塾や出版社が問題集・映像教材の制作を外部に委託する契約書。著作権法の著作権譲渡と著作者人格権の不行使、検定教科書等の引用範囲を取り決めます。

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教材制作委託契約書

第1部: 書式本文

【塾又は出版社名】(以下「甲」という。)と【制作者名】(以下「乙」という。)は、甲が乙に対し教材の制作を委託することに関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(委託業務) 甲は乙に対し、別紙仕様書に定める問題集、解説冊子又は映像教材(以下「本教材」という。)の制作業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。

第2条(納期及び納品方法) 乙は、【〇年〇月〇日】までに、本教材の原稿又はデータを甲の指定する方法により納品する。

第3条(委託料及び支払方法) 甲は乙に対し、本業務の対価として【〇〇】円を、本教材の検収完了後【〇〇】日以内に、乙の指定する口座に振り込んで支払う。

第4条(検収) 甲は、納品を受けた日から【〇〇】日以内に本教材の内容を検査し、仕様書の内容に適合しない場合、乙に修正を求めることができる。乙は、甲の指摘した箇所について、無償で修正の上、再納品する。

第5条(既存著作物の引用及び権利処理) 乙は、本教材の制作にあたり第三者の著作物を利用する場合、著作権法上認められる引用の要件を満たす範囲で行い、又は事前に権利者の許諾を得るものとする。検定教科書その他の第三者著作物を掲載する場合、乙は当該著作物の出所を明示し、必要な範囲を超えて利用しない。

第6条(著作権の帰属及び譲渡) 本教材に係る著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)は、乙から甲に譲渡するものとし、本契約に基づく委託料の支払いをもって当該譲渡の対価とする。

第7条(著作者人格権の不行使) 乙は、甲又は甲の指定する第三者が本教材を利用、改変、編集又は増刷するにあたり、著作者人格権を行使しない。

第8条(乙の作成者名の表示) 甲は、本教材において、乙の希望を踏まえた合理的な範囲で著作者名又は制作協力者名を表示することができるものとし、その要否及び表示方法は甲乙協議の上定める。

第9条(再委託の制限) 乙は、甲の事前の書面による承諾を得た場合を除き、本業務の全部又は主要な部分を第三者に再委託してはならない。

第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行を通じて知り得た相手方の技術上・営業上の秘密情報を、相手方の事前の承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。

第11条(誤り・不適切表現に関する責任) 乙は、本教材の内容に事実誤認、著作権侵害その他の法令違反がないことを保証する。本教材の内容に起因して第三者との紛争が生じた場合、乙は自己の責任と負担においてこれを解決する。

第12条(契約解除) 甲又は乙は、相手方に本契約の重大な違反があり、相当期間を定めた催告後も是正されない場合、本契約を解除することができる。

第13条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団等反社会的勢力に該当しないことを表明し、これに該当した場合、相手方は催告なく本契約を解除できる。

第14条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、甲の本店所在地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 委託者(塾・出版社)向けの修正

A-1. 増刷・改訂時の追加対価不要の明確化

修正後:「甲は、本教材の内容を変更しない範囲での増刷について、乙に対し追加の対価を支払う義務を負わない。ただし、乙に新たな改訂作業を委託する場合は、別途協議の上、対価を定める。」 一言解説: 著作権譲渡を受けた後の増刷実務を円滑にするため、単純増刷と改訂委託とを区別して対価の要否を明確化する修正である。

A-2. 検定教科書等の引用範囲に関する乙の表明保証の強化

修正後:「乙は、本教材に検定教科書その他の第三者著作物からの引用を含める場合、事前に甲へ引用箇所及び引用元を報告し、甲の確認を経た上で使用するものとする。」 一言解説: 教科書等の教育目的の権利制限規定の適用範囲は個別の利用態様により判断が分かれ得るため、委託者側が事前確認の機会を確保する修正である。

