一定期間他社との交渉を禁じる独占交渉条項を中心とした基本合意書です。違反時の措置と有効期間、費用負担の分担を定めます。後日の紛争を防ぐための確認欄をあらかじめ設けています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
独占交渉権付基本合意書
第1部: 書式本文
買収を検討する【買収希望者の商号】(以下「甲」という。)及び事業の譲渡を検討する【譲渡希望者の商号】(以下「乙」という。)は、乙が営む【対象事業・対象会社の名称】に係る取引(以下「本取引」という。)の実現に向け、甲に独占的な交渉の地位を認める内容を中心として、下記条項により合意する(以下「本合意書」という。)。
第1条(目的) 本合意書は、甲及び乙が本取引の実現に向けて、一定期間、甲に独占的に交渉する地位を付与し、その間集中的に検討及び交渉を行うことを目的とする。
第2条(取引の骨子) 甲は、【株式譲渡・事業譲渡等】のスキームにより、乙又は乙の子会社である【対象会社名】が保有する【対象株式・対象事業】を取得することを予定し、その対価のおおよその水準を金【金額】円と見込む。
第3条(独占交渉期間) 乙は、本合意書締結日から【期間(例:3か月間)】(以下「独占交渉期間」という。)、甲以外の第三者との間で、本取引と競合し又は本取引の実現を妨げる取引(対象事業の譲渡、出資の受入れ、事業提携の打診等を含む。以下「競合取引」という。)に関する協議、交渉、情報提供又は契約の締結を行ってはならない。
第4条(独占交渉義務の及ぶ範囲) 前条の義務は、乙のみならず乙の役員及び本取引の検討に関与する従業員にも及ぶものとし、乙は当該役員及び従業員に本条の趣旨を周知する。
第5条(誠実交渉義務) 甲は、独占交渉期間中、本取引の実現に向けて誠実に交渉を行い、合理的な理由なく交渉を不当に遅延させてはならない。
第6条(デューデリジェンスへの協力) 乙は、甲が実施するデューデリジェンスに協力し、必要な資料の開示及び質問への回答を行う。
第7条(違反時の措置) 乙が第3条又は第4条に違反して競合取引に関する協議、交渉又は契約締結を行った場合、甲は乙に対し、違約金として金【違約金額】円を請求できるほか、当該違反により甲に生じた損害の賠償を別途請求することができる。
第8条(法的拘束力) 独占交渉義務を定める第3条及び第4条、違反時の措置を定める第7条、並びに秘密保持(第9条)及び費用負担(第10条)の各条項並びに本条は、当事者を法的に拘束するものとする。これら以外の条項は交渉の指針を示すにとどまり、甲乙間で本取引の実行そのものを確定的に約するものではない。
第9条(秘密保持) 甲及び乙は、本取引に関する交渉、調査又は準備の過程で相手方から取得した非公開の情報について、本取引を検討する目的以外への流用及び第三者への漏えいを禁止し、社内においても関係者以外への共有を制限する措置を講じる。
第10条(費用負担) 甲及び乙は、それぞれ自らが依頼する専門家の報酬その他本取引の検討に要する費用を自己の計算において負担する。ただし、乙による第3条の独占交渉義務違反に起因して本取引が不成立となったときは、甲はそれまでに支出した専門家報酬相当額を乙に求償できるものとする。
第11条(有効期間及び延長) 本合意書の有効期間は独占交渉期間と同一とし、甲及び乙が書面により合意した場合に限り、独占交渉期間を延長することができる。
第12条(確認事項) 甲及び乙は、本合意書締結時点における次の事項を相互に確認する。 □ 対象事業の範囲について認識の相違がないこと □ 独占交渉期間及びその起算日について認識の相違がないこと □ 違約金の金額及び損害賠償請求との関係について認識の相違がないこと □ その他【 】
【契約締結日】
甲: 【所在地・商号・代表者】 印 乙: 【所在地・商号・代表者】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 買収希望者向けの修正
A-1. 独占交渉期間の起算日の明確化
修正後:「独占交渉期間は、本合意書締結日ではなく、乙が甲に対し【必要資料】を交付した日から起算する。」 一言解説: 資料開示の遅れにより実質的な検討期間が短縮されることを防ぐため、起算日を資料交付日に連動させる書き換えである。
