
第12条(守秘義務) 乙は、在職中及び退職後においても、業務上知り得た患者の診療情報その他甲の業務上の秘密を第三者に漏らしてはならない。
第13条(契約期間) 本契約の期間は、令和【 】年【 】月【 】日から【期間の定めの有無】とする。
第14条(解雇・退職) 本契約の終了に関する事項は、甲の就業規則の定めるところによる。
令和【 】年【 】月【 】日
甲(医療法人): 【名称・所在地・代表者】 印 乙(医師): 【住所・氏名・医籍登録番号】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 病院・医療法人(甲)向けの修正
A-1. C水準(集中的技能向上)適用医師向けの追加規定
追加条文例:「乙が高度な技能を習得するための研修医師としてC水準の適用を受ける場合、甲は、都道府県知事の指定を受けた期間に限り当該水準を適用し、指定期間経過後はB水準以下の水準に切り替える。」 解説: C水準は個人ごとに期間の指定が必要であり、指定期間を明確に契約書へ反映しておくことで、期間経過後の切替漏れを防止できる。
A-2. 複数医療機関で勤務する医師の労働時間通算規定の強化
修正後:「甲は、乙が副業先医療機関で従事する労働時間について、乙からの自己申告を月次で確認し、甲における労働時間と通算した上限規制の遵守状況を記録する。」 解説: 複数施設で勤務する医師については、副業先の労働時間を主たる勤務先が把握しづらいため、自己申告の頻度と確認方法を具体的に定めることが望ましい。
B. 医師(乙)向けの修正
B-1. 専門医資格の維持に必要な研修時間の確保
追加条文例:「甲は、乙が専門医資格の更新に必要な学会参加及び研修受講のための時間を、年間【 】日を上限として勤務時間の一部として認める。」 解説: 専門医資格の維持は医師のキャリア形成上重要であり、研修時間の確保を契約書上明記することで、乙の権利として位置付けることができる。
B-2. 育児・介護と両立する医師向けの当直免除規定
修正後:「乙が育児又は介護を行う必要があると申し出た場合、甲は、乙の当直勤務の回数を軽減し、又は日勤帯を中心とした勤務シフトへ変更するよう配慮する。」 解説: 当直負担の軽減を契約書に明記することで、育児・介護と勤務医としてのキャリアの両立を支援する趣旨を明確化できる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面の解説 本書式は、病院又は医療法人が常勤の勤務医を新たに採用する場面で用いる。非常勤医師の業務委託や、開業医個人が独立して診療を行う場面には適合しないため、その場合は別途の業務委託契約書等を用いるべきである。
根拠法令の解説 労働基準法第15条は、使用者が労働契約締結に際し賃金・労働時間その他の労働条件を明示すべき義務を定めており、勤務医についても適用される。医師法第19条は、診療に従事する医師は正当な事由がなければ診察治療の求めを拒んではならないとする応召義務を定める。医療法及び医師の働き方改革に基づく時間外労働の上限規制は、令和6年度以降、勤務医の時間外・休日労働時間について、原則の水準(A水準、年960時間相当)に加え、地域医療確保のための特例水準(連携B水準・B水準、年1860時間相当)及び技能向上のための集中的技能向上水準(C水準)の枠組みを設けている。
実務でよくある失敗と対策の解説 第一に、宿日直について労働基準監督署長の許可の要否を確認せず、許可がないまま宿日直手当のみを支給し割増賃金の未払いが生じる失敗がある。第5条のように許可の取得状況を確認し、許可の範囲を超える実作業には割増賃金を支払う旨を明記することが対策となる。第二に、当直時間中の実作業時間と待機時間の切り分けが契約書上不明確なまま運用され、後日の賃金請求で争いになる失敗がある。第5条第3項のように記録方法を明記することが対策となる。第三に、応召義務を理由に際限のない時間外勤務を求める運用となり、労働時間管理と整合しない失敗がある。第7条のように応召義務と時間外労働の上限規制との関係を整理しておくことが対策となる。宿日直許可の要件該当性や適用水準の区分の判断は専門的知見を要するため、個別の事案については社会保険労務士や弁護士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 業務内容・診療科・勤務場所を具体的に特定したか
- [ ] 労働基準法第15条に基づく労働条件の明示事項に漏れがないか確認したか
- [ ] 宿日直について労働基準監督署長の許可の要否・取得状況を確認したか
- [ ] 当直中の実作業時間と待機時間の記録方法を定めたか
- [ ] 適用される時間外労働の上限水準(A・連携B・B・C)を確認したか
- [ ] 面接指導や勤務間インターバル等の追加的健康確保措置の要否を確認したか
- [ ] 応召義務と時間外労働管理との関係を整理したか
- [ ] 医師賠償責任保険の付保者・内容を確認したか
- [ ] 兼業・副業時の労働時間通算方法を定めたか
- [ ] 給与・諸手当の計算方法を明確にしたか