診療所がオンライン診療を導入する際の患者同意と院内運用ルールの書式。医師法第二十条と適切な実施に関する指針に沿い、対面診療への切替や通信環境の要件を定める。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
オンライン診療に関する同意書・運用規程
第1部: 書式本文
医療法人【 】(以下「甲」という。)は、患者【 】(以下「乙」という。)に対し、情報通信機器を用いた遠隔診療(以下「オンライン診療」という。)を実施するに当たり、次のとおり同意書兼運用規程を定める。乙は、本書の内容を確認のうえ、オンライン診療の実施に同意する。
第1条(目的) 本書は、甲が乙に対して実施するオンライン診療について、医師法第20条及び厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の考え方を踏まえ、適用範囲、実施方法及び緊急時対応等を定め、乙の理解と同意を得ることを目的とする。
第2条(オンライン診療の定義) 本書においてオンライン診療とは、甲に所属する医師が、情報通信機器を用いてリアルタイムにより行う診察及び診断を行い、その結果を踏まえて診断結果の伝達や処方等の診療行為を行うものをいい、電話再診その他の非対面診療のうち本書が定める要件を満たすものを含む。
第3条(適用範囲-初診・再診の区別) 1. オンライン診療は、原則として、甲において対面による診療を受けたことがある疾患に係る再診について実施するものとする。 2. 甲は、初診からオンライン診療を行う場合、指針が定める要件(既往歴等の把握が可能であること、緊急時に適切に対応できる体制を有すること等)を満たすときに限り実施するものとし、症状によっては対面受診への切替を乙に求めることがある。 3. 甲は、対面診療を組み合わせることが適切と判断される疾患については、オンライン診療の実施を見合わせることができる。
第4条(本人確認) 甲は、乙に対しオンライン診療を実施するに当たり、初回時に公的身分証明書の提示その他甲が定める方法により本人確認を行うものとし、なりすまし受診が疑われる場合には診療を中止することができる。
第5条(通信機器及び通信環境の要件) 乙は、オンライン診療の実施に必要な通信機器(カメラ・マイク機能を有する端末)及び安定した通信環境を自己の負担で確保するものとする。甲は、映像及び音声の品質が診療に支障を生じない水準であることを確認したうえで診療を開始する。
第6条(同意の取得及び範囲) 乙は、本書の内容、オンライン診療の限界(視診・聴診・触診等対面診療に比して得られる情報が限定されること)及びリスクについて甲から説明を受け、これを理解したうえでオンライン診療を受けることに同意する。
第7条(対面診療への切替基準) 1. 甲は、次の各号のいずれかに該当すると判断した場合、乙に対し速やかに対面診療への切替を求めるものとする。 (1) 症状が悪化し、又は増悪の兆候がみられる場合 (2) 画面越しの情報のみでは確定診断が困難と判断される場合 (3) 検査・処置等対面でなければ実施できない医療行為が必要と判断される場合 2. 乙は、前項の切替の求めに応じ、甲が指定する期日までに来院するものとする。乙が来院しない場合、甲は診療を中止することができる。
第8条(処方の制限) 甲は、オンライン診療において、指針が処方を慎重に行うべきとする医薬品(麻薬及び向精神薬等)については、原則として処方を行わない。乙が服薬中の薬剤について、対面診療での評価を要すると判断される場合、甲は処方を見合わせることができる。
第9条(通信障害時の対応) オンライン診療の実施中に通信障害が生じた場合、甲及び乙は、あらかじめ甲が指定する電話番号への架電その他の代替手段により診療を再開するよう努めるものとする。代替手段によっても診療の継続が困難な場合、甲は診療を中止し、後日の来院又は再度のオンライン診療により対応するものとする。
第10条(診療録の記載及び保存) 甲は、オンライン診療の実施日時、実施方法、伝達した診断内容及び処方内容等を診療録に記載し、医師法第24条に基づき、対面診療と同様の方法により保存する。
第11条(緊急時の対応) 甲は、乙の症状から救急対応が必要と判断した場合、直ちにオンライン診療を中止し、乙に対し最寄りの救急医療機関の受診を案内し、又は救急要請を促すものとする。甲は、乙の居住地に応じてあらかじめ近隣医療機関を把握しておくよう努める。
第12条(秘密保持) 甲は、オンライン診療を通じて知り得た乙の診療情報を、個人情報保護法その他関係法令の定めるところにより適切に管理し、法令に定める場合を除き第三者に開示しない。
