企業間や産学で研究テーマを共同推進する場面の契約書。特許法第38条を踏まえた成果の帰属と背景知的財産の取扱いを定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
共同研究開発契約書
第1部: 書式本文
【委託側企業】(以下「甲」という)と【研究実施側】(以下「乙」という)は、下記研究テーマに関する共同研究開発に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(目的・研究テーマ) 甲乙は、【研究テーマ】(以下「本研究」という)を共同で実施することを目的とし、本契約に定める条件に従い協力する。
第2条(実施体制・役割分担) 本研究の実施体制及び甲乙の役割分担は別紙研究計画書のとおりとする。研究責任者は甲【氏名】、乙【氏名】とする。
第3条(研究費用の負担) 本研究に要する費用の負担は【甲が全額負担/甲乙折半/別紙予算表のとおり】とする。乙は費用の使途につき甲に定期的に報告する。
第4条(背景知的財産の取扱い) 1. 甲及び乙が本研究開始前から保有し、又は本研究とは独立して取得した知的財産(以下「背景知的財産」という)は、それぞれの当事者に帰属する。 2. 各当事者は、本研究の遂行に必要な範囲に限り、相手方に対し自己の背景知的財産の無償の使用を許諾する。当該許諾は本研究の目的外には及ばない。 3. 背景知的財産に該当する情報・データは、別紙背景知的財産目録により事前に特定する。
第5条(研究成果に係る知的財産権の帰属) 1. 本研究の遂行の過程で新たに生じた発明、考案その他の知的財産(以下「新規知的財産」という)のうち、一方当事者の従業者等のみが発明者であるものは当該当事者に帰属する。 2. 甲乙双方の従業者等が共同で発明したものは、特許法第38条に基づき甲乙の共有とし、共同出願を行う。持分割合は発明への貢献度に応じ別途協議する。
第6条(新規知的財産の実施) 新規知的財産のうち共有に係るものについて、各当事者は特許法第73条第2項に基づき自ら実施できる。第三者への実施許諾には他の当事者の同意を要する。
第7条(不実施補償) 乙が新規知的財産を自ら実施しない場合において、甲が新規知的財産を独占的に実施するときは、甲は乙に対し、当該実施の対価として不実施補償金を支払う。金額及び算定方法は別途協議する。
第8条(成果の公表) 乙が本研究の成果を学会発表、論文等により公表しようとする場合、事前に甲に通知し、甲は特許出願等の必要な措置を講じるための期間として【日数】日の猶予を求めることができる。
第9条(秘密保持) 甲乙は、本研究に関連して知り得た相手方の技術上・営業上の秘密情報を、本研究の目的以外に使用し、又は第三者に開示してはならない。
第10条(研究期間・中断) 本研究の実施期間は【期間】とする。天災その他やむを得ない事由により本研究の継続が困難となった場合、甲乙協議のうえ中断又は中止できる。
第11条(競合研究の制限) 乙は、本研究の実施期間中、甲の事前の書面による承諾なく、本研究テーマと実質的に同一の研究を第三者との間で実施してはならない。
第12条(契約終了後の取扱い) 本契約終了後も、第4条、第7条、第9条の規定はなお効力を有する。
第13条(準拠法・管轄) 本契約は日本法に準拠し、【地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 委託側企業向け
第5条に「乙は新規知的財産が生じた場合、速やかに甲に通知し、甲が事業化のため独占的な実施を希望するときは、乙は甲に優先的に専用実施権を許諾する」との優先実施条項を追加し、第11条の競合研究制限の対象を「本研究テーマに関連する分野全般」に拡張する。一言解説: 費用負担の対価として成果の事業化独占権を確保することが甲側の交渉の核心である。
B. 研究実施側向け
第7条の不実施補償について「甲が新規知的財産を独占的に実施する期間中、乙は毎年【金額】円又は甲の当該実施に係る売上高の【料率】%のいずれか高い額の支払いを受ける」と具体化し、第8条の公表猶予期間について「【日数】日を超えて甲が出願準備を完了しない場合、乙は独自の判断で公表できる」との歯止め条項を追加する。一言解説: 自ら実施しない乙にとっては、不実施補償の算定基準を具体的な金額・料率で固定し、公表の自由を過度に制約されないようにすることが重要である。
