婚姻前に夫婦の財産の帰属や管理方法を取り決める書式。民法第755条以下の夫婦財産契約に基づき、登記による第三者対抗要件にも触れます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
婚前契約書(夫婦財産契約)
第1部: 書式本文
婚姻予定者〇〇〇〇(以下「甲」という。)と婚姻予定者〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、【婚姻予定日】に婚姻することを予定し、民法第755条以下に基づき、婚姻中の財産関係について次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(本契約の目的) 本契約は、甲乙の婚姻後における財産の帰属及び管理方法をあらかじめ定め、婚姻生活における財産関係を明確にすることを目的とする。
第2条(特有財産の確認) 甲及び乙は、婚姻前から各自が有する別紙財産目録記載の財産が、それぞれの特有財産(婚姻前から有する財産)であることを相互に確認する。
第3条(婚姻中の財産の帰属) 婚姻中に甲又は乙が自己の名で得た給与、賞与その他の収入は、これを得た者の特有財産とする。婚姻中に甲乙が共同で取得した財産(共有名義の不動産等)は、甲乙の共有とし、その持分割合は取得資金の拠出割合に応じるものとする。
第4条(生活費の分担) 甲及び乙は、婚姻生活に要する費用(婚姻費用)を、それぞれの収入に応じた割合で分担する。分担方法の詳細は別紙のとおりとする。
第5条(財産の管理) 甲及び乙は、自己の特有財産をそれぞれ自己の責任において管理し、相手方の同意なくこれを処分することができる。
第6条(債務の負担) 甲又は乙が婚姻前から負う債務及び婚姻中に自己の名義で負担した債務は、当該債務を負担した者が単独で責任を負う。日常の家事に関して生じた債務については、民法第761条により連帯責任を負う場合があることを相互に確認する。
第7条(離婚時の財産分与への配慮) 甲及び乙は、本契約が離婚時の財産分与請求権(民法第768条)を排除するものではないことを確認する。ただし、財産分与の額及び方法を検討するにあたり、本契約における財産の帰属関係を考慮するものとする。
第8条(第三者対抗要件) 本契約の内容を第三者に対抗するためには、民法第756条に基づき、婚姻の届出前にその登記をしなければならない。甲及び乙は、婚姻届出前に【登記予定日】までに夫婦財産契約の登記を行う。
第9条(契約の変更) 本契約の内容は、婚姻届出後は原則として変更することができない(民法第758条第1項)。ただし、正当な事由がある場合、家庭裁判所の許可を得て財産管理者の変更等を求めることができる。
【契約日】
甲: 【住所・氏名】 印 乙: 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 婚姻予定者(資産を多く持ち込む側)向けの修正
A-1. 事業用資産の特有財産性の強化
追加条文例:「甲が経営する【事業の内容】に係る事業用資産及び当該事業から生じる将来の収益は、婚姻後も甲の特有財産とし、乙は当該事業の経営及び財産関係に関与しない。」 一言解説: 婚姻前から事業を営む当事者が、事業用資産を婚姻後の財産分与対象から明確に切り離すための修正である。
A-2. 婚姻期間が短期間であった場合の財産分与に関する考慮事項の明記
追加条文例:「婚姻期間が【年数】年未満で離婚に至った場合、財産分与にあたっては、婚姻期間中に形成された財産の増加分に限定して考慮するものとする。」 一言解説: 短期間の婚姻であっても持ち込み財産全体が分与対象と誤解されることを避けるため、増加分に限定する考え方を明記する修正である。
B. 婚姻予定者(他方)向けの修正
B-1. 婚姻費用分担の最低保障額の設定
追加条文例:「甲乙の収入割合にかかわらず、婚姻生活に要する費用のうち、居住費及び食費については甲が月額【最低保障額】円を下回らない範囲で負担する。」 一言解説: 収入格差がある夫婦の場合、収入割合による分担のみでは生活水準が不安定になるおそれがあるため、最低保障額を設ける修正である。
B-2. 財産分与への配慮条項の具体化
修正後:「第7条の考慮にあたり、婚姻期間、家事・育児への貢献度その他一切の事情を総合的に考慮し、乙の寄与に応じた財産分与を行うことを甲は確認する。」 一言解説: 特有財産の範囲を明確にする一方で、家事・育児等の非金銭的貢献が財産分与において適切に評価されるよう、他方の当事者側が配慮を求める修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、婚姻前に夫婦となる当事者が、婚姻後の財産の帰属や管理方法についてあらかじめ取り決める場面で用いる。婚姻届出後に財産関係を新たに定めたい場合には、民法第755条以下の夫婦財産契約制度は婚姻届出前の契約を前提としているため利用できず、通常の夫婦間契約(ただし民法第754条による夫婦間契約取消権の適用可能性に留意)によることになる。また、離婚を前提とした財産の取り決めではなく、あくまで婚姻中の財産関係を規律するものである点で、離婚協議書や財産分与契約書とは性質が異なる。
根拠法令 夫婦財産契約は民法第755条に規定され、夫婦が婚姻の届出前にその財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は法定財産制(民法第760条から第762条まで)によるとされている。夫婦財産契約を締結した場合、これを婚姻の届出前に登記しなければ、夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない(民法第756条)。また、夫婦財産契約の内容は、婚姻の届出後は原則として変更することができず、変更の必要がある場合には家庭裁判所の許可を得て管理者を変更する等の手続によらなければならない(民法第758条)。法定財産制のもとでは、夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産とされ(民法第762条第1項)、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は共有と推定される(同条第2項)。日常の家事に関して生じた債務については、夫婦は連帯してその責任を負う(民法第761条)。
実務でよくある失敗と対策 第一に、夫婦財産契約を締結したにもかかわらず婚姻届出前の登記を怠り、第三者に対抗できない失敗がある。第8条のように登記の実施時期を明記し、確実に履行することが対策となる。第二に、婚姻後に事情が変化したにもかかわらず契約内容を変更できないことを知らずに硬直的な内容としてしまい、後年の生活実態と乖離する失敗がある。第9条のように変更手続の制約を理解した上で、当初からある程度の柔軟性を持たせた条項設計をすることが対策となる。第三に、特有財産の範囲を明確にする一方で、家事・育児等の非金銭的貢献が離婚時の財産分与で軽視される内容となり、他方当事者にとって著しく不利な契約と評価されるおそれがある失敗がある。B-2のように非金銭的貢献への配慮を明記することが対策となる。
夫婦財産契約は日本において登記件数が少なく実務の蓄積が限定的であるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 婚姻前に各自が有する特有財産を財産目録により特定したか
- [ ] 婚姻中の収入・財産の帰属ルールを明確にしたか
- [ ] 婚姻費用の分担方法(割合・最低保障額)を定めたか
- [ ] 日常家事債務の連帯責任(民法第761条)について確認したか
- [ ] 婚姻届出前に夫婦財産契約の登記を行う予定を立てたか
- [ ] 契約内容が離婚時の財産分与請求権を不当に制限していないか確認したか
- [ ] 非金銭的貢献(家事・育児)への配慮条項を設けたか
- [ ] 契約変更が原則としてできないことを理解しているか
- [ ] 事業用資産がある場合、その特有財産性を明確にしたか
- [ ] 両当事者が契約内容について十分に協議し納得しているか確認したか