A-2. 競合取引の探知手段の確保
追加条文例:「乙は、独占交渉期間中に第三者から本取引と競合しうる打診を受けた場合、当該事実を速やかに甲に通知する。」 一言解説: 独占交渉義務の違反を早期に把握できるよう、乙に受動的な通知義務を課す書き換えである。
B. 譲渡希望者向けの修正
B-1. 独占交渉期間の上限設定と自動失効
修正後:「独占交渉期間は【期間】を上限とし、甲及び乙が書面で明示的に延長に合意しない限り、期間満了により本合意書は当然に失効する。」 一言解説: 独占交渉が漫然と長期化し他の候補先との交渉機会を失うことを避けるため、自動失効を明記する書き換えである。
B-2. 甲の不誠実な交渉への対抗手段
追加条文例:「甲が第5条の誠実交渉義務に違反し、正当な理由なく【期間】以上交渉を中断した場合、乙は本合意書を解除し、独占交渉義務から解放される。」 一言解説: 独占交渉権を得た買収希望者が交渉を放置するリスクに備え、譲渡希望者側が一方的に解放される仕組みを設ける書き換えである。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、買収希望者が対象事業の調査及び交渉に相応の時間と費用を投じる前提として、一定期間他の候補先との交渉を制限する独占的地位の確保を重視する場面で用いる。譲渡希望者が複数の候補先と並行して条件を比較検討したい初期段階や、独占的地位を付与する経済的合理性が乏しい小規模な取引では、独占交渉条項を含まない通常の基本合意書を用いる方が適切な場合がある。
根拠法令 独占的な交渉権を定める合意も、私人間の契約である以上、民法が定める契約自由の原則(民法第521条)の枠内で当事者が内容を自由に設計できる。独占交渉義務や違約金条項のように相手方の行動を法的に制約する条項は、単に努力目標として記載するのではなく、第8条のように拘束力を有する条項として明記しなければ、実際に違反があった場合の救済が不確実になる。違約金の合意は民法第420条にいう損害賠償額の予定として扱われるのが一般的であり、実損害額の立証を要せずに請求できる点に意義があるが、違約金の額を超える損害の賠償を別途求める場合には、当該損害が違約金でてん補されない旨(違約罰的性質)を条項上明記しておかないと、民法第415条の債務不履行に基づく請求との関係が不明確になり争いを招く。
実務でよくある失敗と対策 第一に、独占交渉期間の起算日が曖昧で、実質的な検討期間が想定より短くなる失敗がある。A-1のように起算日を明確な基準日に連動させることが対策となる。第二に、違約金条項を定めたにもかかわらず、違約金と損害賠償請求の関係(違約金を超える損害を請求できるか)が不明確で紛争になる失敗がある。第7条のように違約金請求と別途の損害賠償請求の可否を明記することが対策となる。第三に、独占交渉権を得た買収希望者側が交渉を長期間放置し、譲渡希望者が他の候補先との交渉機会を失う失敗がある。B-2のように誠実交渉義務違反時の解除規定を設けることが対策となる。違約金の相当性や損害賠償の範囲は取引金額や交渉経緯によって左右されるため、個別事案は専門家に確認のうえで金額や条項の文言を調整することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 独占交渉期間の長さ及び起算日を明確に定めたか
- [ ] 独占交渉義務の対象範囲(役員・従業員を含むか)を明記したか
- [ ] 競合取引の定義(協議・交渉・情報提供・契約締結のいずれを含むか)を具体化したか
- [ ] 違約金の金額及び損害賠償請求との関係を明記したか
- [ ] 拘束力のある条項とない条項の境界を条文上はっきり切り分けたか
- [ ] 甲の誠実交渉義務違反時に乙が解放される規定を設けたか
- [ ] 独占交渉期間の延長要件(書面合意等)を定めたか
- [ ] 費用負担及び義務違反時の費用請求の可否を定めたか
- [ ] 秘密保持義務の範囲及び存続期間を定めたか
- [ ] 締結時点における認識確認欄(対象事業・期間・違約金)を設けたか