中古住宅の売買前にインスペクションを実施する際の合意書。宅地建物取引業法第34条の2の建物状況調査あっせん義務を前提に、費用負担と結果の取扱いを定める。

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既存住宅状況調査(インスペクション)に関する合意書

第1部: 書式本文

第1条(前提) 売主甲、買主乙及び媒介業者丙は、別紙物件目録記載の中古住宅(以下「本物件」という。)について、既存住宅状況調査(インスペクション、以下「本調査」という。)を実施するにあたり、次のとおり合意する。

第2条(あっせん義務の履行確認) 丙は、宅地建物取引業法第34条の2第1項第4号に基づき、甲及び乙に対し、本調査を実施する者(以下「調査事業者」という。)のあっせんの可否を説明し、その希望の有無を確認したことをここに確認する。

第3条(調査事業者の選定) 甲及び乙は、丙のあっせんにより、又は自ら選定した調査事業者〇〇〇〇に本調査を依頼する。

第4条(調査費用の負担) 本調査に要する費用金〇〇円は、〔選択A: 甲(売主)の負担/選択B: 乙(買主)の負担/選択C: 甲乙折半〕とする。

第5条(調査の範囲) 本調査は、建物の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分に係る劣化事象等の有無を目視、計測等により調査するものとし、非破壊調査の範囲内で行う。

第6条(調査の実施時期) 本調査は、売買契約締結前又は締結後引渡しまでの間に実施するものとし、具体的な実施日は甲乙協議のうえ決定する。

第7条(調査結果の取扱い) 調査事業者は、調査結果を記載した報告書を作成し、甲及び乙に交付する。丙は、当該報告書の内容を重要事項説明において買主に説明する。

第8条(調査結果と契約条件への反映) 本調査の結果、劣化事象等が発見された場合、甲及び乙は、売買代金の減額、補修の実施又は契約不適合責任の対象範囲について協議する。

第9条(調査結果に基づく契約解除) 本調査の結果、建物の構造耐力上重大な瑕疵が判明した場合、乙は本契約を解除することができる旨を原契約に定めることができる。

第10条(調査への協力) 甲は、調査事業者による本物件への立入り及び必要な範囲での目視・計測に協力する。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 売主向けの修正

A-1. 調査結果の開示範囲の限定

追加条文例:「甲は、本調査の結果を買主乙及び媒介業者丙にのみ開示するものとし、乙は第三者(将来の転得者を除く。)に開示してはならない。」 一言解説: 売主が調査結果の第三者への流出を懸念する場合、開示範囲を契約当事者及び媒介業者に限定する修正である。

B. 買主向けの修正

B-1. 調査結果を停止条件とする条項の追加

追加条文例:「本契約は、本調査の結果、構造耐力上主要な部分に契約不適合と評価される劣化事象等が発見されないことを条件として効力を生じるものとし、当該事象が発見された場合、乙は無条件で契約を解除することができる。」 一言解説: 買主が調査結果によって契約の可否を最終判断したい場合の修正であり、契約締結前に調査を完了させる運用と組み合わせて用いられることが多い。

C. 調査事業者向けの修正

C-1. 調査の限界に関する説明条項の追加

追加条文例:「調査事業者は、本調査が非破壊調査であり、目視又は計測により確認できない内部の劣化事象等を発見できない場合があることを甲及び乙に説明する。」 一言解説: インスペクションはあくまで限定的な範囲の調査であり、瑕疵の存否を完全に保証するものではないことを、調査事業者から説明させることで誤解を防ぐ修正である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、中古住宅の売買にあたり、建物の状況を専門家が調査するインスペクションの実施に関する合意を書面化する場面で用いる。新築住宅の売買や、既にインスペクションを実施済みで再調査が不要な場合には適用の必要がない。また、インスペクションは建物の劣化事象等の有無を確認する調査であり、法令適合性(建築基準法上の違反の有無等)の調査を含むものではないため、違反建築物か否かの判断を目的とする場合は別途の調査が必要である。

根拠法令 宅地建物取引業法第34条の2第1項第4号は、宅地建物取引業者が既存住宅の売買の媒介契約を締結したときに交付する書面において、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載しなければならない旨を定める(あっせん義務)。ただし、これは媒介業者が自らインスペクションを実施する義務ではなく、あっせんの可否を説明し、希望する場合に調査事業者を紹介する義務にとどまる。同法第35条第1項第6号の2は、既存住宅について、建物状況調査を実施しているかどうか、及び実施している場合の結果の概要を重要事項として説明しなければならない旨を定める。国土交通省の定めるガイドラインでは、既存住宅状況調査の対象範囲や実施者の要件(既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士等)が示されている。

実務でよくある失敗と対策 第一に、媒介業者があっせん義務を形式的にしか履行せず、買主が調査の意義を十分理解しないまま調査を希望しない旨の意思確認書に署名してしまう失敗がある。第2条のように説明の履行を確認する条項を設け、実質的な説明を行うことが重要である。第二に、調査結果に劣化事象等が発見された場合の対応(代金減額、補修、契約解除)をあらかじめ取り決めておらず、調査後に協議が難航する失敗がある。第8条・第9条・B-1のように調査結果を契約条件にどう反映させるかを事前に設計しておくことが望ましい。第三に、調査の限界(非破壊調査であること)を買主が理解せず、調査を実施したにもかかわらず引渡し後に判明した瑕疵について「調査で見つからなかったのだから責任がないはず」との誤解に基づく紛争が生じる失敗がある。C-1のように調査の限界を説明する条項を設けることが有効である。

第四に、あっせん義務の説明を受けた買主が調査を希望しない旨の意思確認書に署名した後になって、やはり調査を実施したいと考えたにもかかわらず、契約締結日までのスケジュールが逼迫し実施が困難になる失敗もある。売買契約締結前の早い段階で調査の要否を検討し、必要な場合は十分な準備期間を確保した実施日程を組むことが望ましい。第五に、調査結果に基づく補修を売主が実施することになったにもかかわらず、補修の完了確認や再検査の要否を定めないまま引渡しを迎え、補修が不十分なまま買主が引き渡しを受けてしまう失敗もある。補修を行う場合は、補修完了後の再確認(現地確認又は再調査)の手続を条項化しておくことが有効である。

インスペクションの結果の評価や契約条件への反映方法は個別の物件状況によって異なるため、契約締結前に専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 媒介業者があっせん義務(宅建業法第34条の2第1項第4号)を履行したか確認したか
  • [ ] 調査事業者が既存住宅状況調査技術者講習修了者等の要件を満たすか確認したか
  • [ ] 調査費用の負担者を確認したか
  • [ ] 調査の実施時期(契約締結前か締結後か)を確認したか
  • [ ] 調査結果を契約条件(代金減額・補修・解除)にどう反映させるかを事前に取り決めたか
  • [ ] 調査結果の開示範囲を確認したか
  • [ ] 調査が非破壊調査であり限界があることを買主に説明したか
  • [ ] 調査結果を重要事項説明書に反映させたか
  • [ ] 調査実施の要否検討から実施までのスケジュールに十分な余裕を確保したか
  • [ ] 補修を実施する場合、補修完了後の再確認手続を定めたか