一定人数の開発チームを月額で確保するラボ型契約。民法第656条の準委任を基礎に、稼働報告と指揮命令の分離により労働者派遣法上の偽装請負を回避。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
ラボ型開発契約書
第1部: 書式本文
ラボ型開発契約書
【委託者名】(以下「甲」という。)と【受託者名】(以下「乙」という。)は、乙が甲のために開発業務を行う専属チーム(以下「本件チーム」という。)を編成し、月額固定の対価で継続的に業務を提供する取引(以下「本契約」という。)について、次のとおり契約を締結する。
第1条(目的) 本契約は、甲が乙に対し特定の成果物の完成を発注するのではなく、一定人数・スキルセットの技術者から成る本件チームの稼働を一定期間確保し、甲の指示に基づき継続的な開発業務(以下「本件業務」という。)を委託することを目的とする。
第2条(準委任契約であることの確認) 1 本契約は民法第656条に定める準委任契約であり、乙は本件業務の遂行にあたり善良な管理者の注意義務(同法第644条準用)を負うにとどまり、特定の成果物の完成を約するものではない。 2 甲及び乙は、本契約が請負契約(民法第632条)ではなく、稼働時間・工数の提供を内容とする契約であることを相互に確認する。
第3条(本件チームの編成) 1 乙は、次の人数・スキルセットを満たす技術者により本件チームを編成し、甲の指示に基づき本件業務に従事させる。 一 人数:【 】名 二 スキルセット:【言語・フレームワーク・経験年数等】 三 稼働期間:月間【140】時間から【180】時間の範囲(以下「標準稼働範囲」という。) 2 乙は、本件チームの構成員(以下「本件要員」という。)の氏名及び経歴を甲に事前に開示し、甲の合理的な異議がない限り当該要員を稼働させる。
第4条(業務の遂行方法及び稼働報告) 1 乙は、本件要員に本件業務を遂行させるにあたり、その具体的な作業手順、労働時間の管理及び業務配分について、自らの裁量と責任において指揮命令を行う。 2 乙は、毎月末日までに、当該月の本件要員ごとの稼働実績を記載した稼働報告書(別紙【1】様式)を甲に提出する。 3 稼働報告書には、作業日、作業内容の概要及び稼働時間を記載するものとし、甲は当該報告書に基づき稼働状況を確認する。
第5条(指揮命令権の所在) 1 甲は、本契約が準委任契約であることに鑑み、本件要員に対し直接の労働時間管理、勤怠管理又は個別具体的な作業指示(以下「直接指揮」という。)を行ってはならない。 2 甲が本件業務に関する要望又は課題を伝える場合は、乙が指定する本件チームの責任者(以下「乙側責任者」という。)を通じて行い、乙側責任者が本件要員への具体的指示に翻訳して伝達する。 3 甲乙は、本条の運用が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)上の労働者派遣に該当しない、いわゆる偽装請負のリスク回避に不可欠であることを確認する。
第6条(偽装請負リスクへの対応) 1 甲は、本件要員の採用、配置転換、懲戒、勤怠管理その他の雇用管理上の指揮監督を行わない。 2 甲は、本件要員に対し、甲の他の従業員と同様の服務規律(始業終業時刻の管理、施設内における具体的な業務命令等)を及ぼしてはならない。 3 本条に違反する運用が認められる場合、甲乙は速やかに是正措置を協議する。なお、労働者供給事業を行うこと及び利用することは職業安定法第44条により禁止されており、労働者供給と評価されないよう指揮命令系統を乙側に一元化する。
第7条(要員の交代) 1 乙は、本件要員が退職、傷病その他やむを得ない事由により稼働を継続できなくなった場合、速やかに甲に通知のうえ、同等以上のスキルセットを有する後任要員を提案し、甲の合理的な承認を得て交代させる。 2 甲は、本件要員のスキルが第3条第1項第二号に定めるスキルセットを著しく下回ると合理的に判断する場合、乙に対し理由を明示して交代を求めることができる。この場合、乙は【10】営業日以内に代替要員の提案を行う。 3 要員交代に伴う引継ぎ期間中の稼働時間は、標準稼働範囲に含めて算定する。
第8条(対価) 1 甲は乙に対し、本件業務の対価として月額金【 】円(消費税別)を、標準稼働範囲内の稼働に対する対価として毎月末日締め翌月末日払いで支払う。 2 当該月の実稼働時間が標準稼働範囲の上限を超過した場合、甲は乙に対し、超過時間について1時間あたり金【 】円を追加で支払う。 3 実稼働時間が標準稼働範囲の下限を下回った場合であっても、乙の責めに帰すべき事由による場合を除き、甲は月額対価の全額を支払う。
第9条(スキル保証の限界) 乙は、本件要員が第3条に定めるスキルセットを有することを表明するが、本契約が準委任契約であることに鑑み、特定の成果物の完成、性能又は品質を保証するものではない。
第10条(有効期間及び更新) 本契約の有効期間は【 】年【 】月【 】日から【 】年【 】月【 】日までとする。期間満了の【1】か月前までにいずれの当事者からも別段の意思表示がない場合、本契約は同一条件で【1】年間自動更新されるものとし、以後も同様とする。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行を通じて知り得た相手方の秘密情報を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。
