複数当事者が費用と役割を分担して実証を行う際の覚書。成果の共有方法と特許法第73条の共有発明の取扱い、実験中の事故時の責任分担を定める。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
共同実証実験に関する覚書
第1部: 書式本文
〇〇〇〇、〇〇〇〇及び〇〇〇〇(以下、それぞれを「実施者」といい、総称して「実施者ら」という。)は、【実証テーマ】に関する共同実証実験(以下「本実験」という。)の実施につき、次のとおり覚書(以下「本覚書」という。)を締結する。
第1条(本実験の概要) 実施者らは、【実施場所・自治体名/施設名】において、【対象技術・サービス】の有効性、社会実装上の課題及び安全性を確認するため、本実験を共同で実施する。
第2条(実施期間及び実施場所) 本実験の実施期間は【開始日】から【終了日】までとし、実施場所は別紙「実験実施計画書」に定めるとおりとする。期間の延長又は場所の変更は、実施者ら全員の書面による合意を要する。
第3条(役割分担) 実施者らの役割分担は、別紙「役割分担表」に定めるとおりとし、各実施者は自己の分担業務について善良な管理者の注意をもってこれを遂行する。役割分担表に定めのない業務が生じた場合、実施者らは協議のうえ担当を決定する。
第4条(費用の分担) 1. 本実験の実施に要する費用(設備の設置費、運用費、保険料その他別紙「費用分担表」に掲げる費用をいう。)は、実施者らが同表に定める割合で分担する。 2. 各実施者は、自己が分担する費用について、別紙に定める支払期限までに他の実施者又は幹事実施者が指定する口座に支払う。 3. 実施者らは、本実験に関して国又は地方公共団体等から助成金・補助金の交付を受ける場合、その配分方法及び会計処理を別途協議のうえ定める。
第5条(幹事実施者) 実施者らは、実施者らの中から〇〇〇〇を幹事実施者に指定し、実施者ら相互間の連絡調整、行政手続の窓口及び費用の取りまとめを委任する。幹事実施者は、他の実施者の同意なく本実験の内容を変更してはならない。
第6条(第三者への協力要請) 実施場所を提供する自治体又は施設の管理者は、本実験の実施に必要な範囲で、施設利用の許可、周辺住民への周知その他の便宜を実施者らに提供する。当該便宜の提供が公の施設の目的外使用に該当する場合、関連する条例又は使用許可の条件に従うものとする。
第7条(実験成果の取扱い) 1. 本実験を通じて得られたデータ、測定結果及び分析結果(以下「実験成果」という。)は、実施者ら全員が共有し、各自の事業活動において利用することができる。 2. 実施者らは、実験成果を対外的に公表する場合、公表内容及び時期について事前に他の実施者らの承諾を得るものとする。ただし、行政機関からの法令に基づく開示要請への対応はこの限りでない。 3. 実験成果に個人情報が含まれる場合、実施者らは個人情報保護法の定めるところにより、あらかじめ取得した同意の範囲を超えて利用してはならない。
第8条(発明等の取扱い) 1. 本実験の実施過程で実施者らが共同して発明、考案又は意匠(以下「共有発明等」という。)を創出した場合、共有発明等に係る特許を受ける権利その他の知的財産権は、実施者らの共有とし、持分は貢献度に応じて別途協議のうえ定める。 2. 各実施者は、特許法第73条の定めるところにより、他の共有者の同意を得なければ、共有発明等について自己の持分を譲渡し、又は他の共有者以外の第三者に通常実施権を許諾することができない。 3. 各実施者は、同条の定めるところにより、契約に別段の定めがない限り、他の共有者の同意を得ることなく自ら共有発明等の実施をすることができる。
第9条(事故発生時の責任分担) 1. 実施者ら及び施設の管理者は、本実験の実施に際し、参加者、来場者及び第三者の安全確保のために必要な措置を講ずる。 2. 本実験の実施中に人身事故、物損事故その他の事故が発生した場合、事故原因の調査に協力するとともに、当該事故が特定の実施者の分担業務における注意義務違反に起因するときは、当該実施者がその責任を負う。原因の切り分けが困難な場合、実施者らは責任の割合を協議のうえ定める。 3. 実施者らは、本実験の実施に際し、別紙に定める内容の損害保険に加入する。
第10条(秘密保持) 実施者らは、本実験に関連して知り得た他の実施者の営業上又は技術上の秘密情報を、他の実施者の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。本条の義務は本覚書終了後【 】年間存続する。
第11条(有効期間及び中途脱退) 本覚書は、締結日から本実験の終了まで効力を有する。実施者の一人が本実験から中途で脱退する場合、脱退希望日の【 】日前までに他の実施者らに書面で通知し、既発生の費用分担義務及び守秘義務は脱退後も存続する。
