農地を貸し借りする際の契約書。農地法第三条の許可または農業経営基盤強化促進法の利用権設定を選択でき、賃料・耕作義務・返還時の原状回復を規定。
農地賃貸借契約書
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
第1部: 書式本文
貸主〇〇〇〇(以下「甲」という。本件農地の所有者)と借主〇〇〇〇(以下「乙」という。耕作を目的として本件農地の引渡しを受ける者)とは、末尾記載の農地(以下「本件農地」という。)について、次のとおり賃貸借契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的及び権利設定の方式) 甲は乙に対し、耕作の用に供する目的で本件農地を賃貸し、乙はこれを賃借する。本契約に基づく権利の設定は、【農地法第3条の許可を受ける方式】又は【農業経営基盤強化促進法に基づく農用地利用集積計画による利用権設定の方式】のいずれかにより行うものとし、甲及び乙はその効力発生に必要な手続に協力する。
第2条(本件農地の表示) 本件農地の所在、地番、地目及び地積は末尾添付の目録記載のとおりとする。
第3条(賃貸借期間) 賃貸借期間は〇〇〇〇年〇月〇日から〇年間とする。期間満了の〇か月前までに甲又は乙いずれからも更新拒絶の意思表示がないときは、農地法第20条の規定を踏まえ、従前と同一の条件で契約を更新したものとみなす。
第4条(賃料) 賃料は年額金〇〇〇〇円とし、乙は毎年〇月〇日までに甲の指定する口座に振り込んで支払う。振込手数料は乙の負担とする。
第5条(耕作義務) 乙は、本件農地を善良な管理者の注意をもって耕作し、農地としての利用目的に反する使用をしてはならない。乙は、正当な理由なく本件農地を〇年以上遊休化させてはならない。
第6条(転貸及び権利譲渡の禁止) 乙は、甲の書面による事前の承諾を得ない限り、本件農地を第三者に転貸し、又は本契約に基づく権利を譲渡してはならない。
第7条(公租公課及び用排水施設の負担) 本件農地に賦課される公租公課は甲の負担とし、乙が耕作のために使用する用排水施設の維持管理費用は乙の負担とする。
第8条(改良行為) 乙が本件農地に土壌改良その他の改良行為を行おうとするときは、あらかじめ甲に書面で通知し、その内容及び費用負担について協議する。
第9条(解約の制限) 甲は、農地法第18条第1項の許可を得た場合又は同項ただし書に該当する場合を除き、賃貸借期間中に本契約を解約することができない。乙の債務不履行を理由とする解除については、この限りでない。
第10条(契約終了時の返還及び原状回復) 本契約が終了したときは、乙は速やかに本件農地を耕作可能な状態に回復した上で甲に返還する。ただし、第8条の改良行為により本件農地の価値が増加している場合、乙は甲に対しその費用の償還を請求することができる。
第11条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己又はその関係者が暴力団その他の反社会的勢力に該当しないことを表明し、保証する。
第12条(協議事項) 本契約に定めのない事項及び本契約の解釈に疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議して定める。
第13条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【本件農地の所在地を管轄する】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 貸主(農地所有者)向けの修正
A-1. 将来の転用を見据えた中途解約特約
修正後:「甲は、本件農地について農地転用の許可を得たときは、期間満了前であっても〇か月前の書面による通知をもって本契約を解約することができる。この場合、甲は乙に対し未償却の改良費用相当額を補償する。」
一言解説: 相続や後継者不在により将来的な転用・売却を視野に入れる所有者は、農地法第18条の解約制限を前提としつつ、転用許可取得を停止条件とする中途解約権をあらかじめ留保しておく方が紛争を防ぎやすい。
A-2. 遊休化防止のための報告義務強化
修正後:「乙は、毎年〇月末日までに前年の作付状況及び収穫実績を書面で甲に報告するものとし、正当な理由なく〇年連続して耕作を行わなかったときは、甲は催告なく本契約を解除することができる。」
