M&A時に優先株主へ優先的に対価を分配することを定める契約書です。分配の順序、参加型の有無、算定方法を明確にします。実務で迷いやすい記載箇所には解説コメントを付しています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
財産分配契約書(みなし清算条項)
第1部: 書式本文
財産分配に関する合意書
【優先株主】(以下「甲」という)、【普通株主】(以下「乙」という)及び【会社名】(以下「丙」という)は、丙にみなし清算事由が生じた場合における対価の分配方法について、次のとおり合意する(以下「本合意」という)。
第1条(目的) 本合意は、丙が発行する種類株式(優先株式)の内容として定款に定められる残余財産分配に関する事項(会社法第108条第2項第2号)を補完し、みなし清算事由発生時における対価の分配方法をあらかじめ明確化することを目的とする。
第2条(みなし清算事由の定義) 本合意において「みなし清算事由」とは、次の各号のいずれかに該当する事由をいう。 ① 丙の発行済株式総数の過半数が単一又は同一の企業グループに属する第三者に譲渡される場合 ② 丙が消滅会社となる吸収合併又は丙が完全子会社となる株式交換・株式移転が行われる場合 ③ 丙が事業の全部又は重要な一部(直近事業年度の売上高又は資産総額の【 】パーセントを超える部分)を第三者に譲渡する場合 なお、丙の子会社の設立や通常の業務提携等、事業の実質的な継続性が損なわれない取引は、みなし清算事由に含まれないものとする。
第3条(分配対象金額) みなし清算事由に伴い丙又はその株主が受領する対価の総額(現金、株式その他の財産的価値を含む。以下「分配対象金額」という)は、当該取引に係る契約書に定める対価の額を基礎として算定する。
第4条(分配の順序) 分配対象金額は、次の順序で分配する。 ① 第一順位:甲(優先株主)に対し、1株あたり払込金額の【 】倍相当額(以下「優先分配額」という)を、甲の保有する優先株式数に応じて分配する。 ② 第二順位:優先分配額の分配後の残額を、甲及び乙の保有する株式数(優先株式は普通株式に転換したものとみなす)に応じて按分し、甲及び乙に分配する(以下「参加型」の取扱い)。 ③ ただし、②の参加型による分配額が、甲が優先株式を普通株式に転換した場合に受領できる金額(以下「転換価額相当額」という)を下回るときは、甲は①によらず転換価額相当額を選択できるものとする。
第5条(非参加型を選択する場合の代替条項) 甲及び乙が非参加型を採用することに合意する場合、前条第②号を適用せず、甲は第①号の優先分配額又は転換価額相当額のいずれか高い額のみを受領し、②による按分分配には加わらないものとする。本合意においてはいずれの方式を採用するかを別紙で明記する。
第6条(算定方法及び按分計算例) 分配対象金額の按分計算は、次の算定例を基準として行う。 (例)分配対象金額10億円、甲の優先分配額総額2億円、丙の発行済株式総数(完全希薄化後)10,000株のうち甲が2,000株、乙が8,000株を保有する場合 ① 甲への優先分配:2億円 ② 残額8億円を発行済株式総数で按分:1株あたり8万円 ③ 甲(2,000株):1億6,000万円、乙(8,000株):6億4,000万円 ④ 甲の合計受領額:3億6,000万円(優先分配額2億円+参加分1億6,000万円) 上記計算例はあくまで参加型を選択した場合の例示であり、実際の按分方法は別紙で確定する株式数及び優先分配倍率に従うものとする。
第7条(端数処理) 按分計算により生じる1円未満の端数は切り捨てる。
第8条(手続の履践) 甲及び乙は、みなし清算事由に該当する取引が実行される場合、丙の取締役会及び株主総会において本合意に定める分配方法を反映した議案(合併契約、株式譲渡契約等における対価配分条項)が適法に決議されるよう協力する。
第9条(定款との整合) 本合意の内容が丙の定款に定める種類株式の内容(残余財産の分配に関する事項)と抵触する場合は、株主総会における特別決議等の適法な手続を経て定款を整備した上で本合意の内容を実現するものとし、本合意のみをもって定款の定めに優先する効力を有するものではない。
第10条(準拠法及び管轄) 本合意は日本法に準拠し、本合意に関する紛争は【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 優先株主の視点による修正例 - 第4条①の優先分配倍率について、「1倍」を基本としつつ、参加型の適用上限(いわゆるParticipation Cap)を設けない修正を求める場合は、乙との交渉材料として第5条の非参加型との選択制を残す。一言解説:参加型を無制限に認めると普通株主の取得分が過小となり、交渉が難航しやすいため段階的な提案が有効。 - 第2条のみなし清算事由の定義に、「丙の取締役の過半数が第三者の指名する者に交代する場合」を追加する。一言解説:株式譲渡や合併という法形式によらない実質的な経営権移転を捕捉するため。 - 第3条の分配対象金額について、「エスクロー(留保金)分も含めて分配対象とし、エスクロー解放時に追加分配する」旨の条項を追加する。一言解説:M&A対価の一部が留保される実務に対応し、優先株主の回収機会を確保する趣旨。