C. 産学連携対応(大学等との共同研究)
第3条を「乙(大学)が負担する研究費用相当分は、甲が共同研究費として乙に支払う」と改め、第7条を「乙(大学)は自ら新規知的財産を実施しないことを前提とし、甲が独占的に実施する場合、甲は乙に対し実施許諾に係る実施料に加え、独占的地位の対価として不実施補償金を支払う」と具体化し、第4条に「乙の教員が本研究に関連して個人で保有する研究知見は背景知的財産に含む」との大学特有の整理を追加する。一言解説: 大学は自ら事業化しないため、通常の共有特許の実施料収入だけでは経済的に不均衡となりやすく、独占実施の対価としての不実施補償を明確に切り分けて規定する必要がある。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、企業間又は企業と大学・研究機関が特定の研究テーマについて人員・費用・技術を持ち寄り共同で研究開発を推進する場面で用いる。既に発明が完成し、出願手続のみを取り決める場面では共同出願契約書を用いるべきであり、本書式は発明完成前の研究段階全体の枠組みを定めるものである点で対象が異なる。
本書式で最も重要な実務論点は、背景知的財産(バックグラウンドIP)と新規知的財産(フォアグラウンドIP)の峻別である。背景知的財産とは各当事者が本研究開始前から保有していた技術・データ・ノウハウであり、新規知的財産とは本研究の遂行過程で新たに生じた発明等をいう。この区分を契約締結時点で別紙目録により明確化しておかないと、研究終了後にどの技術がどちらに属するかを巡って争いが生じ、成果の帰属や実施条件の交渉が難航する。本書式第4条・第5条はこの区分を明文化するための条項である。
新規知的財産の帰属については、特許法第38条により共同発明者が存在する場合は共有となり共同出願義務が生じる。共有特許権の実施については特許法第73条第2項により各共有者が自由に自己実施できる一方、乙(特に大学)が自ら事業化しない場合、この自己実施自由の原則だけでは乙に経済的利益がもたらされない。そこで実務上定着しているのが不実施補償の仕組みであり、甲が独占的に実施する場合には、通常の実施料に加えて乙の非実施による機会損失を補う対価を別途支払う。これは大学との共同研究に限らず、片方の当事者のみが事業化を担う企業間共同研究でも同様の考え方が妥当する。
実務でよくある失敗の一つ目は、背景知的財産と新規知的財産を区別せず契約を締結し、研究終了後に既存技術の帰属を巡って紛争になるケースである。対策として第4条で背景知的財産目録を事前に作成する。二つ目は、大学等との共同研究において不実施補償を定めず、大学側の経済的不均衡から交渉が難航し、研究成果の実用化が停滞するケースである。対策として第7条で不実施補償の算定方法を具体的に規定する。三つ目は、研究員が共同発明者であることの確認を怠り、特許法第38条の共同出願義務違反や発明者漏れによる特許無効リスクを招くケースである。対策として発明が生じた都度、発明者の確認手続を設ける。なお、個別事案は専門家に確認してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 研究テーマ・実施体制・役割分担を別紙で具体的に特定したか
- [ ] 背景知的財産を目録化し新規知的財産と区別したか
- [ ] 背景知的財産の使用許諾範囲を本研究目的に限定したか
- [ ] 新規知的財産の帰属ルール(単独帰属・共有)を明記したか
- [ ] 共同発明の共同出願義務(特許法第38条)を確認したか
- [ ] 共有特許権の自己実施(特許法第73条2項)と第三者許諾の同意要件を明記したか
- [ ] 大学等が当事者の場合、不実施補償の要否・算定方法を検討したか
- [ ] 研究成果の公表と特許出願準備の調整手続を定めたか
- [ ] 秘密保持義務の対象範囲と期間を確認したか
- [ ] 競合研究の制限範囲が過度に広くないか確認したか
- [ ] 研究費用の負担割合と報告義務を定めたか
- [ ] 契約終了後も存続する条項を明記したか