納入期限を変更する際の覚書です。変更理由、新たな納期、遅延損害金の免除の可否、後続工程への影響を確認します。関連書式とあわせて使うことで手続の漏れを防げます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
納期変更覚書
第1部: 書式本文
納期変更覚書
【発注者】(以下「甲」という。)と【受注者】(以下「乙」という。)は、甲乙間で【契約締結日】付で締結した【原契約名称】(以下「原契約」という。)に定める納入期限の変更に関し、本日、以下のとおり覚書(以下「本覚書」という。)を締結する。
第1条(変更の対象) 甲及び乙は、原契約第【 】条に定める下記の品目又は業務(以下「本件対象」という。)に係る納入期限を、本覚書のとおり変更することを確認する。 (1) 対象品目・業務: 【品目・業務内容】 (2) 原契約における納入期限: 【変更前の納期。年月日で特定する】
第2条(変更後の納期) 前条の納入期限は、本覚書締結日をもって下記のとおり変更する。 変更後の納入期限: 【変更後の納期。年月日で特定する】
第3条(変更理由) 本件納期変更の理由は下記のとおりであることを、甲乙は相互に確認する。 理由: 【変更理由。例: 原材料の調達遅延、仕様変更に伴う工程増加、乙側の生産設備の不具合、甲側の検収体制の見直し等、事実関係を具体的に記載する】
第4条(帰責事由の所在) 1. 本件納期変更が乙の責めに帰すべき事由による場合、乙は甲に対し、当該変更により甲に現に生じた直接かつ通常の損害を賠償する。 2. 本件納期変更が天災地変、感染症の蔓延、輸送障害、法令の制定改廃その他甲乙いずれの責めにも帰することのできない事由による場合、乙は民法第419条第3項の趣旨に鑑み、当該事由に起因する遅延について履行遅滞の責任を負わない。ただし乙は、当該事由が発生したことを知った後速やかに甲へ通知し、納期の短縮に向けた合理的な努力を行う。 3. 本件納期変更が甲の指示変更、支給材料の交付遅延その他甲の責めに帰すべき事由による場合、乙は当該事由に起因する遅延について履行遅滞の責任を負わない。
第5条(遅延損害金の取扱い) 1. 変更後の納期(第2条)を乙が徒過した場合であって、その原因が前条第1項所定の乙の責めに帰すべき事由による場合、乙は甲に対し、遅延日数に応じ、未納入部分に係る代金額に年【 】パーセントを乗じて算出した金額を遅延損害金として支払う。 2. 前項の料率は、民法第419条第1項所定の法定利率を参考に、契約類型に応じて甲乙協議のうえ定めるものとする。 3. 前条第2項又は第3項に該当する場合、前2項の遅延損害金は発生しない。 4. 甲及び乙は、本件納期変更及び前各項の定めが、下請代金支払遅延等防止法第4条第1項第3号にいう給付の受領拒否その他乙(乙が同法上の下請事業者に該当する場合)に不当な不利益を与えるものであってはならないことを相互に確認する。
第6条(後続工程への影響確認) 1. 甲は、本件納期変更が甲の生産計画、販売計画又は第三者との契約の履行に与える影響の有無及び程度を、可能な範囲で乙に共有する。 2. 乙は前項の共有内容を踏まえ、変更後の納期の確実な履行に努める。 3. 変更後の納期によっても甲の事業運営に看過し難い支障が生じると見込まれる場合、甲乙は速やかに協議し、部分納入、代替品の手配その他の対応策を検討する。
第7条(既発生債権債務への不影響) 本覚書締結前に既に発生した甲乙間の債権債務(既に納入が完了した部分に係る代金債権及びこれに付随する債務を含む。)は、本覚書によりその内容を変更されない。
第8条(原契約との関係) 本覚書に定めのない事項、及び本覚書の内容に反しない限度において、原契約の定めはなお効力を有する。
第9条(協議) 本覚書に定めのない事項又は本覚書の解釈に疑義を生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
本覚書締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する。
【締結日: 年 月 日】
甲: 【住所・商号・代表者名】 印 乙: 【住所・商号・代表者名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 発注者(甲)の立場からの修正例
A-1. 遅延損害金の免除を限定的にしたい場合 第5条第3項を「前条第2項に該当する事由のうち、乙が甲に対し当該事由発生後3営業日以内に書面又は電子メールにより通知した場合に限り、本条第1項及び第2項の遅延損害金は発生しないものとする。」と修正する。通知義務を課すことで、事後的な免責主張の濫用を防ぐ狙いがある。
A-2. 後続工程で生じる実損害を明確に補償させたい場合 第4条第1項に「当該損害には、甲が第三者に対して負担する遅延関連の違約金及び代替調達に要した合理的な費用を含む。」を追記する。ただし乙に一方的に過大な負担を課す内容は、下請法上の不当な経済上の利益の提供要請等の問題を生じさせる可能性があるため、金額の上限や算定根拠を併せて明記することが望ましい。
