金型用鋼材や試験用部材を無償で貸与・支給する場合の覚書。民法第593条の使用貸借を基礎に、下請法上の無償支給材の管理責任と返還義務を明確にします。

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無償支給に関する覚書

第1部: 書式本文

無償支給に関する覚書

支給者【企業名】(以下「甲」という。)及び被支給者【企業名】(以下「乙」という。)は、甲乙間の製造委託取引に関連し、甲が乙に対して金型用鋼材、試験用部材その他の材料・部品(以下「支給品」という。)を無償で支給することに関し、以下のとおり合意する。

第1条(無償支給の合意) 甲は、甲乙間の【年月日付】製造委託基本契約に基づく製品の製造のため、別紙「支給品目録」記載の支給品を乙に無償で支給し、乙はこれを受領する。

第2条(支給品の特定及び引渡し) 1. 支給品の品名、数量、規格及び単価相当額は別紙「支給品目録」に定めるとおりとする。 2. 甲は、【引渡期日】までに支給品を【引渡場所】において乙に引き渡す。

第3条(所有権の留保) 支給品の所有権は、支給後も甲に留保され、乙に移転しない。乙は、支給品につき使用収益する権限のみを有し、処分権を有しない。

第4条(使用目的の制限) 乙は、支給品を甲乙間の製造委託契約に基づく製品の製造の用途にのみ使用するものとし、甲の書面による事前の承諾なく、他の製品の製造、第三者への転貸、譲渡その他目的外の使用をしてはならない。

第5条(善管注意義務及び管理体制) 1. 乙は、支給品を善良な管理者の注意をもって保管する。 2. 乙は、支給品を自己の所有する資材及び他の取引先からの支給品と明確に区分して保管し、支給品受払台帳を備え付けて入出庫・在庫数量を記録する。 3. 甲は、必要と認めるときは、乙に対し支給品の保管状況及び受払台帳の提示を求めることができる。

第6条(滅失・毀損等の責任) 1. 乙の責めに帰すべき事由により支給品が滅失、毀損又は紛失した場合、乙は自己の負担で原状に復し、又は甲に生じた損害を賠償する。 2. 前項の場合を除き、支給品の滅失・毀損に伴う危険は甲が負担する。

第7条(返還義務) 1. 乙は、製造委託契約の終了、支給品を使用する製品の生産終了、又は甲からの請求があったときは、遅滞なく支給品(未使用残量を含む。)を甲に返還する。 2. 甲は、返還に要する運送費用を負担する。ただし、乙の善管注意義務違反により生じた損耗分の補塡費用は乙の負担とする。

第8条(下請法上の留意事項) 1. 甲は、支給品の無償支給を理由として、下請代金支払遅延等防止法第4条第2項第3号に定める不当な経済上の利益の提供要請その他乙に不利益となる要求を行ってはならない。 2. 甲は、乙が支給品を毀損等していないにもかかわらず対価の支払を求める等、乙の給付内容を不当に減じる行為を行ってはならない。

第9条(第三者への開示・転貸の禁止) 乙は、甲の書面による事前の承諾なく、支給品を第三者に開示し、貸与し、又は担保に供してはならない。

第10条(有効期間) 本覚書は、締結日から効力を生じ、対象となる製造委託契約が終了し、かつ支給品の返還が完了するまで存続する。

第11条(準拠法及び管轄) 本覚書は日本法に準拠し、本覚書に関して紛争が生じた場合、【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上を証するため、本覚書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。

【作成日】

甲(支給者) 住所: 名称: 代表者: 印

乙(被支給者) 住所: 名称: 代表者: 印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A節 支給者(委託者)向け

