複数社で共同発明を出願する場面の取決め書。特許法第38条の共同出願義務と第73条の共有持分の実施・処分ルールを明文化します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
共同出願契約書
第1部: 書式本文
【当事者A】(以下「甲」という)と【当事者B】(以下「乙」という)は、共同で完成させた発明に係る特許出願に関し、特許法第38条に基づき以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、甲乙が共同で完成させた発明【発明の名称】(以下「本発明」という)につき、共同で特許出願(以下「本出願」という)を行い、これにより生じる特許を受ける権利及び将来成立する特許権(以下「本特許権等」という)の取扱いを定めることを目的とする。
第2条(共同出願の実施) 甲乙は、特許法第38条に基づき、本発明について共同で特許出願を行う。いずれの当事者も、他の当事者の同意を得ずに単独で本発明について出願してはならない。
第3条(発明者・貢献の確認) 甲乙は、本発明の発明者及びその貢献度を別紙発明者確認書のとおり相互に確認する。
第4条(持分割合) 本特許権等に係る甲乙の持分割合は、発明への貢献度を考慮し、甲【割合】、乙【割合】とする。
第5条(出願手続の分担) 本出願に係る特許庁への手続は【甲/乙】が代表して行うものとし、他方当事者はこれに必要な協力(委任状の交付等)を行う。
第6条(費用負担) 出願、審査請求、拒絶理由対応及び登録に要する費用は、甲乙の持分割合に応じて負担する。
第7条(自己実施) 甲及び乙は、特許法第73条第2項に基づき、他の共有者の同意を得ることなく、また他の共有者に対価を支払うことなく、本特許権等に係る発明を自ら実施できる。
第8条(第三者への実施許諾・持分譲渡) 1. 甲又は乙が本特許権等について第三者に通常実施権を許諾し、又は専用実施権を設定しようとする場合、特許法第73条第3項に基づき、他の当事者全員の書面による同意を得なければならない。 2. 甲又は乙が自己の持分を第三者に譲渡しようとする場合、特許法第73条第1項に基づき、他の当事者全員の同意を得なければならない。
第9条(秘密保持) 甲乙は、本発明の内容及び本出願に関する情報を、出願前及び出願後を問わず、相手方の承諾なく第三者に開示してはならない。
第10条(拒絶査定・出願放棄) 本出願が拒絶査定を受けた場合の不服申立ての要否、又は出願を放棄する場合の手続については、甲乙協議のうえ決定する。一方当事者のみが持分を放棄する場合の取扱いも協議による。
第11条(侵害対応) 第三者が本特許権等を侵害していることを発見した場合、甲乙は速やかに通知し合い、差止請求・損害賠償請求等の対応方針を協議する。
第12条(存続期間中の協議) 甲乙は、本特許権等の存続期間中、その活用方針(実施許諾先の選定、ライセンス条件等)について定期的に協議する。
第13条(脱退・持分放棄) 甲又は乙が本共同出願・共有関係から脱退を希望する場合の手続及び持分の処理は甲乙別途協議のうえ定める。
第14条(準拠法・管轄) 本契約は日本法に準拠し、【地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 共同出願人間(対等な企業間)
第4条の持分割合について「甲乙は本発明完成後、発明者へのヒアリング及び貢献度評価シートに基づき持分割合を確定し、別紙に記録する」との客観的算定手続を追加し、第6条の費用負担を持分割合に完全連動させる。一言解説: 対等な関係では、持分割合の決定過程を客観化し後日の紛争を防ぐことが重要である。
B. 主導企業向け
第5条を「甲が本出願に関する一切の手続を主導し、費用を一旦立て替えたうえで乙に対し持分割合に応じた費用を請求する」と改め、第12条に「甲は本特許権等の活用方針を乙に提案し、乙が【期間】以内に異議を述べない場合は甲の提案どおり実施する」との手続主導条項を追加する。一言解説: 出願実務を主導する企業は、手続の遅延を避けるため意思決定のデフォルトルールを定めておくとよい。
C. 大学・研究機関との共同
第7条に「甲(大学)は自ら本特許権等を実施しないことを前提とし、乙(企業)が独占的に実施する場合には、乙は甲に対し実施の対価として別途協議する不実施補償を支払う」との条項を追加し、第4条の持分割合について「大学の研究資金拠出と企業の事業化ノウハウ提供の双方を考慮して定める」との考慮要素を明記する。一言解説: 大学は事業実施主体とならないことが多いため、自己実施無償の原則(特許法第73条2項)のみでは経済的均衡が取れず、不実施補償の手当てが必要になる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、複数の企業又は企業と大学・研究機関が共同で発明を完成させ、これを特許出願する場面で用いる。発明が完成する前の共同研究の枠組み自体を定める場合は共同研究開発契約書を用いるべきであり、本書式は主に発明完成後、出願手続に向けた権利関係の整理を目的とする点で使い分けが必要である。
法的根拠として、特許法第38条は共同発明に係る特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができないと定める(共同出願義務)。この義務に違反して単独出願をした場合、当該出願は拒絶理由(特許法第49条第2号)に該当し、仮に誤って登録されても無効理由(特許法第123条第1項第2号)となる重大なリスクを伴う。本書式第2条はこの義務を契約上も再確認するものである。
持分割合の決定方法については法律上の明文規定がなく、実務上は発明への技術的貢献度、資金負担割合、当事者数による頭割りなど複数のアプローチがあり、当事者間の交渉により決定する。持分割合は将来の実施許諾収益の分配やライセンス収入の按分に直結するため、決定過程を書面化しておくことが望ましい。
共有特許権の利用に関しては、特許法第73条に非対称なルールが定められている。第2項により、各共有者は他の共有者の同意なく、また対価を支払うことなく自ら実施できる(自己実施自由の原則)。これに対し第3項により、第三者への実施許諾(通常実施権の許諾・専用実施権の設定)には他の共有者全員の同意が必要とされる。この非対称性を正確に理解していないと、一方当事者が独断で第三者にライセンスしてしまうトラブルが生じやすい。
実務でよくある失敗の一つ目は、発明完成後、時間的制約から一方当事者が単独で先に出願してしまい、特許法第38条違反として無効理由を抱えるケースである。対策として第2条・第9条により出願前の情報共有と共同出願の徹底を明文化する。二つ目は、持分割合を「共有とする」とのみ定め具体的な割合を数値化せず、後日のライセンス収益配分や費用負担で紛争になるケースである。対策として第4条で算定手続を明確化する。三つ目は、共有者の一方が他の共有者への通知や同意取得を怠ったまま第三者にライセンスを行い、特許法第73条第3項違反となるケースである。対策として第8条で事前の書面同意手続を明記する。なお、個別事案は専門家に確認してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本発明の内容と発明者を別紙で特定したか
- [ ] 共同出願義務(特許法第38条)を条項に明記したか
- [ ] 持分割合とその算定根拠を明確にしたか
- [ ] 出願手続の主導者と費用負担割合を定めたか
- [ ] 自己実施が同意・対価不要である旨(特許法第73条2項)を確認したか
- [ ] 第三者への実施許諾に全員同意が必要な旨(特許法第73条3項)を明記したか
- [ ] 持分譲渡の際の同意手続(特許法第73条1項)を定めたか
- [ ] 大学等が当事者の場合、不実施補償の要否を検討したか
- [ ] 拒絶査定・出願放棄時の意思決定手続を定めたか
- [ ] 秘密保持義務の範囲(出願前情報を含む)を確認したか
- [ ] 第三者侵害発見時の対応手続を定めたか
- [ ] 管轄裁判所を明記したか