制作物の納品後に権利の所在を明確化する確認書。著作権法第17条の原始的帰属を踏まえ、譲渡対象と受託者が留保する部分を切り分けます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
権利帰属確認書(納品物)
第1部: 書式本文
権利帰属確認書(納品物)
【委託者名】(以下「甲」という)と【受託者名】(以下「乙」という)は、甲乙間の【業務委託契約/制作委託契約】(【 】年【 】月【 】日締結、以下「原契約」という)に基づき乙が制作し甲に納品した成果物「【成果物名】」(以下「本納品物」という)に関する権利の帰属について、次のとおり確認する。
第1条(本確認書の目的) 本確認書は、原契約に基づき乙が創作した本納品物について、著作権法第17条第1項の定める著作者への原始的帰属の原則を踏まえ、甲乙間で権利の帰属及び甲への譲渡対象を明確にすることを目的とする。
第2条(著作者及び原始的帰属の確認) 乙は、本納品物を自ら創作した著作者であり、本納品物の著作権は創作と同時に著作権法第17条第1項に基づき乙に原始的に帰属していたことを確認する。
第3条(著作権の譲渡) 1. 乙は甲に対し、本納品物に係る著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)の全部を、原契約に定める対価をもって譲渡する。 2. 前項の譲渡は、原契約に基づく対価の完済をもって効力を生じるものとする。
第4条(既存素材の取扱い) 1. 本納品物には、乙が本納品物の制作以前から保有していた素材(ストックフォト、テンプレート、乙の過去作品からの流用部分、第三者から使用許諾を受けた素材等。以下「既存素材」という)が含まれる場合がある。 2. 甲及び乙は、本納品物のうち別紙【既存素材一覧】に記載された部分については、当該記載の限度で既存素材であり、その著作権が乙又は原権利者に留保されることを確認する。 3. 甲は、既存素材について、乙が別紙に付記したライセンス条件(利用範囲、再配布可否、クレジット表記義務等)の範囲内でのみ利用できるものとし、当該条件を超える利用を行ってはならない。 4. 別紙に記載のない部分については、本納品物の全体が甲に譲渡される著作権の対象に含まれるものとする。
第5条(著作者人格権の不行使) 乙は、甲又は甲から本納品物の利用許諾を受けた第三者による本納品物の利用に関し、著作者人格権(著作権法第18条から第20条まで)を行使しないことを確認する。ただし、既存素材のうち第三者が著作者であるものについては、当該第三者の著作者人格権はこの限りでない。
第6条(著作権表示・クレジット) 甲が本納品物を利用するにあたり、既存素材に付されたクレジット表記義務がある場合、甲は当該義務を遵守するものとする。乙は、クレジット表記義務のある既存素材については別紙に明記する。
第7条(第三者権利侵害の不存在に関する表明) 乙は、本納品物(既存素材を除く乙自らの創作部分)が第三者の著作権その他の権利を侵害するものではないことを表明する。既存素材について権利侵害の疑義が生じた場合、乙は甲に対しその素材の入手経緯及びライセンス条件を開示し、対応に協力する。
第8条(制作過程データの取扱い) 本納品物の制作過程で生じた中間データ、ラフ案、素材データ等(以下「制作過程データ」という)の権利帰属及び提供の要否は、別途甲乙協議のうえ定める。制作過程データが第3条の譲渡対象に含まれるか否かは、原契約又は本確認書の別紙にて明示する。
第9条(汎用的技術・ノウハウの取扱い) 乙が本納品物の制作にあたり用いた一般的な制作技法、既存のプログラムライブラリ、乙が汎用的に保有するノウハウについては、本納品物固有の表現部分と区別されるものとし、乙は当該技法・ノウハウを他の業務においても引き続き使用できるものとする。
第10条(本確認書と原契約の関係) 本確認書は原契約の内容を補完するものであり、本確認書の内容と原契約の内容が抵触する場合は、既存素材の取扱いに関する事項については本確認書を優先し、その他の事項については原契約を優先する。
第11条(準拠法及び管轄) 本確認書は日本法に準拠し、本確認書に関する紛争は【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 委託者(発注側)向け
委託者の立場では、対価を支払った以上、納品物を制約なく自由に利用できることを確保したいという要請が強い。既存素材の扱いを曖昧にしたまま譲渡を受けると、後日利用制限に直面するリスクがある。
書き換え例(第4条に追加): 「乙は、既存素材一覧に記載のない限り、本納品物には第三者の権利が及ぶ素材が含まれていないことを保証する。既存素材一覧への記載漏れにより甲に損害が生じた場合、乙はその損害を賠償する。」
一言解説: 既存素材の申告を乙の自己申告に委ねる制度である以上、申告漏れ時の責任の所在を契約上明確化しておくことで、委託者の利用の安定性を高める。
B節: 受託者(制作側)向け
