本格交渉に入る前に取引の骨子を確認する基本合意書です。買収価格の目安、デューデリジェンスの実施、法的拘束力の範囲を切り分けます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
M&A基本合意書
第1部: 書式本文
【買収希望者の商号】(以下「甲」という。)と【譲渡希望者の商号】(以下「乙」という。)は、乙が営む【対象事業・対象会社の名称】(以下「本件対象事業」という。)の譲受けに関する取引(以下「本取引」という。)について、次のとおり基本合意(以下「本合意書」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲及び乙は、本取引の実施に向けて、本合意書に定める基本的な条件を確認し、今後デューデリジェンス及び最終契約の交渉を誠実に進めることを目的とする。
第2条(取引の概要) 本取引は、【株式譲渡・事業譲渡・合併等】の方法により、甲が乙又は乙の子会社【対象会社名】の【対象株式・対象事業】を譲り受けるものとする。
第3条(譲渡価格の目安) 本取引に係る譲渡対価の目安は、金【金額】円(税別)とする。ただし、当該金額は本合意書締結時点における暫定的な目安であり、デューデリジェンスの結果及び最終契約における合意により変動しうる。
第4条(デューデリジェンスの実施) 乙は、甲が本取引の実施を判断するために行う財務、法務、税務及び事業に関する調査(以下「デューデリジェンス」という。)に協力するものとし、そのために必要な資料の開示及び質問への回答を行う。
第5条(デューデリジェンスの期間) デューデリジェンスの実施期間は、本合意書締結日から【期間】までとする。甲及び乙は、合理的な理由がある場合、協議の上、当該期間を延長することができる。
第6条(最終契約の交渉スケジュール) 甲及び乙は、デューデリジェンスの結果を踏まえ、【最終契約締結予定日】までに株式譲渡契約書又は事業譲渡契約書等の最終契約(以下「最終契約」という。)の締結に向けた交渉を行う。
第7条(表明保証の予定事項) 乙は、最終契約において、本件対象事業に関する権利関係、財務内容、訴訟の有無等について表明保証を行うことを予定するものとし、その具体的な内容は最終契約において別途定める。
第8条(秘密保持) 甲及び乙は、本取引の検討及び交渉の過程で知り得た相手方の秘密情報を、本取引の検討目的以外に使用せず、第三者に開示してはならない。
第9条(法的拘束力) 本合意書のうち、第8条(秘密保持)、第10条(費用負担)及び本条は法的拘束力を有するものとし、その他の条項(第1条から第7条まで)は法的拘束力を有さず、甲及び乙が本取引を最終的に実施することを法的に義務付けるものではない。
第10条(費用負担) デューデリジェンスに要する外部専門家費用その他本取引の検討に要する費用は、各自が自己の負担において支出するものとし、本取引が最終的に成立しなかった場合であっても相手方に対し請求しない。
第11条(有効期間) 本合意書の有効期間は、締結日から【期間(例:3か月間)】とする。有効期間内に最終契約が締結されなかった場合、本合意書は当然に失効する。
第12条(誠実協議) 甲及び乙は、本合意書に定めのない事項又は疑義が生じた事項について、信義誠実の原則に従い協議の上解決する。
【契約締結日】
甲: 【所在地・商号・代表者】 印 乙: 【所在地・商号・代表者】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 買収希望者向けの修正
A-1. デューデリジェンスへの協力義務の強化
修正後:「乙は、甲の求めに応じ、資料開示の遅延なく対応するものとし、正当な理由なく資料提供を拒否した場合、甲は本合意書に基づく交渉を打ち切ることができる。」 一言解説: デューデリジェンスへの協力が不十分だと買収希望者が投資判断を誤るおそれがあるため、協力義務違反時の交渉打切り権を明記する修正である。
A-2. 表明保証の重要性の事前確認
追加条文例:「乙は、本合意書締結時点において、本件対象事業に重大な偶発債務又は簿外債務が存在しないことを確認し、最終契約締結までにその状況に変化があれば速やかに甲に通知する。」 一言解説: 最終契約前に重大な事情変更が生じた場合に備え、暫定的な確認と通知義務を先行して定める修正である。
B. 譲渡希望者向けの修正
B-1. 価格目安の拘束力否定の明確化
修正後:「第3条に定める譲渡対価の目安は、甲及び乙のいずれに対しても当該金額での取引成立を法的に義務付けるものではなく、最終契約における合意によってのみ確定する。」 一言解説: 譲渡希望者が価格の目安を確定額と誤解し後日紛争になることを避けるため、拘束力がない旨を重ねて明記する修正である。
B-2. 情報開示範囲の限定
追加条文例:「乙が甲に開示する資料は、本取引の検討に必要な範囲に限るものとし、乙は開示の要否について合理的な裁量を有する。」 一言解説: デューデリジェンスの名目で過度な情報開示を求められることを防ぐため、譲渡希望者側の裁量を明記する修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、M&A取引の当事者が本格的な最終契約交渉に入る前段階で、取引の骨子、価格の目安及びデューデリジェンスの実施条件を確認し合う場面で用いる。既に価格その他の主要条件が確定的に合意されており、両当事者が最終契約の締結のみを予定している段階では、本書式ではなく最終契約書そのものを準備すべきである。
根拠法令 M&Aの基本合意書は、民法上の典型契約として直接規定された書面ではなく、契約自由の原則(民法第521条)に基づき当事者が自由にその内容及び拘束力の範囲を定めることができる合意書である。基本合意書のうちどの条項が法的拘束力を有するかは、条項ごとに明記しない限り解釈上の争いを生じやすく、第9条のように法的拘束力を有する条項(秘密保持、費用負担等)と有さない条項(取引実施そのものの合意)とを明確に区別することが、後日の紛争予防の観点から重要である。なお、独占禁止法上の企業結合規制など個別の業法・規制の適用の有無は取引の内容によって異なるため、対象事業の規模や業種に応じて別途確認を要する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、基本合意書に定めた価格の目安を最終的な確定価格と誤解し、デューデリジェンスの結果を踏まえた価格調整の交渉が難航する失敗がある。第3条及びB-1のように目安である旨を明記することが対策となる。第二に、法的拘束力の範囲を明記せず、基本合意後に一方当事者が交渉から離脱した場合に損害賠償請求の可否が争われる失敗がある。第9条のように条項ごとに拘束力の有無を明記することが対策となる。第三に、デューデリジェンスの期間や協力範囲が曖昧で調査が長期化し取引全体のスケジュールが崩れる失敗がある。第4条・第5条のように協力義務と期間を具体的に定めることが対策となる。取引のスキームや対象事業の性質により必要な条項は異なるため、個別事案は専門家に確認しながら条項を調整することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本取引のスキーム(株式譲渡・事業譲渡・合併等)を特定したか
- [ ] 譲渡対価の目安が確定額ではなく目安である旨を明記したか
- [ ] デューデリジェンスの実施範囲・期間・協力義務を定めたか
- [ ] 法的拘束力を有する条項と有さない条項を条項ごとに区別したか
- [ ] 秘密保持義務の対象範囲及び存続期間を定めたか
- [ ] 費用負担のルール(取引不成立時の取扱いを含む)を定めたか
- [ ] 有効期間及び失効の条件を定めたか
- [ ] 最終契約交渉のスケジュール(目標締結日)を明記したか
- [ ] 表明保証の予定事項について概要を確認したか
- [ ] 対象事業の業種に応じた規制・許認可の確認が必要か検討したか