法人を設立せずに共同で事業を行う契約書です。役割分担、費用と収益の分配、意思決定、成果物の権利帰属と解消手続を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
共同事業契約書(ジョイントベンチャー)
第1部: 書式本文
第1条(目的) 【当事者A】(以下「甲」という)及び【当事者B】(以下「乙」という)は、法人を新たに設立することなく、共同で【事業の名称・内容】(以下「本事業」という)を行うことに合意し、本契約を締結する。
第2条(出資) 1. 甲は本事業の遂行のため、【金銭○○円/現物○○/労務】を出資する。 2. 乙は本事業の遂行のため、【金銭○○円/現物○○/労務】を出資する。 3. 各当事者の出資の時期及び方法は、別途協議して定める。
第3条(役割分担) 1. 甲は、本事業のうち【企画・製造・資金調達等】を担当する。 2. 乙は、本事業のうち【販売・マーケティング・技術提供等】を担当する。 3. 各当事者は、自己の担当業務を善良な管理者の注意をもって遂行する。
第4条(業務執行者) 1. 本事業の業務執行者として【甲/乙/甲乙双方】を選任する。 2. 業務執行者は、本事業に関する日常的な業務の執行を行い、【○ヶ月】ごとに他方当事者に業務執行状況を報告する。
第5条(意思決定) 1. 本事業に関する重要事項(【年間予算の決定、新規取引先との契約締結、○○円を超える支出等】)は、甲乙協議の上、合意により決定する。 2. 前項に定める重要事項以外の日常的な業務執行は、業務執行者の判断により行うことができる。
第6条(費用及び収益の分配) 1. 本事業の遂行に要する費用は、甲【○】%、乙【○】%の割合で負担する。 2. 本事業により生じた収益は、費用を控除した上で、甲【○】%、乙【○】%の割合で分配する。 3. 分配は【毎月/四半期】ごとに行い、業務執行者は収支状況を他方当事者に開示する。
第7条(成果物の権利帰属) 1. 本事業の遂行過程で生じた発明、著作物その他の知的財産(以下「成果物」という)に係る権利は、甲乙の共有(持分割合は各【50】%)とする。 2. 甲及び乙は、共有に係る成果物の実施又は利用について、事前に相手方の承諾を得ることを要しない。ただし、第三者への実施許諾を行う場合は、相手方の書面による事前の承諾を要する。
第8条(第三者に対する責任) 甲及び乙は、本事業の遂行に関して第三者に対して負担した債務について、民法上の任意組合における組合員の責任に関する規定に従い責任を負う。ただし、甲乙間の内部関係における負担割合は第6条の定めるところによる。
第9条(契約期間) 本契約の有効期間は、契約締結日から【1】年間とする。ただし、期間満了の【3】ヶ月前までにいずれの当事者からも書面による終了の申出がない場合、本契約は同一条件でさらに【1】年間自動更新されるものとし、以後も同様とする。
第10条(解除及び解消) 1. 甲又は乙が本契約に違反し、相当の期間を定めた催告後も是正されない場合、相手方は本契約を解除することができる。 2. 本契約が終了した場合、甲及び乙は協議の上、本事業に係る資産及び負債を清算する。清算の結果生じた残余財産は第6条の分配割合に従って分配し、不足が生じた場合は同割合で負担する。
第11条(競業避止) 甲及び乙は、本契約の有効期間中、相手方の書面による事前の承諾なく、本事業と競合する事業を自ら又は第三者と共同で行ってはならない。
第12条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争は【○○地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 甲(主たる出資者・資金提供者)の立場からの修正パターン
甲が主たる出資者である場合、意思決定権限や損失負担の上限を確保する修正が有効である。
修正例(第5条への追加): 「前項の重要事項について協議が調わない場合、甲の意見を優先するものとする。ただし、乙の担当業務に直接関わる事項についてはこの限りでない。」 一言解説: 出資割合や責任の大きさに応じて甲に最終決定権を持たせることで、デッドロックによる事業停滞を防ぐ。もっとも乙の専門領域まで甲が支配すると乙の協力意欲を損なうため、適用範囲を限定することが望ましい。
修正例(第8条への追加): 「乙は、自己の担当業務に起因して第三者に生じた損害について、甲に対し求償されない範囲で自ら責任を負うものとし、甲の負担割合は出資額を限度とする。」 一言解説: 任意組合の組合員は民法675条により第三者に対し連帯責任(業務執行組合員が数人ある場合は損失分担割合、それ以外は等しい割合)を負いうるため、内部負担割合を明確にして甲のリスクを限定する狙いがある。ただし対外的な責任は本条項のみでは第三者に対抗できない点に留意が必要である。