複数の受託者に同種の支給品を分散して支給する場合、支給品目録を受託者ごとに個別化し、返還時期を製造委託契約の切替タイミングに連動させる必要がある。 before:「乙は、製造委託契約の終了…又は甲からの請求があったときは、遅滞なく支給品…を甲に返還する。」 after:「乙は、【製品名】の生産終了日又は甲乙間の取引基本契約の解除・終了のいずれか早い時点から【14】営業日以内に、支給品の未使用残量及び受払台帳の写しを添えて甲に返還する。」 返還時期を客観的なイベントに紐付けることで、受託者側の恣意的な返還遅延を防止できる。

B節 被支給者(受託者)向け

受託者としては、支給品の滅失・毀損の責任範囲を限定し、通常の摩耗・劣化まで賠償対象とされないよう手当てすることが重要である。 before:「乙の責めに帰すべき事由により支給品が滅失、毀損又は紛失した場合、乙は自己の負担で原状に復し、又は甲に生じた損害を賠償する。」 after:「乙の故意又は重過失により支給品が滅失、毀損又は紛失した場合に限り、乙は自己の負担で原状に復し、又は甲に生じた現実かつ通常の損害を賠償する。通常使用に伴う摩耗・劣化はこれに含まない。」 無償で支給を受ける立場は経済的に弱いため、責任要件を「軽過失」より重い「故意又は重過失」に限定し、賠償範囲も通常損害に限定する交渉が有効である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

本書式は、親事業者が下請事業者に対し、金型用鋼材や試験用部材など製造に必要な材料・部品を有償の対価を求めずに支給する場面で使用する。既に有償支給契約が締結されており対価精算の仕組みがある場合には、本覚書を無償支給部分にのみ限定して適用すべきであり、支給品の対価精算を伴う取引(有償支給)には本書式をそのまま流用してはならない。また、支給品が乙の所有物であり甲が一時的に預かるにすぎない場合(受託者側資材の預託)は、当事者の立場が逆転するため本書式の構成をそのまま用いることはできない。

法律関係としては、無償で物を貸し使用収益させる点で民法第593条の使用貸借の性質を有し、乙の保管義務については民法第400条の善良な管理者の注意義務が基礎となる。加えて、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第4条第2項第3号は、親事業者が下請事業者に対し自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより下請事業者の利益を不当に害してはならないと定めており、無償支給品の管理コストを一方的に押し付ける運用は同号に抵触するおそれがある。

実務でよくある失敗として、第一に、支給品目録を作成せず口頭又は納品書のみで支給内容を管理し、返還時に数量の食い違いが生じるケースがある。対策として第2条のとおり別紙目録による品名・数量・規格の明記を徹底する。第二に、支給品と受託者の自己資材が倉庫内で混在し、滅失時にいずれの責任か判別できなくなるケースがある。対策として第5条第2項の区分保管義務及び受払台帳の整備を条項化する。第三に、製造委託契約が終了したにもかかわらず支給品の返還条項が存在せず、支給品が受託者側に滞留し続けるケースがある。対策として第7条のように返還時期と費用負担を明確に定める。なお、下請法の適用対象となるか(資本金区分・取引類型)は個別事案は専門家に確認しながら判断する必要がある。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 支給品目録(品名・数量・規格・単価相当額)を別紙として作成しているか
  • [ ] 引渡期日及び引渡場所を明記しているか
  • [ ] 支給品の所有権が甲に留保される旨を明記しているか
  • [ ] 使用目的を製造委託契約の履行の範囲に限定しているか
  • [ ] 区分保管義務及び受払台帳の整備義務を定めているか
  • [ ] 滅失・毀損時の責任要件(故意・重過失か軽過失か)を当事者の交渉力に応じて調整したか
  • [ ] 返還時期(契約終了・生産終了・請求時)を具体的なイベントに紐付けているか
  • [ ] 返還に伴う運送費用の負担者を明記しているか
  • [ ] 下請法第4条第2項第3号その他の禁止行為に抵触する運用がないか確認したか
  • [ ] 第三者への転貸・開示・担保提供の禁止を定めているか
  • [ ] 対象となる製造委託契約の存在・期間との整合性を確認したか
  • [ ] 管轄裁判所の指定が実務上適切な場所になっているか