無期転換申込に備える企業向け。転換後の労働条件や定年の定めを整理し、労働契約法第18条の5年ルールと転換申込権の明示義務に対応します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
無期転換社員就業規則
第1部: 書式本文
第1条(規則の目的) この規則は、【株式会社〇〇】(以下「会社」という。)において、労働契約法第18条に基づく無期転換申込権の行使により期間の定めのない労働契約に転換した従業員(以下「無期転換社員」という。)の労働条件を定める。
第2条(無期転換社員の定義) 無期転換社員とは、有期労働契約の下で通算契約期間が5年を超えたことにより無期転換申込権を取得し、当該権利を行使して無期労働契約に転換した従業員をいう。
第3条(適用範囲) 本規則は無期転換社員に適用し、正社員就業規則及び契約社員就業規則は適用しない。ただし、本規則に定めのない事項は正社員就業規則を準用する。
第4条(無期転換申込権の発生) 労働契約法第18条第1項に基づき、同一の会社との間で締結された2以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超える契約社員は、当該契約期間中に、会社に対し、当該契約期間の満了日の翌日から労務が提供される無期労働契約の締結を申し込むことができる。
第5条(無期転換申込機会の明示) 1. 会社は、2024年4月施行の労働基準法施行規則第5条の改正に基づき、無期転換申込権が発生する契約更新の際に、労働条件通知書において、当該契約更新により無期転換申込権が発生する旨を明示する。 2. 会社は、無期転換の申込みがあった場合における労働条件(就業の場所、従事すべき業務、契約期間の定めの有無等)についても、あわせて明示する。
第6条(申込みの手続) 1. 無期転換の申込みを希望する契約社員は、会社所定の様式により、契約期間満了日までに申込みを行う。 2. 会社は、前項の申込みを受けたときは、これを承諾したものとみなし、拒否することはできない。
第7条(無期労働契約の成立) 無期転換の申込みに係る有期労働契約の契約期間が満了した日の翌日から、無期労働契約が成立する。無期転換社員は、当該日から本規則の適用を受ける。
第8条(転換後の労働条件の原則) 1. 労働契約法第18条第1項の趣旨により、無期転換後の労働条件(職務の内容、勤務地、賃金等)は、別段の定めがある部分を除き、転換直前の有期労働契約の内容と同一とする。 2. 前項の「別段の定め」とは、本規則、賃金規程無期転換社員編その他会社が別に定める諸規程による定めをいう。
第9条(定年の定め) 1. 無期転換社員の定年は満【65】歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。 2. 会社は、無期転換前の有期労働契約に定年の定めがない場合であっても、無期転換後は本条の定年が適用される旨を、転換の申込機会の明示に際して説明する。 3. 会社が本規則に定年の定めを置かない場合、無期転換社員には定年による退職がなく、解雇事由に該当しない限り契約関係が継続することとなる点に留意する。
第10条(処遇区分の選択) 1. 無期転換社員の処遇は、次の各号のいずれかの区分により定める。 (1) 処遇据置区分: 転換直前の労働条件を維持したまま無期労働契約に移行する区分 (2) 限定正社員登用区分: 勤務地又は職務を限定した正社員(限定正社員規程に定める限定正社員をいう。)として処遇を見直す区分 2. いずれの区分を適用するかは、会社と対象従業員との協議により決定する。
第11条(勤務地及び職務の限定) 限定正社員登用区分を選択する無期転換社員については、限定正社員規程の定めるところにより、就業の場所又は従事する職務の範囲を限定する。
第12条(賃金) 1. 処遇据置区分の無期転換社員の賃金は、転換直前の時給又は月給の水準を維持する。 2. 限定正社員登用区分の無期転換社員の賃金は、限定正社員規程及び賃金規程限定正社員編に定めるところによる。
第13条(労働時間及び休暇) 無期転換社員の労働時間及び年次有給休暇は、転換直前の有期労働契約における定めを維持する。年次有給休暇の勤続年数の算定に当たっては、有期労働契約の期間を通算する。
第14条(服務規律) 無期転換社員は、正社員就業規則に定める服務規律を準用する。
第15条(退職及び解雇) 1. 無期転換社員が自己都合により退職しようとするときは、退職を希望する日の30日前までに会社に申し出るものとする。 2. 無期転換社員の解雇は、期間の定めのない労働契約であることから、労働契約法第16条に基づき、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は無効となる。
第16条(改廃) 本規則の改廃は、正社員就業規則の変更手続に準じて行う。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 処遇据置型向け(転換前の労働条件をそのまま維持したい企業)
A-1 第8条第1項の修正例 「無期転換後の労働条件は、契約期間の定めを除き、転換直前の有期労働契約の内容と完全に同一とする。契約期間の定めがなくなることに伴う定年の適用については、第9条の定めるところによる。」 一言解説: 処遇据置型では変更点を「契約期間の定めがなくなること」に絞ることで、従業員への説明が簡潔になる一方、定年の定めだけは別途明確化しておく必要がある。
