国際取引の紛争を訴訟によらず仲裁で解決する旨を定める書式。仲裁法13条の書面要件、ニューヨーク条約に基づく承認執行、仲裁地・仲裁機関・使用言語の選択を規定します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
国際仲裁合意書
第1部: 書式本文
【日本側当事者名】(以下「甲」という)と【海外側当事者名】(以下「乙」という)は、両者間の【対象取引の名称・契約名】(以下「原契約」という)に関して次のとおり仲裁合意を締結する。
第1条(仲裁による解決) 原契約に関して甲乙間に生じる一切の紛争は、訴訟によらず、本合意に定める仲裁により最終的に解決する。
第2条(仲裁機関) 仲裁は、【仲裁機関名(例:日本商事仲裁協会、国際商業会議所等)】の仲裁規則に従って行う。
第3条(仲裁地) 仲裁地は【仲裁地】とする。仲裁手続に適用される手続法は仲裁地の法とする。
第4条(仲裁人の数及び選任) 仲裁人の数は【 】名とし、選任方法は仲裁機関の規則の定めるところによる。
第5条(使用言語) 仲裁手続で使用する言語は【言語】とする。
第6条(準拠法) 紛争の実体的な争点に適用される準拠法は【準拠法国名】法とする。
第7条(仲裁判断の終局性) 仲裁判断は終局的なものとし、甲乙は仲裁判断に対して不服申立てを行わないものとする。ただし、仲裁地の法令により取消しが認められる事由がある場合はこの限りでない。
第8条(仲裁判断の承認及び執行) 甲乙は、仲裁判断が「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)の締約国において承認及び執行され得ることを確認する。
第9条(手続費用) 仲裁手続に要する費用の負担は、仲裁判断において定めるところによる。
第10条(秘密保持) 甲乙は、仲裁手続の内容及び仲裁判断の内容を、法令上の開示義務がある場合を除き第三者に開示しない。
第11条(仲裁合意の独立性) 本合意は原契約から独立したものとし、原契約の不成立、無効又は解除によってもその効力を妨げられない。
第12条(仲裁人の資格及び忌避) 仲裁人は、甲乙いずれの当事者からも独立し、公平性及び中立性を有する者でなければならない。仲裁人に忌避事由があると認める当事者は、仲裁機関の規則に定める手続に従い忌避を申し立てることができる。
第13条(交渉前置) 甲乙は、仲裁を申し立てる前に、紛争の友好的解決に向けて【 】日間、誠実に協議するよう努めるものとする。ただし、協議が調わない場合、いずれの当事者も協議期間の経過を待たずに仲裁を申し立てることを妨げられない。
以上、本合意締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保有する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 日本側当事者の立場から
日本側としては、手続費用や証拠開示の負担を抑える観点から、仲裁地を日本国内とし、日本商事仲裁協会の規則によることを求めることが多い。
修正例:「仲裁地は東京都とし、仲裁は一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って行う。」
一言解説:仲裁地を自国に置くことで、手続への物理的な関与や証拠準備の負担を軽減できるほか、仲裁地法による手続の予測可能性も高まる。
日本側当事者としては、あわせて仲裁人の言語能力についても定めておくと、通訳を介さない審理が可能となり手続の迅速化につながる。
修正例:「仲裁人は、日本語及び英語の双方に習熟した者から選任することを当事者双方が努める。」
一言解説:仲裁人が両当事者の言語を理解できれば、通訳を介した審理よりも正確な事実認定が期待でき、手続費用の圧縮にも資する。
B. 海外側当事者の立場から
海外側としては、中立性を重視し、いずれの当事者の本拠地でもない第三国を仲裁地とすることを求める場合がある。
修正例:「仲裁地はシンガポールとし、仲裁はシンガポール国際仲裁センター(SIAC)の規則に従って行う。使用言語は英語とする。」
一言解説:第三国を仲裁地とすることで手続の中立性への懸念を減らせる一方、双方にとって渡航・翻訳コストが増える点は考慮が必要である。
海外側当事者としては、仲裁費用の予測可能性を高めるため、仲裁人の数を単独仲裁人とする選択肢もあわせて検討することが多い。
修正例:「仲裁人の数は原則として1名とし、当事者間で選任について合意できない場合は仲裁機関が選任する。」
一言解説:仲裁人を単独とすることで、3名の合議体による審理に比べ手続費用と審理期間を圧縮できる一方、事案が複雑な場合は3名体制の方が判断の安定性を確保しやすい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、国際取引の当事者があらかじめ紛争を訴訟ではなく仲裁により解決する旨を合意する場面で使用する。国内当事者のみの取引や、既に裁判管轄合意を締結し訴訟による解決を選択している契約と重複して用いるべきではない。
根拠法令としては、仲裁法第13条が仲裁合意は書面によってしなければならないと定めており、電磁的記録による合意も書面性の要件を満たし得る。仲裁合意は独立の書面によるほか、原契約中の一条項(仲裁条項)として定めることも可能であるが、いずれの形式であっても仲裁により紛争を解決する旨の当事者の意思が明確に読み取れる記載であることが必要である。また、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)が締約国間における仲裁判断の承認及び執行を保障しており、訴訟による外国判決の承認・執行に比べて実効性が高いとされる点が国際取引で仲裁が選好される理由の一つである。仲裁判断の取消事由は仲裁法第44条に列挙されている。
実務でよくある失敗として、第一に、仲裁条項の文言が曖昧で、仲裁機関や仲裁規則を特定していないため、いざ紛争が生じた際に仲裁を開始できない、又は開始の可否自体が争いになるケースがある。仲裁機関名、仲裁規則、仲裁地を具体的に特定することが対策となる。第二に、準拠法条項と仲裁条項を別々の書面に定め、両者の間に矛盾が生じるケースがあり、本書式のように一体の合意書として整理することが望ましい。第三に、原契約が無効と主張された場合に仲裁条項自体の効力も失われると誤解し、訴訟に持ち込まれるケースがあるが、仲裁合意には独立性の原則があり、原契約の効力とは別個に判断されるため、その旨を条項上も明記しておくことが有効である。
第四に、交渉前置条項を設けたにもかかわらず、協議期間の起算点や協議が調わなかった場合の仲裁申立てへの移行条件を明記しなかったため、相手方が協議未了を理由に仲裁申立ての効力を争ってくるケースがある。協議期間を明確な日数で区切り、期間経過後は無条件に仲裁申立てができる旨を明記することが対策となる。
仲裁機関の選択や仲裁地の法制度によって手続の詳細は異なるため、実際の締結にあたっては国際仲裁に精通した弁護士に個別に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 仲裁機関名及び適用する仲裁規則を具体的に特定したか
- [ ] 仲裁地を明記したか
- [ ] 仲裁人の数及び選任方法を定めたか
- [ ] 仲裁手続の使用言語を定めたか
- [ ] 紛争の実体的準拠法を明記したか
- [ ] ニューヨーク条約締約国での承認・執行可能性を確認したか
- [ ] 仲裁判断の終局性及び不服申立て制限を明記したか
- [ ] 手続費用の負担ルールを定めたか
- [ ] 秘密保持義務を定めたか
- [ ] 仲裁合意の独立性(原契約からの分離)を明記したか
- [ ] 訴訟による裁判管轄合意と矛盾していないか確認したか
- [ ] 仲裁人の資格・言語能力に関する要件を検討したか
- [ ] 仲裁申立て前の交渉前置及びその期間を検討したか