受託者の立場では、自らが過去から蓄積してきた素材・技法・ノウハウを個別の案件ごとに手放すことなく、今後の業務でも再利用できる余地を確保することが重要である。
書き換え例(第9条に追加): 「乙は、本納品物の制作において確立した表現技法、構図の考え方、汎用的なテンプレート構造について、本納品物固有の具体的表現(色彩、レイアウトの詳細、キャラクターデザイン等)を除き、他の顧客向け業務において自由に使用できるものとする。」
一言解説: 具体的表現(著作権の保護対象)と、その背後にあるアイデア・技法・スタイル(著作権の保護が及ばない領域)を区別して明記することで、受託者の営業基盤である汎用ノウハウの継続利用を確保しつつ、委託者の懸念にも配慮する。
C節: 既存素材の留保対応
既存素材(有償ストック素材、フリー素材、乙の過去作品からの流用等)が納品物に組み込まれる場合、それぞれのライセンス条件が異なるため、個別管理が必要となる。
書き換え例(第4条第3項に追加): 「乙は、既存素材のライセンス条件の変更(提供元サービスの規約改定等)を知った場合、速やかに甲に通知するものとする。甲は当該通知を受けた既存素材について、代替素材への差し替えその他の対応を検討する。」
一言解説: ストック素材サービスの利用規約は事後的に変更されることがあり、納品時点で適法であった利用が将来的に制限される可能性があるため、変更検知時の通知義務を設けることで委託者の継続利用リスクを軽減する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
この書式を使う場面/使ってはいけない場面
本書式は、デザイン・映像・Webサイト・広告物等の制作を外部に委託し、納品後に権利の所在をあらためて書面で確認・整理する場面を想定している。原契約(業務委託契約書等)の中で著作権譲渡条項が既に明確かつ十分に定められており、既存素材の混入も想定されない単純な制作案件では、重ねて本確認書を作成する必要性は乏しい。逆に、複数の制作者が関与する複雑なプロジェクトや、ストック素材・過去作品からの流用が多い制作物については、原契約とは別に本確認書で対象範囲を精査する意義が大きい。
根拠法令の解説
著作権法第17条第1項により、著作権は創作と同時に著作者(実際に創作行為を行った者)に原始的に帰属する。業務委託契約において「納品物の著作権は甲に帰属する」とだけ定められていても、創作された時点でいったん乙に権利が発生し、その後に譲渡されるという法律構成になる点に注意が必要である。著作権法第61条第1項により著作権(財産権)は譲渡可能であるが、同条第2項により、譲渡契約において第27条(翻案権等)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)を譲渡の目的として特掲していない場合、これらの権利は譲渡人(乙)に留保されたものと推定される。したがって第3条第1項のように、第27条・第28条を明記した譲渡条項とすることが実務上重要である。また著作者人格権(第18条から第20条)は著作権法第59条により著作者の一身専属権であり譲渡できないため、実務上は第5条のような不行使特約によって対応する。
実務でよくある失敗と対策
第一に、著作権譲渡条項に第27条・第28条の明記がなく、納品物を改変・翻案しようとした際に権利が乙に留保されていたことが判明するケースがある。対策として第3条のように明記する。
第二に、既存素材(ストック素材や乙の過去作品からの流用)の混入を事前に申告する仕組みがなく、納品後に甲が把握していないライセンス条件違反が発覚するケースがある。対策として第4条のように既存素材一覧を別紙化し、範囲と条件を明示する。
第三に、制作過程データ(ラフ案、ソースファイル、素材データ)の提供・帰属を定めず、後日の改変や別業者への引継ぎができないケースがある。対策として第8条のように制作過程データの扱いを別途明示する。
個別事案は専門家に確認してください。特に既存素材のライセンス条件は提供元により大きく異なるため、個別の利用規約の確認が不可欠である。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本納品物の著作者が乙であり、原始的帰属が乙にあることを確認したか
- [ ] 著作権譲渡条項に第27条・第28条の権利を明記したか
- [ ] 既存素材(ストック素材・過去作品からの流用等)の有無を乙に確認したか
- [ ] 既存素材一覧を別紙化し、対象範囲とライセンス条件を明記したか
- [ ] 既存素材に関するクレジット表記義務の有無を確認したか
- [ ] 著作者人格権の不行使特約を定めたか
- [ ] 第三者権利侵害がないことの表明保証を定めたか
- [ ] 制作過程データ(ラフ案・ソースファイル等)の提供・帰属を定めたか
- [ ] 乙の汎用的な技法・ノウハウの継続利用可能性を整理したか
- [ ] 既存素材のライセンス条件変更時の通知義務を定めたか
- [ ] 本確認書と原契約の優先関係を定めたか