B節: 乙(専門技術・販路提供側)の立場からの修正パターン
乙が技術やノウハウを提供する側である場合、成果物の権利や競業避止の範囲を限定する修正が有効である。
修正例(第7条への追加): 「乙が本契約締結以前から保有していた技術及びノウハウに基づき創出された成果物に係る権利は、乙の単独所有とし、甲は本事業の目的の範囲内でのみこれを利用できるものとする。」 一言解説: 乙が持ち込んだ既存技術(バックグラウンドIP)と本事業で新たに生まれた成果物(フォアグラウンドIP)を区別することで、乙の技術的資産が本事業終了後も不当に甲に帰属することを防ぐ。
修正例(第11条への修正): 「前項の競業避止義務は、本事業と直接競合する【製品・地域】に限定して適用するものとし、乙の既存事業には適用しない。」 一言解説: 乙が本事業以外にも多様な事業を展開している場合、包括的な競業避止義務を負うと乙の事業活動が過度に制約されるため、対象範囲を明確に限定する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
解説: 使う場面と使ってはいけない場面
本書式は、複数の当事者が新会社を設立せずに共同で事業を行う際に用いる契約であり、法的には民法上の組合契約(民法667条から688条)としての性質を持つことが多い。共同開発、共同販売、共同マーケティング等、比較的短期間・限定的な範囲での協働に適している。他方、長期的かつ大規模な事業展開を予定する場合や、対外的な取引において法人格による責任の分離(有限責任化)を重視する場合には、合弁会社の設立(株式会社等)を検討すべきであり、本書式をそのまま用いるべきではない。
解説: 根拠法令
本契約は民法667条(組合契約の定義)に基づく任意組合契約としての性質を有する。組合の業務執行については民法670条、組合員の対外的責任については民法675条(組合の債務について、組合員は損失分担の割合又は等しい割合で弁済の責任を負う旨)が適用される。任意組合には法人格がなく、組合員は原則として無限責任を負う点が株式会社との大きな相違点である。また、共同事業の内容によっては、価格や取引先を共同で制限する行為が独占禁止法上の不当な取引制限(共同行為の規制)に該当するおそれがあるため、事業内容の設計に当たっては注意を要する。任意組合か請負・業務委託の複合契約かの法的性質決定は個別の契約内容によって異なるため、契約締結前に専門家に確認することが望ましい。
解説: よくある失敗と条項上の対策
第一に、本契約が民法上の任意組合と認定された場合、対外的な債務について組合員が無限連帯責任(民法675条)を負う可能性があることを十分に説明・認識しないまま契約を締結し、想定外の債務を負担するケースがある。対策として、第8条のように対外的責任の法的性質を明記した上で、内部負担割合を明確にし、可能であれば取引先との契約時に各当事者の責任範囲を個別に明示する運用を併用する。第二に、収益分配基準が「協議の上決定する」といった曖昧な定めにとどまり、事業が軌道に乗った後に分配割合をめぐって対立するケースがある。対策として、第6条のように出資比率や役割分担に応じた具体的な分配割合をあらかじめ数値で定めておく。第三に、契約解消時の清算方法(残余財産の分配、負債の負担、在庫や設備の帰属等)が定められておらず、事業を終了する段階で紛争化するケースがある。対策として、第10条のように解除事由と清算手続を具体的に規定しておく。
第4部: 使用前チェックリスト
- 本事業の目的及び対象範囲が具体的に特定されているか
- 各当事者の出資内容(金銭・現物・労務)と評価額が明記されているか
- 役割分担及び業務執行者の権限範囲が明確か
- 重要事項の意思決定方法及びデッドロック時の解消方法が定められているか
- 費用負担及び収益分配の割合と分配時期が明記されているか
- 成果物の権利帰属(共有か単独所有か)及び既存技術との切り分けが明確か
- 対外的な債務について組合員が無限連帯責任を負うリスクを認識し説明したか
- 競業避止義務の範囲が担当業務に照らして合理的か
- 契約期間、更新条件及び解除事由が明記されているか
- 契約解消時の清算手続(残余財産の分配、負債の負担)が具体的に定められているか
- 独占禁止法上の共同行為規制に抵触するおそれがないか検討したか
- 準拠法及び紛争解決手続が定められているか