B. 受託者(教材制作者)向けの修正

B-1. 著作者名表示の維持を求める修正

修正後:「甲は、本教材を利用するにあたり、特段の事情がない限り、乙の氏名又は名称を制作者として表示するものとする。」 一言解説: 著作者人格権のうち氏名表示権は不行使特約の対象となり得るが、実務上は制作実績の表示を維持したい受託者の利益に配慮し、原則表示とする修正である。

B-2. 大幅な改変を行う場合の事前通知

修正後:「甲が本教材の内容を大幅に変更し、又は乙の意図する構成を著しく損なう改変を行う場合、甲は事前に乙にその概要を通知するよう努める。」 一言解説: 著作者人格権の不行使特約により法的な差止め等は制限されるとしても、制作者としての信頼関係維持の観点から事前の情報共有を求める修正である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面

本書式は、学習塾や出版社が問題集、解説冊子、映像教材等の制作を外部のライター、講師又は制作会社に委託する場面で用いる。教材の企画のみを委託し、著作物の創作性が乙側にほとんど生じない単純な作業委託の場合は、著作権譲渡条項の要否を含め、契約内容を実態に応じて調整する必要がある。

根拠法令

著作権のうち翻案権等(著作権法第27条)及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法第28条)は、譲渡契約においてこれらの権利が譲渡の目的として特掲されていない限り、譲渡した者に留保されたものと推定される(同法第61条第2項)。そのため、これらの権利を含めて譲渡を受ける場合は、契約書上明記することが重要である。また、著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができない(同法第59条)ため、譲渡ではなく不行使の合意という形式で実務上の対応を図るのが一般的である。検定教科書等の著作物を教育目的で利用する場面では、同法第33条(教科用図書等への掲載)及び第35条(学校その他の教育機関における複製等)に定める権利制限規定の適用範囲を踏まえ、要件を満たさない利用は権利者の許諾を要する点に留意する必要がある。

実務でよくある失敗と対策

第一に、著作権譲渡条項のみを設け、著作権法第61条第2項の推定規定を意識せず翻案権等の特掲を欠いた結果、増刷時の改訂やデジタル教材化の場面で権利関係が不明確になる例がある。第二に、著作者人格権について「一切行使しない」とのみ定め、氏名表示など制作者の実務上の利益に配慮しないまま契約し、後日の関係悪化を招く例がある。第三に、検定教科書からの引用が権利制限規定の要件を満たすかどうかの検討が不十分なまま教材に転載し、著作権侵害の指摘を受ける例もある。第四に、映像教材の制作を委託する場合において、出演者(講師・ナレーター等)の肖像権や実演家としての権利処理を制作者任せにしてしまい、納品後に公表・配信の可否をめぐって権利関係が整理できていないことが判明する例もある。映像教材については、著作権に加えて出演者の権利処理の主体及び範囲を契約書上明確にしておく必要がある。個別事案は専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 著作権譲渡の対象に著作権法第27条・第28条の権利を含めるか明記したか
  • [ ] 著作者人格権の不行使特約の範囲(氏名表示等の例外の要否)を検討したか
  • [ ] 検定教科書等の第三者著作物の引用が権利制限規定の要件を満たすか確認する体制を設けたか
  • [ ] 増刷と改訂委託を区別し、それぞれの対価の要否を明記したか
  • [ ] 納期・検収基準及び修正対応の範囲を具体的に定めたか
  • [ ] 再委託の可否及び承諾手続を明記したか
  • [ ] 秘密保持義務の対象範囲及び存続期間を確認したか
  • [ ] 教材内容に起因する第三者紛争時の責任分担を定めたか
  • [ ] 対価の支払時期を検収完了と紐づけて明記したか
  • [ ] 契約解除事由及び解除時の既払金・成果物の取扱いを整理したか
  • [ ] 映像教材の場合、出演者の肖像権・実演家の権利処理の主体を明確にしたか