A-2 第12条第1項の修正例 「処遇据置区分の無期転換社員の時給は、転換の前後を通じて変更しない。ただし、正社員に適用する昇給制度は適用せず、時給の改定は会社の裁量による見直しの範囲内で行う。」 一言解説: 処遇を据え置く場合でも、昇給や賞与の適用有無について転換前の有期契約時点の扱いを維持するのか、無期化に伴い見直すのかを条文上明確にしておくことが望ましい。
B節: 限定正社員登用型向け(無期転換を機に正社員区分へ登用したい企業)
B-1 第10条第2項の修正例 「限定正社員登用区分は、無期転換の申込みと同時に、当該従業員が勤務地限定正社員又は職務限定正社員への登用を希望する旨を申し出た場合に適用する。会社は、業務上の支障がない限り当該希望に応じる。」 一言解説: 無期転換のタイミングを限定正社員への登用機会として位置づけることで、単なる契約形式の変更にとどまらないキャリア形成の道筋を示すことができる。
B-2 第11条の修正例 「限定正社員登用区分に移行した無期転換社員の勤務地は、転換時点で従事していた事業場の【通勤圏内、片道60分以内】に限定し、当該範囲を超える転勤は本人の同意なく命じない。」 一言解説: 限定の範囲を客観的な基準(通勤時間等)で定めておくと、事業所再編時に配置転換の可否を巡る紛争を避けやすい。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本規則を使う場面は、有期契約労働者を継続的に雇用しており、通算契約期間が5年を超える従業員が生じることが見込まれる企業、又は既に無期転換申込権を行使した従業員を抱える企業である。逆に、有期契約労働者を更新上限の設定等により通算5年に至る前に契約を終了させる運用を徹底している企業では、無期転換社員が生じないため本規則の整備の優先度は相対的に低くなるが、更新上限の運用自体が雇止め法理との関係で別途慎重な検討を要する点には注意が必要である。
根拠法令の中心は労働契約法第18条である。同条は、複数回にわたり締結された有期労働契約の通算期間が5年を超えた場合に労働者側へ無期労働契約への転換を求める権利を付与し、使用者側に承諾を義務付ける仕組みを採用している。また、2024年4月施行の労働基準法施行規則第5条の改正により、無期転換申込権が発生する契約更新の際には、その旨及び転換後の労働条件を労働条件通知書に明示することが義務付けられており、本規則第5条はこれに対応する。明示義務を怠った場合、直ちに無期転換の効力が否定されるものではないと解されるが、行政指導の対象となり得るほか、従業員が申込機会を逃したことを理由とする紛争の原因となり得る。
無期転換後の定年設定の要否は、実務上見落とされやすい重要な論点である。就業規則に定年の定めがない場合、無期転換社員は解雇事由に該当しない限り契約関係が継続することとなり、高齢期に至っても雇用契約が終了しないという想定外の事態が生じ得る。第9条のように、無期転換社員向けの定年を明記しておくことが、制度設計上重要である。
実務でよくある失敗の一つ目は、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングでその旨を明示せず、後日従業員から明示義務違反を指摘されることである。第5条のように、労働条件通知書における明示を制度化し、更新手続のチェックリストに組み込むことが対策となる。
二つ目の失敗は、無期転換後の就業規則を整備しておらず、定年の定めがないまま無期転換社員が発生し、退職時期を巡る取扱いが不明確になることである。第9条のように、無期転換社員向けの定年を明確に定めておく必要がある。
三つ目の失敗は、無期転換を機に賃金その他の労働条件を従業員に無断で不利益に変更し、労働契約法第18条第1項が求める「別段の定め」の要件(就業規則等での明確化)を欠いたまま処遇を変更してしまうことである。第8条のように、別段の定めを置く場合はその根拠規程を明記し、変更内容を事前に説明する運用が求められる。限定正社員登用区分への移行に伴う処遇変更の合理性や、定年設定の適法性は個別の事情により判断が異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 無期転換社員の定義及び適用範囲を明確にしたか
- [ ] 無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングを把握する仕組みがあるか
- [ ] 2024年4月改正の労働基準法施行規則第5条に基づく明示を労働条件通知書に反映したか
- [ ] 無期転換後の労働条件を定める「別段の定め」の根拠規程を整備したか
- [ ] 無期転換社員向けの定年の定めを置いたか、置かない場合のリスクを検討したか
- [ ] 処遇据置区分と限定正社員登用区分のいずれを適用するかの選定基準を定めたか
- [ ] 限定正社員登用区分の勤務地・職務の限定範囲を客観的基準で定めたか
- [ ] 年次有給休暇の勤続年数算定において有期契約期間を通算する扱いを明記したか
- [ ] 無期転換の申込みを拒否できない旨を運用担当者に周知しているか
- [ ] 更新上限の設定と無期転換ルールとの関係について整合性を確認したか