第12条(協議事項) 本覚書に定めのない事項及び本覚書の解釈に疑義が生じた事項については、実施者らが誠実に協議して解決する。
第13条(合意管轄) 本覚書に関して実施者ら間に生じた紛争は、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 共同実施者向けの修正
A-1. 貢献度に応じた持分算定基準の明確化
修正後:「共有発明等の持分は、各実施者が投下した実験費用の負担割合及び創出への技術的寄与度を基準とし、実施者らが発明ごとに個別の覚書で確認する。」 一言解説: 特許法第73条は共有者間の持分割合そのものを定めていないため、紛争を避けるにはあらかじめ算定基準を合意しておく必要がある。
A-2. 単独実施の事前通知義務の追加
追加条文例:「各実施者は、共有発明等を自ら実施しようとするときは、実施開始の30日前までに他の共有者に書面で通知する。」 一言解説: 特許法第73条第2項により各共有者は単独で自由実施ができるが、事業展開の重複を避けるため事前通知の運用を上乗せする修正である。
B. 自治体・施設向けの修正
B-1. 施設利用に伴う近隣対応の実施者負担化
修正後:「実施者らは、実験実施区域の近隣住民及び施設利用者への説明、苦情対応及び原状回復を自らの費用と責任において行い、施設の管理者に一切の負担を求めない。」 一言解説: 実験場所を提供する立場からは、近隣トラブルの一次対応と費用負担を実施者側に寄せる修正が典型的である。
B-2. 公の施設としての中立性確保
追加条文例:「本実験の実施及び実験成果の公表は、特定の実施者の商品又はサービスを広告宣伝する内容を含んではならない。管理者は、内容が本条に反すると認めるときは、公表の中止を求めることができる。」 一言解説: 公共施設が特定事業者の宣伝に利用されているとの誤解を避けるため、管理者側が公表内容への関与権を確保する修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、単一のベンダーとユーザーの二当事者間ではなく、複数の企業、研究機関、自治体又は施設が費用・場所・役割を分担しながら共同で技術やサービスの実証を行う場面に用いる。二当事者間で一方が他方の技術の実現可能性のみを検証する場合には、費用分担や共有発明の持分といった多数当事者特有の論点が生じないため、二当事者型のPoC契約書を用いる方が適切である。
根拠法令 共有発明等の取扱いについては特許法第73条が定めており、同条第1項は共有に係る特許を受ける権利の持分譲渡や専用実施権の設定・通常実施権の許諾には他の共有者全員の同意を要する旨を、同条第2項は契約に別段の定めがない限り各共有者が自ら特許発明の実施をすることができる旨を定めている。実験成果に個人情報が含まれる場合は個人情報保護法の各規定(取得時の利用目的の特定・通知等)を遵守する必要がある。実験中の事故については、各実施者の分担業務における注意義務違反が認められれば民法上の不法行為責任(民法第709条)又は債務不履行責任が問題となり得るため、責任分担の基準をあらかじめ合意しておくことが重要である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、共有発明等の持分割合や単独実施の可否について取り決めがないまま実験を開始し、成果が出た後に権利関係で対立する失敗がある。第8条及びA-1のように、持分算定基準と特許法第73条に基づく単独実施の可否を事前に明記することが対策となる。第二に、事故発生時にどの実施者が責任を負うのかが不明確で、被害者への対応が遅れる失敗がある。第9条のように、分担業務との関連性に応じた責任分担の原則と保険加入を定めることが対策となる。第三に、実験成果の公表内容について実施者間の事前調整がなく、一部の実施者のみが有利になるような発表がなされてしまう失敗がある。第7条第2項及びB-2のような事前承諾・関与の仕組みが対策となる。
複数当事者が関与する実証実験では費用分担や責任分担の合理的な設計が事案ごとに異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 実施者らの氏名・名称及び幹事実施者を特定したか
- [ ] 役割分担表及び費用分担表を別紙で具体的に定めたか
- [ ] 助成金・補助金を受ける場合の配分方法を協議したか
- [ ] 共有発明等の持分算定基準を特許法第73条を踏まえて定めたか
- [ ] 各実施者による単独実施の可否・事前通知の要否を定めたか
- [ ] 実験成果の公表に関する事前承諾の手続を定めたか
- [ ] 実験成果に個人情報が含まれる場合の取扱いを確認したか
- [ ] 事故発生時の責任分担の原則及び保険加入の有無を定めたか
- [ ] 自治体・施設の管理者が負う近隣対応の範囲を明確にしたか
- [ ] 中途脱退時の費用精算及び守秘義務の存続を定めたか