第13条(同意の撤回) 乙は、いつでも本書に基づく同意を撤回し、対面診療への変更を申し出ることができる。
【同意日】令和【 】年【 】月【 】日
甲(医療機関): 【名称・所在地・管理者氏名】 印 乙(患者): 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 医療機関(甲)向けの修正
A-1. 小児科における保護者同席の要件追加
追加条文例:「乙が未成年者である場合、オンライン診療の実施に当たっては、保護者が同席し、本人確認及び同意取得の手続に関与するものとする。」 解説: 小児患者は本人確認及び症状の的確な伝達が困難な場合が多く、保護者の同席を要件化することでなりすまし防止と診療の質確保を両立できる。
A-2. 精神科・心療内科における対面切替基準の強化
修正後:「甲は、乙に自傷他害のおそれ等緊急性の高い症状が疑われる場合、直ちにオンライン診療を中止し、対面診療又は他の医療機関への受診を強く勧奨するものとする。」 解説: 精神科領域では画面越しの情報のみで緊急性を評価することに限界があるため、切替基準を通常疾患より厳格に定めることが望ましい。
B. 患者(乙)向けの修正
B-1. 遠隔地居住患者向けの通信障害対応の具体化
追加条文例:「乙が医療機関から著しく離れた地域に居住する場合、通信障害発生時の代替手段として、近隣の連携医療機関【名称】での対面診療を選択肢に加えるものとする。」 解説: 通院に長時間を要する患者については、電話再開だけでなく地域の連携先を確保しておくことが実効的な対応となる。
B-2. 高齢患者における家族の補助
修正後:「乙が単独での通信機器操作又は症状説明が困難な高齢者である場合、家族又は介護者が通信機器の操作を補助することができるものとし、その旨を診療録に記録する。」 解説: 高齢患者ではデジタル機器の操作自体が障壁となりやすく、補助者の関与を明確にすることで本人確認との整合性も確保しやすくなる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面の解説 本書式は、診療所やクリニックが情報通信機器を用いた診療(オンライン診療)を導入するに当たり、患者の同意取得と院内の運用ルールを一体として整備する場面で用いる。既に対面診療の実績がある患者の再診を中心に想定しており、初診からオンライン診療のみで完結させる運用や、対面診療の体制を全く持たない事業者が単独で実施する運用には、そのまま使うべきではない。
根拠法令の解説 医師法第20条は、医師が自ら診察しないで治療をし、診断書等を交付することを禁止しており、オンライン診療がこの「診察」に該当するかが実務上の出発点となる。厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は法令そのものではないが、医師法第20条の解釈運用の基準として実務上参照される取扱いとなっており、初診の可否、本人確認、対面診療への移行基準等の考え方を示している。個人情報保護法上の要配慮個人情報の取扱いにも留意が必要である。
実務でよくある失敗と対策の解説 第一に、対面診療への切替基準を定めずに運用し、症状悪化時の対応が遅れる失敗がある。第7条のように切替の判断基準を具体的に列挙し、乙の来院義務まで明記することが対策となる。第二に、なりすまし受診を防ぐ本人確認手続が不十分なまま診療を開始してしまう失敗がある。第4条のように初回時の公的身分証明書提示を明記し、疑義がある場合の中止権限を確保することが対策となる。第三に、通信障害発生時の代替手段が規程上定められておらず、診療が中断したまま放置される失敗がある。第9条のように電話再開等の代替手段をあらかじめ規定することが望ましい。オンライン診療の可否や処方制限の範囲は疾患ごとに個別判断を要するため、個別の事案については専門家(弁護士等)や指針の最新版に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象患者が対面診療の実績を有する再診患者か確認したか
- [ ] 初診からオンライン診療を行う場合、指針が定める要件を満たしているか確認したか
- [ ] 本人確認の方法(公的身分証明書の提示等)を具体的に定めたか
- [ ] 通信機器・通信環境の要件を乙に説明し理解を得たか
- [ ] 対面診療への切替基準を具体的に列挙したか
- [ ] 処方を制限すべき医薬品の範囲を確認したか
- [ ] 通信障害発生時の代替手段(電話再開等)を規定したか
- [ ] 緊急時の近隣医療機関・救急対応の案内方法を確認したか
- [ ] 診療録の記載事項及び保存方法が医師法第24条に適合しているか確認したか
- [ ] 同意の撤回手続を明記したか