一言解説: 貸主にとって農地の遊休化は資産価値の低下に直結するため、定期報告義務と不耕作時の即時解除規定を組み合わせることで管理不全を早期に把握できるようにする修正である。
B. 借主(耕作者・農業法人)向けの修正
B-1. 法定更新の明記による地位の安定
修正後:「本契約は、期間満了の6か月前までに甲又は乙が更新をしない旨の通知をしないときは、農地法第20条の規定により従前と同一条件で更新されたものとみなす。甲は、乙の耕作の継続を妨げる措置を講じてはならない。」
一言解説: 設備投資や長期栽培計画を伴う農業法人にとって、賃貸借の継続性は経営の前提であるため、法定更新の根拠を条文上に明記し、貸主による恣意的な打切りを牽制する修正である。
B-2. 改良費用償還請求権の具体化
修正後:「乙が暗渠排水又は土壌改良のために支出した費用については、甲乙間で別途締結する覚書に基づき、契約終了時に未償却残高を甲が乙に償還する。償還額の算定方法は当該覚書に定めるところによる。」
一言解説: 抽象的な償還請求権の定めだけでは終了時に金額が争いになりやすいため、算定方法をあらかじめ具体化しておくことで借主の投資回収を確保する趣旨の修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面
本書式は、個人又は農業法人が農地を借り受けて耕作を行う場合の賃貸借契約に用いる。農地以外の宅地や資材置場としての利用、あるいは駐車場等への転用を予定する場合は、農地法上の権利移動許可の対象とならず、別途の賃貸借契約書や転用許可手続を要するため本書式を用いてはならない。また、農業経営基盤強化促進法上の利用権設定を行う場合は、市町村が作成する農用地利用集積計画に基づく手続が必要であり、本書式の条項のみで効力が生じるわけではない点に留意する。
根拠法令
農地の権利移動については農地法第3条に基づき、原則として農業委員会の許可を要する。ただし、農業経営基盤強化促進法に基づく農用地利用集積計画による利用権設定を行う場合は、同計画の公告により権利設定の効力が生じ、農地法第3条の許可を要しない特例が用意されている。賃貸借の解約については農地法第18条により都道府県知事等の許可を要するのが原則であり、無許可の解約は無効となり得る。また、同法第20条は法定更新の仕組みを定めており、当事者があらかじめ都道府県知事等の許可を受けた場合等を除き、期間満了前の一定期間内に更新拒絶の通知をしなければ従前と同一条件で更新されたものとみなされる。
実務でよくある失敗と対策
第一に、口頭や簡易な覚書のみで農地を貸し借りし、農地法第3条の許可を得ないまま耕作を開始してしまう失敗が多い。無許可の権利移動は効力を生じないため、必ず農業委員会への申請又は農用地利用集積計画の手続を先行させる必要がある。第二に、解約条項を安易に自由解約型で作成し、後になって農地法第18条の解約制限に抵触して無効と判断される例がある。中途解約を想定する場合は、同条の許可取得又は同条ただし書該当性を条文上明確にしておくべきである。第三に、契約終了時の原状回復の範囲があいまいなまま契約を結び、暗渠排水や畦畔の扱いをめぐって紛争化する例も見られる。改良行為の内容と費用負担、償還の要否をあらかじめ具体的に定めておくことが望ましい。個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 権利設定の方式が農地法第3条許可か利用権設定かを明確にしたか
- [ ] 対象農地の所在・地番・地積を登記情報と照合したか
- [ ] 賃貸借期間及び更新の有無を明記したか
- [ ] 賃料の額、支払時期及び支払方法を具体的に定めたか
- [ ] 耕作義務及び遊休化防止のための報告義務を規定したか
- [ ] 転貸・権利譲渡禁止の範囲を明確にしたか
- [ ] 中途解約を認める場合、農地法第18条の許可要件との整合性を確認したか
- [ ] 改良行為を行う場合の事前協議及び費用償還の方法を定めたか
- [ ] 契約終了時の返還状態及び原状回復の範囲を具体的にしたか
- [ ] 公租公課及び用排水施設維持費の負担者を明確にしたか
- [ ] 反社会的勢力排除条項を含めたか
- [ ] 紛争発生時の合意管轄裁判所を定めたか