B節: 普通株主・会社の視点による修正例 - 第4条②の参加型条項について、「甲の参加分配額は優先分配額の【 】倍を上限とする」とのParticipation Capを追加し、普通株主の取得分を確保する。一言解説:参加型を無制限にすると創業株主・従業員の取得分が極端に小さくなり、モチベーション低下を招く。 - 第2条のみなし清算事由の定義について、「丙の子会社が行う通常の業務提携又は少数株式譲渡は含まない」旨を明記し、事由の範囲が不当に広がらないようにする。一言解説:定義が広すぎると通常の事業活動でも優先分配義務が発生し、経営の柔軟性を損なう。 - 第9条について、「本合意の内容と矛盾する定款変更を行う場合は乙(普通株主)の過半数の同意を要する」旨を追加する。一言解説:優先株主主導での定款変更により普通株主の取得分が一方的に減少することを防ぐため。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面の解説 本書式は、優先株式による資金調達を行った会社が、実際に清算(会社法上の解散・清算手続)を経ることなくM&Aによって株主に対価が分配される場合に備え、あらかじめ分配のルールを定める場面で用いる。会社法上の正式な清算手続を予定している場合や、種類株式の内容として残余財産分配に関する事項がすでに定款上詳細に定められておりみなし清算条項を別途契約で補充する必要がない場合には、本書式の適用は限定的となる。また、上場を予定する会社においては、上場審査上、複雑な優先分配条項が資本政策上の障害となることがあるため、上場準備段階でのみなし清算条項の解消(普通株式への一斉転換等)についても別途検討する必要がある。
根拠法令の解説 会社法上、清算手続における残余財産の分配については同法第504条以下に規定があるが、M&Aによる対価分配(いわゆるみなし清算)は法律上の清算手続そのものではなく、株主間及び会社との合意(本合意)並びに種類株式の内容として定款に定める残余財産分配に関する事項(会社法第108条第1項第2号、第2項第2号)を組み合わせて実現される。すなわち、本合意はみなし清算に関する会社法上の直接の規定を根拠とするものではなく、あくまで契約及び定款上の設計によって同様の経済的効果を実現する枠組みであることに留意が必要である。また、みなし清算条項の実行にあたっては、合併契約や株式譲渡契約における対価配分の決定及び株主総会の特別決議等、会社法上の手続を適法に履践する必要がある。
よくある失敗と条項上の対策 第一に、みなし清算事由の定義が狭すぎる(株式譲渡や合併のみを対象とし事業譲渡や実質的な経営権移転を含まない)ために本来適用されるべき場面で条項が機能しない、逆に広すぎる(通常の業務提携等まで含む)ために経営の柔軟性を過度に制約する例がある。第2条のように対象取引を具体的な数値基準や除外事由とともに定義することが有効である。第二に、参加型か非参加型かの選択及びParticipation Capの有無が契約上明確にされておらず、M&A実行時に優先株主と普通株主の間で分配額をめぐる解釈対立が生じる例が多い。第4条・第5条のように選択方式と計算例を明記することが望ましい。第三に、本合意の内容が丙の定款に定める種類株式の内容と整合しておらず、株主総会での定款変更手続を経ないまま実行しようとして手続的な瑕疵を指摘される例がある。第9条のように定款との優劣関係及び整備手続を明記することが重要である。個別の資本政策における条項設計の適法性・実効性については、案件ごとに弁護士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- みなし清算事由の定義(対象取引の範囲・除外事由)が具体的に定められているか。
- 優先分配倍率(1倍・複数倍)が資本政策上妥当な水準か。
- 参加型・非参加型のいずれを採用するかが明記されているか。
- 参加型を採用する場合、Participation Capの要否及び水準を検討したか。
- 按分計算方法及び計算例が誰にでも再現可能な形で示されているか。
- 分配対象金額の定義(エスクロー・留保金の扱いを含む)が明確か。
- 端数処理その他の細目的な計算ルールが定められているか。
- 本合意の内容が丙の定款上の種類株式の内容と整合しているか。
- 定款との抵触が生じた場合の整備手続(株主総会特別決議等)が明記されているか。
- 取締役会・株主総会における手続協力義務が明記されているか。
- 上場準備時における優先分配条項の解消(転換)方法を検討したか。
- 準拠法及び管轄裁判所の記載に誤りがないか。