夜間休日を含む障害受付体制と追加料金の負担を取り決める覚書。労働基準法第36条の時間外労働の制約に配慮しつつ、SLAの対応時間区分と整合させる。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
24時間障害対応に関する覚書
第1部: 書式本文
第1条(目的) 甲(ユーザー)及び乙(ベンダー)は、【原契約名】に定める保守業務に加え、夜間・休日を含む24時間の障害対応体制について、本覚書のとおり合意する。
第2条(対応時間区分) 障害対応の時間区分は次のとおりとする。 一 平日日中(【〇時】から【〇時】まで): 通常対応時間 二 平日夜間(【〇時】から翌【〇時】まで): 夜間対応時間 三 休日・祝日: 休日対応時間
第3条(対象障害の範囲) 24時間対応の対象は、【対象システム名】における次の各号に該当する重大障害に限る。 一 サービスの全部又は主要機能の停止 二 データの毀損又は消失のおそれがある障害 三 セキュリティインシデントの疑いがある事象
第4条(受付方法) 甲は、前条の重大障害を認知した場合、【緊急連絡先】に連絡するものとし、乙は当該連絡を受けてから【〇分】以内に一次応答を行う。
第5条(夜間・休日対応要員の体制) 乙は、夜間対応時間及び休日対応時間について、オンコール体制その他の方法により対応要員を確保する。乙は、労働基準法第36条に基づく時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)の範囲内で要員を配置する。
第6条(追加料金) 夜間対応時間及び休日対応時間における対応が発生した場合、甲は乙に対し、通常対応時間の【〇】倍の割増料金を支払う。ただし、月間【〇件】までの対応は基本料金に含むものとする。
第7条(対応内容の限定) 24時間対応において乙が行う作業は、サービスの復旧に必要な範囲の応急措置に限るものとし、恒久対応は翌通常対応時間以降に別途実施する。
第8条(対応記録) 乙は、24時間対応の実施内容について、対応時刻、対応内容及び復旧時刻を記録し、翌通常対応時間の開始後【〇時間】以内に甲へ報告する。
第9条(SLAとの整合) 本覚書に基づく対応時間区分は、既存のSLA(サービスレベル合意書)における復旧目標時間の算定と整合させ、矛盾する場合は本覚書を優先する。
第10条(見直し) 甲及び乙は、24時間対応の実施状況を踏まえ、【半年】ごとに対応範囲及び追加料金について見直しを協議する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. ベンダー向け
A-1. 対応要員の労務管理条項の追加
修正条文例:「乙は、夜間・休日対応に従事する労働者について、労働基準法及び関連法令に定める労働時間管理、休憩、割増賃金の支払いを適正に行うものとし、甲は乙の労務管理体制について関知しない。」 一言解説: 24時間対応に伴う労務コンプライアンスの一次的な責任がベンダー自身にあることを明確にする修正である。
A-2. 過度な連絡の抑制
修正条文例:「甲は、第3条に定める重大障害に該当しない事象について、夜間対応時間及び休日対応時間に緊急連絡先へ連絡しないものとする。乙は、該当しない連絡について翌通常対応時間まで対応を留保できる。」 一言解説: 緊急連絡先の濫用によりオンコール要員の負担が過大になることを防ぐ修正である。
B. ユーザー向け
B-1. 応急措置後の恒久対応期限の明確化
修正条文例:「乙は、応急措置の実施後【〇営業日】以内に恒久対応の実施計画を甲に提示し、【〇日】以内に実施する。」 一言解説: 応急措置のまま放置されることを防ぎ、恒久対応までのスケジュールを明確にする修正である。
B-2. 割増料金の上限設定
修正条文例:「本覚書に基づく夜間・休日対応の割増料金の月間合計額は、月額委託料の【〇】%を上限とする。」 一言解説: 障害の頻発により追加料金が予測を超えて積み上がることを防ぐ上限設定である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、既存の保守契約やSLAに加えて、夜間・休日を含む24時間の重大障害対応体制を新たに設ける、又はその条件を具体化する場面で用いる。平日日中のみの対応で足りる小規模なシステムや、そもそもベンダー側に夜間対応の人員体制がない場合には、無理に24時間対応を約束させることは実効性を欠くため避けるべきである。
根拠法令 夜間・休日対応の実施は、対応にあたる労働者の時間外労働・休日労働を伴うため、労働基準法第36条に基づく時間外労働協定(36協定)の締結・届出及び同法第37条の割増賃金の支払いが前提となる。ベンダーが自社の労働者に違法な長時間労働を強いる形で24時間対応を約束することは、労働基準法違反のリスクを生じさせるため、ユーザー側としても対応体制の実現可能性(オンコール要員の交代制の有無等)を契約締結前に確認することが望ましい。また、24時間対応の対象範囲や追加料金は、既存のSLA(サービスレベル合意書)における稼働率目標や復旧目標時間(RTO)の算定と整合させる必要があり、矛盾する定めがあると、いずれの基準が優先するかで紛争の原因となる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、24時間対応の対象となる「重大障害」の範囲を定めず、軽微な不具合についても深夜に緊急連絡が入り、対応要員の負担が過大になる失敗がある。第3条のように対象障害の範囲を具体的に限定することが対策となる。第二に、夜間・休日対応の追加料金の発生条件や上限を定めず、障害の頻発によって想定外の高額請求が発生する失敗がある。第6条及びB-2のように基本料金に含む範囲と上限を明記することが有効である。第三に、応急措置と恒久対応の区別を曖昧にし、応急措置のまま長期間放置される失敗がある。第7条及びB-1のように恒久対応までのスケジュールを明記する必要がある。
第四に、ユーザー側の担当者が緊急連絡先の運用ルールを十分に理解しておらず、夜間・休日に軽微な事象でも慣習的に連絡してしまい、結果として真に重大な障害発生時の初動対応が埋没する失敗もある。第3条のように対象障害の範囲を社内に周知徹底し、緊急連絡先の利用基準について定期的な確認の機会を設けることが対策となる。
第五に、割増料金の計算方法を「別途協議」とだけ定め、実際に夜間対応が発生した際に金額を巡って交渉が難航し、緊急対応の迅速性が損なわれる失敗もある。第6条のように、あらかじめ割増率と基本料金に含まれる件数の上限を具体的な数値で合意しておくことが、緊急時の円滑な対応につながる。
24時間対応体制の実現可能性は、ベンダーの人員体制や36協定の範囲に依存するため、個別事案は専門家(社会保険労務士を含む。)に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対応時間区分(平日日中・夜間・休日)を明確に定めたか
- [ ] 24時間対応の対象となる重大障害の範囲を具体的に限定したか
- [ ] 緊急連絡先及び一次応答までの時間目標を定めたか
- [ ] 夜間・休日対応の追加料金の発生条件及び上限を定めたか
- [ ] ベンダーの労務管理(36協定の範囲内での対応)について確認したか
- [ ] 対応内容が応急措置に限られ、恒久対応の期限が別途定められているか確認したか
- [ ] 対応記録の作成及び報告期限を定めたか
- [ ] 既存のSLAとの整合性(矛盾時の優先関係)を確認したか
- [ ] 緊急連絡先への連絡が濫用されないための基準を定めたか
- [ ] 対応範囲・料金の定期的な見直し手続を定めたか