創業者への継続的な助言関係を定める契約書です。面談頻度、対価、利益相反の回避、秘密保持と情報の目的外利用禁止を規定します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
メンター契約書
第1部: 書式本文
メンター契約書
【メンター氏名又は名称】(以下「甲」という)と【被支援企業名】(以下「乙」という)は、甲が乙に対して行う継続的な助言関係(以下「本メンタリング」という)に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(目的及び契約の性質) 1. 本契約は、甲が乙の創業者及び経営陣に対して行う経営・事業に関する助言の内容及び条件を定めることを目的とする。 2. 本契約に基づく甲の役務は、法律行為ではない事務の委託であることから、民法656条の準委任の規定を準用するものとし、甲は乙に対し成果の完成を約するものではなく、善良な管理者の注意をもって助言を行う義務(善管注意義務)を負う。
第2条(面談頻度及び方法) 1. 甲は乙に対し、契約期間中、【月1回・隔週】、【対面・オンライン】の方法により、1回あたり【 】時間程度のメンタリングセッションを実施する。 2. 前項の頻度及び方法は、両当事者の合意により随時変更できる。 3. 甲は、緊急の経営判断が必要な事項について、乙からの求めに応じ、定例セッション以外の時間帯にも合理的な範囲で相談に応じるよう努めるものとする。ただし、これは甲の努力義務にとどまり、常時対応を保証するものではない。
第3条(対価) 1. 本メンタリングの対価は【無償とする・月額金 円(消費税別)とする・成功報酬として乙の資金調達実行時に新株予約権 個を付与する】ものとする。 2. 対価を伴う場合、支払時期及び方法は【 】とする。 3. 対価が無償である場合であっても、甲が本メンタリングに関連して支出した実費(交通費等)については、乙が事前に承認した範囲で乙が負担する。
第4条(利益相反の回避) 1. 甲は、乙の事業と競合する事業を営む第三者に対し、乙の非公開情報を利用した助言を行ってはならない。 2. 甲は、乙と競合関係にある企業のメンター若しくは役員に就任し、又はこれらの企業に対する出資を行おうとする場合、事前に乙に開示し、乙の合理的な異議がある場合には当該就任・出資を行う企業との関係で乙への助言を継続してはならない。 3. 甲は、本メンタリングを通じて知り得た乙の事業機会(投資家紹介、業務提携先候補等)を、甲自身又は甲の関係者の利益のために乙に先んじて利用してはならない。 4. 甲が乙に対して個人的に出資を行い、又は乙の株式若しくは新株予約権を対価として取得する場合、甲は自らの投資家としての利害関係と助言者としての立場が利益相反を生じ得ることを認識し、乙の意思決定に不当な影響を及ぼす助言を行ってはならない。
第5条(秘密保持及び情報の目的外利用禁止) 1. 甲は、本メンタリングを通じて知り得た乙の技術上・営業上の情報、事業計画、財務情報その他非公開の情報(以下「秘密情報」という)を、乙の事前の書面同意なく第三者に開示又は漏洩してはならない。 2. 甲は、秘密情報を本メンタリングの目的以外(甲自身の事業への流用、他のメンティー企業への助言における参考利用等を含む)に利用してはならない。 3. 前二項の義務は、本契約終了後【3】年間存続する。 4. 乙は、甲が他の企業へのメンタリングも行う立場にあることを踏まえ、甲が乙の秘密情報を用いずに一般的な知見・経験として得たノウハウを他の助言活動に用いることを妨げない。
第6条(責任の制限) 1. 甲の助言は、甲が入手可能な情報及び一般的な経験・知見に基づく参考意見であり、乙は自らの判断と責任において経営上の意思決定を行うものとする。 2. 甲は、乙が甲の助言に基づき行った経営判断の結果について、甲に故意又は重過失がある場合を除き、責任を負わない。 3. 対価が無償である場合、甲の損害賠償責任は、甲の故意又は重過失による場合に限定するものとし、本条の限定は乙もこれを了承する。
第7条(契約期間及び解約) 1. 本契約の期間は締結日から【 】か月間とし、期間満了の【 】日前までにいずれかの当事者から書面による終了の申出がない限り、同一条件で【 】か月間自動更新されるものとする。 2. 各当事者は、【 】日前までに書面で通知することにより、本契約を任意に解約できる。 3. 一方当事者に重大な契約違反があり、相当期間を定めた催告後もこれが是正されない場合、他方当事者は本契約を解除できる。
第8条(成果物の取扱い) 甲が本メンタリングの過程で乙に提供した資料等に甲が権利を有する著作物が含まれる場合、当該著作物の権利は甲に留保されるものとし、乙は本メンタリングの目的の範囲でのみこれを利用できる。
第9条(協議及び準拠法) 本契約に定めのない事項については両当事者が誠実に協議する。本契約は日本法に準拠し、紛争が生じた場合は【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、両当事者記名押印のうえ各1通を保有する。
【締結日】
甲(メンター):【住所・氏名又は名称】㊞ 乙(被支援企業):【住所・名称・代表者名】㊞
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: メンター側が有利になる修正
- 責任限定を明確化 第6条2項を「甲は、助言内容の正確性・妥当性について何ら保証するものではなく、乙の経営判断の結果について一切の責任を負わない」とより広く限定する修正が考えられる。ただし故意・重過失免責までを排除する条項は公序良俗に反し無効と解される可能性があるため、少なくとも故意・重過失の場合の責任は残す設計が無難である。
