時間外労働の割増賃金が支払われていない場合に、労働基準法第37条と賃金請求権の時効を踏まえ、未払額と遅延損害金を請求します。

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未払残業代請求書

第1部: 書式本文

本書は、法定労働時間を超えて労働したにもかかわらず割増賃金が支払われていない労働者が、会社に対し未払残業代および遅延損害金の支払いを求める請求書である。内容証明郵便での送付を前提に、以下の項目を記載する。

  1. 表題:「未払残業代請求書」。
  2. 発信日および請求者(労働者)の氏名・住所・(在職中の場合は)所属部署。
  3. 宛先: 【会社名(法人の場合は代表者役職・氏名を併記)】、【会社所在地】。
  4. 件名:「未払割増賃金(残業代)の支払請求について」。
  5. 雇用関係の特定: 【入社年月日】から【退職年月日、または現在まで】、【職種・雇用形態】として勤務している(していた)事実を記載する。
  6. 対象期間の特定: 未払割増賃金を請求する対象期間を【〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで】と具体的に区切る。労働基準法第115条により、賃金請求権(付随する割増賃金請求権を含む)は行使できる時から原則5年間(当分の間は3年間)で時効消滅するため、時効にかかっていない期間を正確に特定する。
  7. 労働時間の算定根拠: タイムカード、勤怠管理システムの記録、業務用パソコンのログ、業務メールの送受信記録等、実労働時間を裏付ける資料の名称と保管状況を記載する。
  8. 割増賃金の計算根拠: 基礎賃金(基本給・諸手当のうち算入すべきもの)、時間単価の算出方法、時間外労働・休日労働・深夜労働それぞれの割増率(労働基準法第37条:時間外は原則25%以上、月60時間超は50%以上、休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上加算)を明示する。
  9. 未払額の一覧: 対象期間を月ごとに区切り、【実労働時間】【所定労働時間】【時間外労働時間】【割増賃金額】を表形式で整理し、合計未払額を明記する。
  10. 遅延損害金の請求: 在職中は民法所定の法定利率(年3%、変動制)、退職後は賃金の支払の確保等に関する法律第6条に基づき年14.6%の遅延損害金が発生する旨を記載し、それぞれの起算日を明示する。
  11. 支払方法・期限の指定: 【振込先口座】および【支払期限(例:通知到達後2週間以内)】を明記する。
  12. 誠実な対応要求と法的手段の留保: 期限までに誠実な回答・支払いがない場合には、労働基準監督署への申告、労働審判、訴訟等の法的手続きを検討する旨を予告する。
  13. 添付資料欄: 賃金明細、雇用契約書、就業規則(賃金規程)の写し等、必要に応じて添付する資料を列挙する。
  14. 差出人の署名・押印欄。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A節: 労働者側の場合

労働者が請求書を作成する際は、まず自身の手元にある証拠(給与明細、タイムカードの写し、業務用スマートフォンの位置情報や送受信メールのタイムスタンプなど)を時系列で整理し、算定期間と金額に矛盾がないようにすることが重要である。文例として「私は貴社において【職種】として勤務しておりましたが、【対象期間】における時間外労働について、労働基準法第37条に定める割増賃金の支払いを受けておりません。つきましては、下記計算に基づき、未払割増賃金合計【金額】円および遅延損害金の支払いを求めます。」のように、感情的な非難よりも客観的な計算根拠の提示に重点を置く。在職中に請求する場合は、その後の労働関係への影響を考慮し、まず社内の相談窓口や人事部門への照会を経てから書面請求に進む段取りも検討するとよい。退職後の請求では、労働基準法第115条の時効期間内であることを必ず確認し、時効完成が近い場合は消滅時効の完成猶予・更新(内容証明郵便による催告など)の観点からも早期の送付が望ましい。