第12条(協議) 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する。
【 】年【 】月【 】日
甲(委託者) 住所: 名称: 代表者: 印
乙(受託者) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. ユーザー向け(委託者側)の修正例
成果連動要素の追加 第8条に次の一項を追加する。 「4 甲及び乙は、月次のマイルストーン(別紙【2】記載)の達成状況を踏まえ、翌月以降の稼働範囲及び対価の見直しについて協議できる。ただし本項は本契約が準委任契約であることを変更するものではない。」 一言解説:稼働ベースの対価は品質確保のインセンティブが弱いとの懸念に対応し、成果指標を協議材料に取り入れる。ただし請負化と誤解されないよう限定を付す。
要員交代要求権の強化 第7条第2項を次のように修正する。 「2 甲は、本件要員のスキル又は業務遂行態度に合理的な疑義がある場合、乙に理由を明示して交代を求めることができ、乙はやむを得ない事情がない限り【5】営業日以内に代替要員を提案する。」 一言解説:交代事由をスキル不足に限定せず業務遂行態度も含め、実務上のミスマッチに柔軟に対応する。
B. ベンダー向け(受託者側)の修正例
指揮命令一元化の徹底 第5条第2項に次の一文を追加する。 「甲の担当者が乙側責任者を介さず本件要員に直接指示を行った場合、乙はその是正を求めることができ、是正がなされないときは当該指示に起因する結果について責任を負わない。」 一言解説:現場担当者が悪気なく直接指示を出す運用が偽装請負のリスクを高めるため、受託者側から是正を求める権利と免責を明記する。
稼働下限の対価保証 第8条第3項を次のように修正する。 「実稼働時間が下限を下回った場合であっても、甲の事情(業務量の減少、指示の遅延等)による場合を含め、乙は月額対価の全額を請求できる。」 一言解説:委託者都合で稼働機会が減った場合にまで減額されると維持コストを受託者のみが負担することになるため、委託者起因の不足は全額請求できることを明確にする。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
この書式を使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、成果物の完成を都度発注するのではなく、一定期間にわたり開発チームの稼働を確保したい場合(継続的な機能改善、保守、複数プロジェクトの並行対応等)に用いる。逆に、仕様・納期が明確な単発案件では、報酬と成果物が対応する請負契約(民法第632条)の方が適切であり、ラボ型契約は完成保証がない点で委託者に不利になりうる。
根拠法令 ラボ型開発契約は、民法第656条(準委任)を基礎とし、乙は業務遂行について善管注意義務(同法第644条の準用)を負うにとどまる。最大の留意点は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律に定める派遣に該当するにもかかわらず派遣契約を締結していない、いわゆる偽装請負の問題である。委託者が直接指揮命令を行う実態があると、契約形式が準委任であっても派遣法上の規制(派遣元・派遣先の許可、届出等)を潜脱していると評価されるおそれがある。また、職業安定法第44条は労働者供給事業及びその利用を原則禁止しており、指揮命令系統が不明確なまま要員を融通する運用は同条にも抵触しうる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、現場担当者が善意で要員に直接タスクを割り振り、指揮命令の実態が派遣に近づく失敗がある。第5条・第6条のように指揮命令を乙側責任者経由に限定し徹底することが対策となる。第二に、稼働報告書が形式的にしか運用されず、対価の妥当性が争われるケースがある。第4条のように具体的な報告内容を定めることが有効である。第三に、要員交代の基準・手続を定めず、スキル不足の要員が交代されないまま稼働が継続するケースがある。第7条のような交代手続の明記が望ましい。
該当性は実態で判断されるため、個別事案は専門家に確認するのが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本契約が準委任契約(民法第656条)であることが明記されているか
- [ ] 本件チームの人数・スキルセット・標準稼働範囲が具体的に定められているか
- [ ] 指揮命令権が乙側に一元化され、甲が直接指揮を行わない旨と乙側責任者経由の伝達フローが明記されているか
- [ ] 稼働報告書の様式・提出時期・記載内容が明確か
- [ ] 偽装請負及び職業安定法第44条の労働者供給禁止への抵触を避ける運用が明記されているか
- [ ] 要員交代の事由・手続・期限が明確か
- [ ] 月額対価、超過時追加対価及び稼働下限時の対価取扱いが明記されているか
- [ ] スキル保証の範囲が善管注意義務にとどまることが明記されているか
- [ ] 自動更新条件及び終了予告期間が定められているか