A-3. 進捗報告義務を追加したい場合 第6条第2項の末尾に「乙は、変更後の納期の10日前を目安に、進捗状況を甲に報告する。」を追加する。甲が後続計画の調整余地を早期に確保できる。
B. 受注者(乙)の立場からの修正例
B-1. 免責事由の範囲を明確に広げたい場合 第4条第2項の列挙事由に「甲からの仕様変更指示」「甲からの支給材料の納入遅延」「甲の検収体制の変更による確認期間の延伸」を追加する。発注者側の事情に起因する遅延について乙が責任を負わない旨を明確化する趣旨である。
B-2. 部分納入による責任限定を明記したい場合 第6条第3項の対応策に「乙が変更後の納期までに本件対象の【 】パーセント以上を納入した場合、残部については別途協議のうえ納期を再設定できるものとし、遅延損害金(発生する場合)の起算日は再設定後の納期を基準とする。」を追加する。乙にとって部分的な履行努力が評価される仕組みとなる。
B-3. 費用増加分の請求根拠を明記したい場合 第3条の変更理由が甲の事情による場合、第5条の次に「甲の事情による納期変更に伴い乙に生じた追加費用(保管費用、人員手配費用等)は、甲がこれを負担する。」との条項を新設する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本覚書は、既に締結済みの請負契約や売買契約等における納入期限のみを事後的に変更する場合に用いる書式である。単なる口頭のやり取りや電子メールでの簡易なやり取りにとどめず、変更の事実、理由、遅延損害金の取扱いを書面として残すことで、後日の紛争を予防する効果が期待できる。他方で、代金額や仕様、数量など納期以外の重要事項も同時に大きく変更する場合には、本覚書のみで対応せず、契約全体を見直す変更契約書として整理し直すことが望ましい。また、そもそも履行が不能になっているようなケースでは、納期変更ではなく契約の解除や再委託の検討が必要になる場合もある。
根拠法令としては、民法第412条が履行期及び履行遅滞の基準を定めており、確定期限のある債務についてはその期限の到来により履行遅滞となる旨を規定している。また、金銭債務の履行遅滞に関する損害賠償については民法第419条が特則を置き、同条第1項は法定利率による損害賠償額の算定を、同条第3項は不可抗力をもって抗弁とすることができない旨を定めている。この第419条第3項は金銭債務に固有の規律であり、裏を返せば金銭債務以外の給付債務(本件の納入義務など)については不可抗力による免責の余地があることを示唆する。本覚書の第4条及び第5条は、この整理を踏まえて金銭債務以外の給付債務における不可抗力免責と、金銭債務としての遅延損害金の発生要件を書き分けている。
発注者が資本金区分等により下請代金支払遅延等防止法上の親事業者に該当する場合、同法第4条第1項第3号は、下請事業者に責任がないにもかかわらず給付の受領を拒むことを禁止している。納期変更という形式をとりながら実質的に受領拒否と同視されるような取扱いを行うと、同号違反となり得るため、変更の理由や後続工程への影響を客観的に記録し、乙に不当な不利益を課さない内容とすることが重要である。
よくある失敗として、第一に、変更理由を記載せず口頭のやり取りのみで納期を変更してしまい、後日いずれの責めに帰すべき事由かで争いになるケースが挙げられる。第3条・第4条のように理由と帰責の所在を書面上で確認する条項を設けることが対策となる。第二に、遅延損害金の起算点や利率を曖昧にしたまま変更後の納期のみを合意し、再度遅延が生じた際に計算根拠を欠くケースがある。第5条のように具体的な料率・起算日・算定対象金額を明記することが望ましい。第三に、下請取引であるにもかかわらず親事業者側の都合のみで一方的に納期を延長し、下請事業者の資金繰りや人員配置に影響を与えるケースがあり、この点は業種・取引金額・下請法上の資本金区分によって規制の適用関係が異なるため、個別の事案については専門家(弁護士等)に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 原契約(納期変更の対象となる契約)の名称・締結日・条項番号を正確に特定したか
- [ ] 変更前・変更後の納期をいずれも具体的な年月日で記載したか
- [ ] 変更理由を客観的な事実として記載したか(後日の紛争予防のため)
- [ ] 帰責事由の所在(発注者側・受注者側・不可抗力)について認識を一致させたか
- [ ] 遅延損害金の料率・起算日・算定対象金額を明記したか
- [ ] 発注者が下請代金支払遅延等防止法上の親事業者に該当する可能性がないか確認したか
- [ ] 納期変更が受注者(下請事業者)に不当な不利益を与える内容になっていないか
- [ ] 後続工程・第三者との契約への影響について発注者から情報共有がなされているか
- [ ] 既発生の債権債務(既納入分の代金等)が本覚書により変更されないことを明記したか
- [ ] 原契約との優先関係(本覚書が優先する範囲)を明記したか
- [ ] 記名押印又は電子署名の方式が原契約の変更手続に関する定め(存在する場合)と整合しているか
- [ ] 追加費用や進捗報告義務など、業種特有の実務慣行を反映する必要がないか検討したか