貸主が強制執行認諾文言付きの公正証書を作成する場面で用いる原案。民法第587条の消費貸借および公証人法第57条ノ2の執行証書の要件を満たす条項を収録。

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金銭消費貸借契約公正証書 原案

第1部: 書式本文

金銭消費貸借契約公正証書(原案)

本公正証書は、貸主【甲の氏名又は名称】(以下「甲」という。)と借主【乙の氏名又は名称】(以下「乙」という。)及び連帯保証人【丙の氏名又は名称】(以下「丙」という。)が、下記条項により金銭消費貸借契約を締結し、公証人法第57条ノ2に定める強制執行認諾文言を付した執行証書として作成することに合意したので、その原案を以下のとおり定める。本原案は公証役場における嘱託前の確認用であり、実際の証書作成に際しては担当公証人の指示に従い文言を調整するものとする。

第1条(消費貸借の成立) 甲は乙に対し、令和【 】年【 】月【 】日、金【 】円を貸し渡し、乙はこれを受領し、民法第587条の規定に基づき、これを返還することを約した。

第2条(利息) 乙は甲に対し、元本に対する年【 】パーセントの割合による利息を、毎月末日限り甲の指定する口座に振り込む方法で支払う。

第3条(返済方法) 乙は甲に対し、元本を令和【 】年【 】月【 】日限り、一括してまたは別紙返済計画表記載のとおり分割して返済する。

第4条(期限の利益の喪失) 乙が元本若しくは利息の支払を一回でも怠ったときその他別途定める事由が生じたときは、乙は甲からの通知催告を要せず当然に期限の利益を失い、残債務全額を直ちに一括して支払う。

第5条(連帯保証) 丙は、乙が本契約に基づき甲に対して負担する一切の債務につき、乙と連帯して保証する。丙は民法第454条により、催告の抗弁及び検索の抗弁を有しない。

第6条(公正証書の作成及び強制執行認諾) 甲、乙及び丙は、本契約に基づく金銭債務の履行を確保するため、本契約を公証人法第57条ノ2に基づく執行証書として公正証書に作成することに合意する。乙及び丙は、本契約に基づく金銭債務について期限までに履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨を陳述し、これを認諾する。

第7条(公証役場における手続) 甲、乙及び丙は、【 】公証役場において本証書を嘱託するものとし、嘱託にあたっては印鑑登録証明書、実印その他公証人が求める本人確認資料を提出する。代理人によって嘱託する場合は、委任状に実印を押印し印鑑登録証明書を添付する。

第8条(費用負担) 本証書の作成に要する公証人手数料その他の費用は、乙の負担とする。

第9条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上、本旨外要件として、甲、乙及び丙は、公証人に対し本証書の内容が正確であることを確認した上、後日の証拠のため本証書に署名押印する。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 貸主の立場

修正後: 第4条に「乙が破産手続開始、民事再生手続開始その他の倒産手続開始の申立てを受けたとき」を期限の利益喪失事由として追加する。 一言解説: 執行証書は債務名義として直ちに強制執行に移れる強みがあるが、期限の利益喪失事由が狭いと執行のタイミングを逃す。貸主側で交渉する場合は事由を広く定義しておくと回収の機動性が高まる。

追加条文例: 「甲は、本証書に基づく債務名義について、乙及び丙の同意を得ることなく執行文の付与を受けることができる」旨を確認的に明記する条項を追加する。 一言解説: 執行証書自体が既に執行力を持つ点を当事者に再確認させ、後日の異議申立てを牽制する趣旨である。

B. 借主の立場

修正後: 第4条の期限の利益喪失事由から「その他甲が乙の信用状態に重大な変化が生じたと判断したとき」といった包括条項を削除し、支払遅延や倒産手続開始など客観的事由に限定する。 一言解説: 執行証書は裁判所の審理を経ずに執行力を持つため、抽象的な喪失事由を残すと不意打ち的な強制執行を受けるおそれがある。借主側は事由を客観的・限定的なものにとどめるべきである。

追加条文例: 「乙は、本証書作成後、甲に対し弁済状況の照会を行うことができ、甲はこれに遅滞なく回答する」との照会条項を加える。 一言解説: 執行証書は簡易に強制執行へ進むため、借主が弁済残高を随時確認できる仕組みを設けておくことで無用な紛争を防ぐ。

C. 連帯保証人の立場

修正後: 第5条に、丙が保証する範囲を「元本【 】円及びこれに対する利息・遅延損害金」に限定する極度額の定めを追加する。 一言解説: 個人が保証人となる根保証契約では民法第465条の2により極度額の定めが効力要件となる場合があるため、確定額保証であっても金額の上限を明示し丙の予測可能性を確保することが望ましい。

追加条文例: 「丙は、本証書が執行証書として作成されることを了知し、乙の債務不履行時には自らも強制執行に服することを認諾する」との認諾文言を丙についても明記する。 一言解説: 連帯保証人に対しても執行認諾文言が及ぶことを明確化しておかないと、保証人に対する執行力が争われる余地が残る。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面

本原案は、貸主が将来の債務不履行に備え、訴訟を経ずに強制執行へ移行できる執行証書を公証役場で作成する場面を想定している。分割弁済の履行を確実にしたい事業性の貸付や、親族・知人間の高額な貸付で信頼関係が薄い場合に適する。他方、返済条件が未確定で今後変更が見込まれる場合や、消費者向けの少額貸付で貸金業法上の登録の要否を精査していない場合には使用を避けるべきである。また、そもそも公証人が受任しない内容(公序良俗違反や強制執行認諾の要件を欠くもの)は本原案のまま嘱託できない。

根拠法令の解説

消費貸借の成立については民法第587条が要物契約としての基本形を定める。強制執行認諾文言付き公正証書、いわゆる執行証書については公証人法第57条ノ2に規定があり、金銭の一定額の支払を目的とする請求について債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているときは、その証書は債務名義となる(民事執行法第22条第5号も参照)。連帯保証人については民法第454条及び第465条の2の解説も踏まえ、保証人の責任範囲を明確にする必要がある。

実務でよくある失敗と対策

第一に、期限の利益喪失事由を曖昧に定めたまま嘱託し、後日執行段階で債務者から事由該当性を争われる例がある。客観的な事実(支払遅延の日数、倒産手続の申立て等)に紐づけて具体的に定めることが対策となる。第二に、連帯保証人が本人確認手続に同席せず、代理人による嘱託の要件を満たさずに手続が差し戻される例がある。委任状・印鑑登録証明書等の必要書類を事前に公証役場へ確認しておくべきである。第三に、利息・遅延損害金の利率を利息制限法の上限を超えて設定し、公証人から訂正を求められる、あるいは超過部分が無効となる例がある。上限利率の確認を怠らないことが望ましい。個別事案は専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 貸付金額・利率・返済期日が確定しているか
  • [ ] 期限の利益喪失事由が客観的な事実に基づき具体的に定められているか
  • [ ] 連帯保証人が保証内容を十分に理解し、極度額等の記載が必要な場合に対応しているか
  • [ ] 強制執行認諾文言(公証人法第57条ノ2)の記載が明確か
  • [ ] 利息・遅延損害金の利率が利息制限法の上限内であるか
  • [ ] 公証役場への事前相談・必要書類(印鑑登録証明書、実印、委任状等)を確認したか
  • [ ] 代理人による嘱託を予定する場合、委任状の記載内容に不備がないか
  • [ ] 管轄裁判所の合意条項が実情に即しているか
  • [ ] 手数料負担の取決めが当事者間で合意されているか
  • [ ] 貸金業法上の登録が必要な貸付に該当しないか確認したか