工場や作業所として建物・土地を賃貸する場面の契約書。借地借家法の適用と民法第621条の原状回復を踏まえ、騒音振動対策や土壌汚染調査の責任分担を定める。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
工場・作業所賃貸借契約書
第1部: 書式本文
工場・作業所賃貸借契約書
貸主【貸主氏名・名称】(以下「甲」という。)と、借主(事業者)【借主氏名・名称】(以下「乙」という。)は、次のとおり工場・作業所賃貸借契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的物件) 甲は乙に対し、下記工場・作業所(以下「本物件」という。)を、乙の【製造・加工業務内容】の用に供する目的で賃貸し、乙はこれを賃借する。 - 所在地: 【所在地】 - 建物名称・区画: 【建物名称・区画番号】 - 延床面積・用途地域: 【 】平方メートル、【用途地域】
第2条(契約期間) 本契約の期間は、【始期】から【終期】までの【 】年間とする。
第3条(賃料) 乙は甲に対し、賃料として月額金【 】円を、【支払時期・方法】により支払う。
第4条(用途地域・許認可の確認) 1. 乙は、本物件を使用するにあたり、建築基準法上の用途地域規制及び自己の事業に必要な許認可(工場立地法の届出、大気汚染防止法・水質汚濁防止法上の特定施設設置届出等)を自己の責任と負担において確認・取得する。 2. 甲は、本物件が乙の事業に適合する用途地域・建築確認上の用途に該当することについて、契約締結時点で判明している情報を乙に開示する。
第5条(騒音・振動対策) 1. 乙は、本物件内での操業に伴い発生する騒音・振動が、騒音規制法及び振動規制法並びに関係条例に定める規制基準を超えないよう、防音・防振設備の設置その他必要な措置を講じる。 2. 近隣からの苦情又は行政指導があった場合、乙は自己の責任と負担で速やかに是正措置を講じ、その結果を甲に報告する。
第6条(土壌汚染調査) 1. 乙は、本物件内で有害物質を取り扱う作業を行う場合、土壌汚染対策法その他関係法令上必要な調査・届出義務を負う。 2. 本契約終了時、乙の使用に起因して土壌汚染が判明した場合、乙は自己の費用負担で土壌汚染対策法に基づく調査及び必要な浄化措置を行う。 3. 契約締結前に既に存在していた土壌汚染については、甲乙協議のうえ責任分担を定める。
第7条(設備・機械の設置) 乙は、生産設備・機械を設置するときは、事前に甲に設置内容(重量・電気容量・配管等)を通知し、建物の構造・設備能力の範囲内で設置するものとする。
第8条(原状回復) 乙は、本契約終了時、自己の費用で設置した設備・機械及び付帯配管を撤去し、民法第621条に基づき通常損耗及び経年劣化を除く部分について原状に回復して甲に明け渡す。
第9条(解除) 甲は、乙が第5条又は第6条に違反し、是正の催告後相当期間内に是正しないとき、賃料の支払を【 】か月分以上怠ったときは、本契約を解除することができる。
第10条(協議事項) 本契約に定めのない事項は、甲乙誠実に協議して定める。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【締結日】
甲: 【住所】 【氏名・名称】 印 乙: 【住所】 【氏名・名称】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 貸主向け(土壌汚染リスクを限定したい場合)
A-1 第6条の修正例 「甲は、契約締結時点における本物件の土壌汚染状況について乙に開示した資料の限度で説明するものとし、契約締結後に乙の操業によって新たに生じた土壌汚染については、乙が全ての調査・浄化費用を負担する。契約締結前から存在した汚染について乙が追加費用を要した場合は、甲乙協議のうえ甲の負担割合を定める。」 一言解説: 貸主は契約前の既存汚染と契約後の新規汚染を区別し、証拠(土壌汚染調査報告書等)を契約時に添付しておくことで、後日の責任分担争いを防止できる。
B節: 借主(事業者)向け(特定施設の届出義務を確認したい場合)
B-1 第4条への追加確認 「乙は、本物件で使用する設備が大気汚染防止法上のばい煙発生施設又は水質汚濁防止法上の特定施設に該当するかを事前に確認し、該当する場合は操業開始前に必要な届出を都道府県知事等に対し行うものとする。」 一言解説: 借主(製造事業者)は、設備の種類によって環境法令上の届出義務の有無が変わるため、契約締結前の段階で該当性を確認しておくことがトラブル防止に直結する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、工場や作業所として建物又は敷地を賃貸する場面で使用する。オフィスや店舗など製造・加工を伴わない用途での賃貸には適さず、また事業用定期借地権のように更地を長期に貸借する場合は別の書式(借地契約)を検討すべきである。
根拠法令は、建物賃貸借の基礎となる民法第601条及び原状回復に関する第621条に加え、工場・作業所特有の規制として建築基準法の用途地域規制、騒音規制法・振動規制法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法が関係する。特に土壌汚染対策法は、有害物質使用特定施設の使用を廃止する場合等に土地所有者等に調査義務を課しており、賃貸借契約終了時に賃借人の操業に起因する汚染が判明した場合の責任分担を契約書上で整理しておくことが重要である。
実務でよくある失敗の一つ目は、用途地域規制を確認せずに契約を締結し、事後的に建築基準法上の用途制限により希望する製造業務が行えないことが判明することである。第4条のように、契約締結前に用途地域と乙の事業内容の適合性を相互に確認するプロセスを設けることが重要である。
二つ目の失敗は、騒音・振動対策の責任主体を明確にせず、近隣からの苦情対応が甲乙間でたらい回しになることである。第5条のように、規制基準の遵守義務と是正措置の実施主体を借主とし、貸主への報告義務も定めておくことで、近隣対応の実効性を高められる。
三つ目の失敗は、契約終了時に土壌汚染が発見された場合の調査・浄化費用の負担者が契約書に定められておらず、原状回復をめぐり長期の紛争に発展することである。第6条のように、契約締結前の既存汚染と契約後の新規汚染を区別し、それぞれの負担ルールをあらかじめ定めておくことが有効である。
四つ目の失敗は、生産設備の増設や更新の際に建物の電気容量・配管能力の上限を超えて設備を追加し、契約締結時に想定していなかった追加工事や電力契約の変更が必要になることである。第7条のように設備設置前の事前通知義務を定め、建物の受電容量や配管能力の範囲内であることを都度確認する運用を組み込んでおくことで、稼働後のトラブルを未然に防ぐことができる。
用途地域規制の該当性判断や、土壌汚染調査の要否・費用負担の具体的な考え方については、行政庁への事前確認を含め、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本物件の用途地域が乙の事業内容に適合しているか確認したか
- [ ] 工場立地法・大気汚染防止法・水質汚濁防止法上の届出義務の有無を確認したか
- [ ] 騒音規制法・振動規制法の規制基準遵守義務と是正措置の実施主体を明記したか
- [ ] 土壌汚染について契約前の既存汚染と契約後の新規汚染の区別・責任分担を定めたか
- [ ] 生産設備・機械の設置に関する通知・承諾手続を定めたか
- [ ] 原状回復の範囲(設備撤去・配管撤去等)を明記したか
- [ ] 近隣苦情・行政指導への対応責任と甲への報告義務を定めたか
- [ ] 賃料及び支払方法を明記したか
- [ ] 重大違反時の解除条件を定めたか
- [ ] 契約終了時の土壌汚染調査費用の負担ルールについて甲乙で認識を共有したか