未払いの賃金や残業代の支払を求める内容証明郵便の文例です。労働基準法第115条の時効中断を意識し請求額と期限を明示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
未払賃金請求書(内容証明用)
第1部: 書式本文
未払賃金請求書
【令和〇年〇月〇日】
株式会社〇〇 代表取締役【〇〇】殿
【郵便番号】 【住所】 【氏名】㊞
第1 請求の趣旨 私は、貴社との間で令和〇年〇月〇日から【現在まで/令和〇年〇月〇日まで】労働契約を締結し、【部署・職種】として勤務してまいりましたが、下記のとおり賃金の一部が未払いとなっておりますので、本書面をもって支払を請求いたします。
第2 未払賃金の内訳 1 未払基本賃金:金【〇〇円】(対象期間:令和〇年〇月分から令和〇年〇月分まで) 2 未払時間外労働割増賃金:金【〇〇円】(算定根拠は別紙計算書のとおり) 3 未払深夜労働割増賃金:金【〇〇円】 4 未払休日労働割増賃金:金【〇〇円】 5 合計金額:金【〇〇円】
第3 請求の根拠 上記未払賃金は、労働基準法第24条(賃金の全額払いの原則)及び同法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)に基づき、貴社が私に対して支払うべき賃金であります。
第4 消滅時効に関する留意事項 賃金請求権は、労働基準法第115条により、権利を行使することができる時から原則として5年間(当分の間は経過措置により3年間)行使しないときは時効によって消滅するとされております。本書面は、民法第150条に定める催告として送付するものであり、本書面到達時から6か月以内に裁判上の請求、支払督促の申立て、民事調停の申立て等の措置を講じない場合には、時効の完成猶予の効力が失われる可能性があることを申し添えます。なお、賃金台帳その他の記録の保存期間についても労働基準法第109条により定めがあり、記録の散逸を防ぐ観点からも早期の請求が望ましいと考えます。
第5 支払期限 本書面到達後【2週間】以内に、下記口座宛てに未払賃金合計額をお支払いくださいますようお願い申し上げます。 【振込先:銀行名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義】
第6 期限内にお支払いいただけない場合の対応 上記期限内にお支払いいただけない場合には、やむを得ず労働基準監督署への申告、労働審判の申立て、訴訟提起等の法的手続を検討させていただきます。
第7 添付資料 本書面には、雇用契約書の写し、給与明細書の写し(直近〇か月分)、タイムカードの写しを同封いたします。
第8 連絡先 本件に関するご連絡は、下記宛てにお願いいたします。 【電話番号・メールアドレス】
以上
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 請求する労働者側の立場(在職中に請求する場面)
- 支払期限の設定に関する修正例 「本書面到達後2週間以内」を「本書面到達後10日以内」のように短縮する場合、その分、会社側の検討時間が短くなる点を踏まえ、次の法的手続への移行スケジュールを事前に検討しておく必要がある。在職中の請求では、雇用関係の継続を前提に、まずは任意の支払を促す穏当な表現(「お支払いくださいますようお願い申し上げます」)を用いることが多い。
B節: 請求する労働者側の立場(退職後、時効完成が近い場面)
第4条の消滅時効に関する記載を「未払賃金のうち、令和〇年〇月分から令和〇年〇月分までについては、時効の完成猶予期間の満了が近接しているため、本書面到達後速やかに時効の完成猶予の効力を確認いただきたく、あわせて時効利益の放棄についてもご検討いただきたい」のように修正し、時効の切迫を明示する。退職後は雇用関係の継続を前提とした配慮が不要になるため、より直截的な表現を用いても差し支えない。
A節: 会社側の立場(請求内容に一部争いがある場面)
第2の内訳について、会社が回答する際の想定文例として「ご請求のうち未払基本賃金相当額については支払いに応じるが、時間外労働割増賃金の算定根拠となる労働時間の記録については確認が必要であり、〇日以内に回答する」のように、争いのない部分とある部分を分けて回答する。全額を一律に争う対応は、後日の交渉において誠実さを欠くと評価されるおそれがあるため、争いのない部分は速やかに支払う対応が望ましい。
B節: 会社側の立場(消滅時効を援用する場面)
会社が消滅時効を主張する場合の想定文例として、「ご請求のうち令和〇年〇月分以前の賃金については、労働基準法第115条に定める消滅時効期間が経過しているため、時効を援用いたします」のように、対象期間を特定した上で時効援用の意思表示を明確にする。時効期間が経過している部分とそうでない部分が混在する場合には、期間ごとに区別して回答することが求められる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、在職中又は退職後の労働者が、会社に対して未払いの賃金や割増賃金の支払を求める場面で、内容証明郵便として送付することを想定した文例である。内容証明郵便を用いる主な目的は、送付した文書の内容と到達日を郵便局が証明する点にあり、これにより、後日の消滅時効の完成猶予の主張や、会社が「請求を受けていない」と争うことを防ぐ効果が期待できる。もっとも、内容証明郵便を送付すること自体が支払を法的に強制する効力を持つものではなく、あくまで意思表示の到達を証拠化する手段にとどまる点に留意が必要である。
賃金請求権の消滅時効については、労働基準法第115条において原則5年間とされているが、令和2年の民法改正及び労働基準法改正に伴う経過措置により、当分の間は3年間とされている。民法第150条は、催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は時効は完成しないと定めており、本書面のような催告書を送付した場合、到達日から6か月以内に裁判上の請求、支払督促、調停の申立て等の手続を行わなければ、完成猶予の効力は失われる。したがって、本書式を送付した後は、6か月というスケジュールを念頭に、次の法的手続の準備を並行して進める必要がある。
使ってはならない場面としては、未払額の算定が明らかに不正確なまま感情的な表現で高額を請求する場合が挙げられる。算定根拠が不明確な請求は、かえって交渉を長期化させる要因となる。また、会社側が既に任意に交渉のテーブルに着いており、実務上の話し合いが進行中である段階で、唐突に内容証明郵便を送付すると、交渉関係を硬直化させ、任意の解決の機会を狭めてしまう場合もあるため、送付のタイミングは状況に応じて慎重に検討すべきである。
よくある失敗として、第一に、未払賃金の内訳や算定根拠を示さず、合計額のみを記載してしまうケースがある。対策として、別紙計算書を添付し、期間・時給換算額・割増率を明示する。第二に、消滅時効の起算点を誤り、既に時効が完成している期間の賃金まで請求してしまうケースがある。対策として、各賃金の支払期日を基準に時効期間を個別に計算する。第三に、内容証明郵便の様式(字数・行数の制限等)を確認せず作成し、郵便局窓口で受理されないケースがある。対策として、送付前に日本郵便の内容証明郵便の書式要件を確認する。個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- 未払賃金の対象期間及び金額の内訳を具体的に記載したか
- 算定根拠となる計算書(別紙)を添付したか
- 消滅時効の起算点及び経過措置の適用関係を確認したか
- 内容証明郵便としての送付により催告の効力が生じる時期を把握しているか
- 催告到達後6か月以内に次の法的手続を行う準備をしているか
- 支払期限及び振込先口座情報を明記したか
- 添付資料(雇用契約書、給与明細、タイムカード等)の写しを準備したか
- 内容証明郵便の字数・行数等の様式要件を確認したか
- 配達証明を付す等、到達の証拠を確保する方法を検討したか
- 会社からの回答がない場合の次の対応(労働基準監督署への申告、労働審判等)を検討したか
- 請求金額に争いがある部分とない部分を区別して記載したか