- 対応時間の上限設定 第2条3項の努力義務規定に「臨時相談は年間合計【 】時間を上限とする」との数値上限を追加し、無償又は低廉な対価にもかかわらず際限なく相談対応を求められる事態を防ぐ。
- 利益相反の判断権限を甲に留保 第4条2項を「甲が競合関係の有無について合理的な判断を行い、乙に通知すれば足りる」とし、乙の異議権を通知後の協議事項にとどめることで、甲の他社支援活動の自由度を確保する。
B節: 被支援企業側が有利になる修正
- 利益相反防止を強化 第4条に「甲は、乙と直接競合する企業への助言を契約期間中及び契約終了後【 】年間行ってはならない」との競業避止義務を追加する。ただし職業選択の自由との関係で期間・範囲を必要最小限にとどめる必要がある。
- 秘密保持の実効性強化 第5条3項の存続期間を「5年間」に延長し、さらに「甲は秘密情報を記録した資料を契約終了時に返還又は破棄する」との返還・破棄義務を追加する。
- 無償メンタリングでも一定の責任を確保 第6条3項を「無償である場合であっても、甲が乙の非公開情報の重大な取扱いを誤ったことにより乙に損害が生じた場合、甲は軽過失であっても相当因果関係のある損害を賠償する」と修正し、対価がないことのみを理由に責任がほぼ免除される事態を回避する。
- 対価の後払い・条件付き化 第3条1項の成功報酬型を選択する場合、「新株予約権の行使条件は、乙の資金調達実行かつ甲による最低【 】回のセッション実施を条件とする」と具体化し、対価と実際の貢献の対応関係を明確にする。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面の解説
本書式は、エンジェル投資家、起業経験者、業界専門家等が創業者に対して継続的に経営助言を行う関係を書面化する場面で用いる。単発のスポット相談や講演形式のアドバイスには重装備であり、簡易な覚書で足りる場合が多い。他方、メンターが乙に対する出資者を兼ねる場合や、メンターが取締役・監査役等の会社法上の役員に就任する場合は、本書式のみでは足りず、投資契約や委任契約(会社法330条、民法643条)の枠組みも別途整理する必要がある。
根拠法令の解説
甲の役務提供は法律行為の委託ではなく事実行為としての助言であることが一般的であるため、民法656条(準委任)の規定が準用され、受任者に類する義務(善管注意義務、報告義務等)を負うと整理するのが実務上一般的である。秘密保持義務との関係では、乙の営業秘密が不正競争防止法2条6項に定める「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」に該当する場合、同法上の保護(差止請求、損害賠償請求等)の対象となり得る。もっとも同法の保護を受けるには秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たす必要があり、単に契約書で「秘密情報」と定義するだけでは同法上の営業秘密として認められるとは限らない点に留意する。また利益相反回避義務については、会社法上の役員のような明文の忠実義務規定(会社法355条)は直接適用されないものの、準委任における受任者の善管注意義務・忠実な事務処理義務の一環として、利益相反的な行為の抑制が求められると解される。
よくある失敗と条項上の対策
- 利益相反防止条項の欠落。メンターが複数のスタートアップを同時に支援することは一般的であるが、競合企業への助言や情報流用を禁止する条項がないまま契約が締結されるケースが多い。第4条のように、競合企業への助言制限及び事業機会の流用禁止を明記する。
- 無償メンタリングでの責任限定条項不備。対価が無償であることを理由に「一切責任を負わない」との条項のみを置き、故意・重過失の場合の責任まで排除しようとする例が見られるが、このような包括免責条項は公序良俗違反等により無効と判断される可能性がある。第6条のように、少なくとも故意・重過失の場合の責任は残す設計とすることが望ましい。
- 秘密保持義務の存続期間未設定。契約終了後の秘密保持義務の存続期間を定めず、契約終了と同時に義務が消滅するかのような疑義が生じるケースがある。第5条3項のように具体的な存続期間(例:3年、5年)を明記する。
なお、対価として株式や新株予約権を用いる設計とする場合の税務上の取扱い(給与所得該当性、時価評価等)は個別の事情により結論が異なるため、個別事案については弁護士・税理士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- 面談の頻度・方法(対面・オンライン)・1回あたりの時間を具体的に定めているか。
- 緊急時・臨時相談への対応が努力義務にとどまるか、義務化するかを明確にしたか。
- 対価の有無及び対価がある場合の金額・支払方法・支払時期を定めているか。
- 対価が株式・新株予約権の場合、権利発生条件(セッション実施回数等)を具体化したか。
- 利益相反回避条項(競合企業への助言禁止、事業機会の流用禁止)を設けたか。
- 秘密保持義務の対象情報の範囲と、契約終了後の存続期間を明記したか。
- 秘密情報の返還・破棄義務の要否を検討したか。
- 責任限定条項が故意・重過失の場合まで免責するものになっていないか確認したか。
- 準委任(民法656条)の性質を踏まえ、成果完成義務を負わない旨を明確にしたか。
- 契約期間、自動更新の有無、解約予告期間を定めているか。
- メンターが乙の役員や投資家を兼ねる場合、別途の契約(委任契約・投資契約)との整合性を確認したか。
- 準拠法及び紛争解決機関(管轄裁判所)を明記しているか。