B節: 会社側の場合

会社側が労働者から未払残業代請求を受けた場合、まず自社の勤怠記録と請求内容を突き合わせ、実労働時間の食い違いがないかを確認する必要がある。会社が返信文書を作成する場合の文例としては、「貴殿からのご請求内容を確認したところ、勤怠記録上の実労働時間は貴殿のご主張と一部相違がございます。つきましては、当社記録に基づく時間外労働時間および割増賃金額を別紙のとおりご提示いたします。」のように、根拠資料を示した上での対応が求められる。固定残業代制度やみなし労働時間制を採用している場合は、当該制度が有効に成立しているか(固定残業代であれば通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区分されているか等)を精査した上で回答することが不可欠であり、制度の有効性に疑義がある場合は割増賃金の追加支払いが必要になる可能性がある点に留意する。

第3部: 書き方と法的ポイントの解説

本書式は、法定労働時間(労働基準法第32条:1日8時間・週40時間)を超える労働や、休日労働・深夜労働について、法定の割増賃金(同法第37条)が支払われていない場合に使用する。管理監督者に該当する者や、事業場外みなし労働時間制・裁量労働制が適法に適用される業務など、労働時間規制の適用関係が争点となる場合は、割増賃金請求権の有無自体が争いになるため、本書式の使用前提が成り立つかを慎重に検討する必要がある。

根拠法令としては、時間外・休日・深夜労働の割増賃金を定める労働基準法第37条、法定労働時間を定める同法第32条、賃金請求権の消滅時効を定める同法第115条(令和2年改正により原則5年、当分の間は3年)が中心となる。遅延損害金については、在職中は民法所定の法定利率、退職後は賃金の支払の確保等に関する法律第6条により年14.6%の高率な遅延損害金が発生する点が特徴である。

実務でよくある失敗として、第一に、対象期間を安易に長く設定しすぎ、時効消滅している部分まで請求に含めてしまい、会社側から時効の抗弁を受けて交渉が滞るケースがある。対策として、退職日や請求書送付日から逆算して時効期間内の期間を正確に特定する。第二に、固定残業代(みなし残業代)がすでに支給されているにもかかわらず、その控除を行わずに全額を請求してしまい、計算の正確性を疑われるケースがある。対策として、既払いの固定残業代相当額を明示的に控除した上で不足額を算定する。第三に、労働時間の証拠(タイムカード等)を退職前に十分確保しないまま請求書を送ってしまい、その後の交渉・労働審判で立証に窮するケースが多い。在職中から証拠を収集・保存しておくことが望ましい。また、第四に、管理監督者にあたるか否かの判断を誤り、実態としては労働時間管理を受けている「名ばかり管理職」であるにもかかわらず、会社側が管理監督者だからと割増賃金の対象外として扱ってしまい、後に紛争化するケースも少なくない。管理監督者性は役職名ではなく、職務内容・権限・勤務態様・待遇の実態から個別に判断されるため、形式的な役職のみで判断しないことが重要である。個別の事案における未払額の算定や時効の起算点、管理監督者該当性の判断については、必ず弁護士や社会保険労務士等の専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 未払いを請求する対象期間が労働基準法第115条の時効期間内に収まっているか
  • [ ] タイムカード・勤怠記録・業務メール等、実労働時間を裏付ける証拠を確保しているか
  • [ ] 基礎賃金の算定に含めるべき手当・除外すべき手当を正しく区別しているか
  • [ ] 時間外・休日・深夜のそれぞれについて正しい割増率を適用しているか
  • [ ] 既に支給されている固定残業代・みなし残業代がある場合、その額を控除して計算しているか
  • [ ] 遅延損害金の起算日と適用利率(在職中/退職後)を正しく設定しているか
  • [ ] 会社の登記上の名称・代表者名・所在地に誤りがないか確認したか
  • [ ] 支払期限と振込先口座を明記しているか
  • [ ] 添付予定の証拠資料一覧を整理したか
  • [ ] 内容証明郵便での送付および控えの保管を予定しているか