開発プロジェクトを中途で打ち切る際の出来高精算と権利帰属を定める合意書。民法第641条の注文者の解除権と第634条の割合的報酬請求を根拠とする。

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プロジェクト中止に伴う清算合意書

第1部: 書式本文

第1条(前提) 甲(ユーザー)及び乙(ベンダー)は、【元契約名/締結日】に基づき進行していた【プロジェクト名】(以下「本プロジェクト」という。)を、【中止事由】により、【中止日】をもって中途で終了させることに合意する。

第2条(終了原因の確認) 甲及び乙は、本プロジェクトの終了が、〔選択A: 甲による任意解除(民法第641条)/選択B: 甲乙間の合意解除/選択C: 乙の債務不履行に基づく解除/選択D: 不可抗力による履行不能〕に該当することを相互に確認する。

第3条(出来高の確定) 甲及び乙は、中止日時点における乙の履行済み業務の範囲を別紙「出来高確認書」のとおり確定する。出来高の算定は、進捗率、投入工数、既納品の成果物の完成度を基礎とする。

第4条(割合的報酬) 甲は、乙に対し、民法第634条の趣旨を踏まえ、確定した出来高に応じた報酬【金〇円】を支払う。ただし、第2条選択Cの場合、乙の債務不履行に起因する手戻り分は控除する。

第5条(甲の任意解除による損害賠償) 第2条選択Aの場合、甲は、乙が本プロジェクトの履行のために要した費用及び本プロジェクトの完成によって乙が得たであろう利益の喪失について、民法第641条に基づき、別紙算定表の限度で賠償する。

第6条(成果物の帰属及び引渡し) 乙は、中止日までに作成した成果物(未完成品を含む。)を甲に引き渡す。当該成果物に関する著作権は、報酬の支払完了を条件として、〔甲に譲渡する/乙に留保する〕。

第7条(仕掛品の取扱い) 甲は、引渡しを受けた未完成の成果物について、乙の同意なく第三者に完成作業を委託し、又は自ら改変することが〔できる/できない〕ものとする。

第8条(既払金の精算) 甲が既に乙に支払った金員が、第4条及び第5条により確定した金額を超過する場合、乙は当該超過額を【〇日】以内に甲に返還する。

第9条(債権債務の清算完了の確認) 甲及び乙は、本合意書に定める金員の授受をもって、本プロジェクトに関する一切の債権債務が清算されたことを相互に確認する。ただし、秘密保持義務及び知的財産権に関する定めはこの限りでない。

第10条(相互の債権放棄・清算条項) 甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、本プロジェクトに関し、相手方に対し何らの債権債務を有しないことを確認し、これを放棄する。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. ベンダー向け

A-1. 逸失利益の算定根拠を明確にする修正

修正条文例:「逸失利益の算定は、本プロジェクトの残工程に係る見積総額から、乙が中止によって免れた変動費(外注費、材料費等)を控除した金額とする。」 一言解説: 逸失利益の算定方法を曖昧にすると水掛け論になりやすいため、控除対象を明記して算定根拠を客観化する。

A-2. 未完成品の改変に対する留保

修正条文例:「乙は、未完成の成果物について著作者人格権を放棄せず、甲が第三者に改変を委託する場合、乙の氏名表示に関する希望を尊重するよう甲に要請できる。」 一言解説: ベンダーが著作者人格権(著作権法第18条から第20条)を安易に放棄しないための修正である。

B. ユーザー向け

B-1. 出来高査定の第三者確認

修正条文例:「出来高の確定に争いがある場合、甲乙は共同で選定する第三者専門家の査定意見を参考に協議する。」 一言解説: 出来高の算定はベンダー側の主張に偏りやすいため、第三者の査定を挟むことで公平性を確保する。

B-2. 中止に至った原因が乙の債務不履行である場合の追加請求権の留保

修正条文例:「甲は、本合意書締結後であっても、乙の債務不履行により生じた損害について、別途損害賠償を請求する権利を留保する。」 一言解説: 清算条項による包括的な債権放棄が、債務不履行に基づく損害賠償請求権まで消滅させないよう明示的に除外する。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、システム開発プロジェクトが予算縮小、方針転換、当事者の債務不履行等により完成前に中止となる場面で、出来高の精算及び権利義務関係の清算を行うために用いる。プロジェクトが完成し検収も終えている場合の通常の契約終了には適さず、また中止原因について重大な争いがあり訴訟を前提とする場合は、示談交渉の枠組みとして別途検討する必要がある。

根拠法令 請負契約の注文者は、民法第641条により、仕事の完成前であればいつでも損害を賠償して契約を解除することができる。また、同法第634条は、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事の完成が不能となった場合又は請負が仕事の完成前に解除された場合において、既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる旨を定める(割合的報酬)。準委任契約の場合は民法第648条第3項が同様の趣旨を定める。いずれの契約類型に該当するかによって清算のロジックが異なるため、元契約の性質決定が前提となる。

実務でよくある失敗と対策 第一に、出来高の算定基準を定めずに「進捗率〇%相当」とだけ合意し、後日その根拠を巡って再燃する失敗がある。第3条のように算定の基礎(工数、成果物の完成度等)を明記し、別紙で具体的な内訳を残すことが重要である。第二に、清算条項(第10条)を安易に広く定めた結果、実は残っていた債務不履行に基づく損害賠償請求権まで放棄したものと解釈され、追加請求ができなくなる失敗がある。B-2のように除外事項を明記する対策が有効である。第三に、未完成の成果物の著作権の帰属を定めずに引渡しを受け、後日別のベンダーに改修を依頼しようとした際に権利処理で紛糾する失敗がある。第6条のように著作権の帰属と条件を明記する必要がある。

第四に、成果物の引渡し時に検収の手続を経ないまま「引き渡した」とだけ記録し、後日、引き渡された成果物の完成度について認識の齟齬が生じる失敗もある。第6条のように引渡しと著作権譲渡の条件(報酬支払完了)を連動させ、検収に相当する確認プロセスを別途設けることが望ましい。

出来高の評価や逸失利益の算定は個別事情による差が大きいため、金額の合理性については専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] プロジェクト中止の原因(任意解除・合意解除・債務不履行・不可抗力)を特定したか
  • [ ] 出来高の算定根拠(進捗率、工数、成果物の完成度)を別紙で具体化したか
  • [ ] 割合的報酬又は逸失利益の算定方法を明記したか
  • [ ] 既払金と確定精算額の過不足の返還条項を定めたか
  • [ ] 未完成の成果物の引渡し方法と著作権の帰属を明確にしたか
  • [ ] 未完成品を第三者が改変することの可否と著作者人格権の扱いを確認したか
  • [ ] 清算条項が秘密保持義務等の存続条項を除外していることを確認したか
  • [ ] 清算条項が債務不履行に基づく損害賠償請求権まで放棄していないか確認したか
  • [ ] 出来高の算定に争いがある場合の解決手続(第三者査定等)を定めたか
  • [ ] 元契約が請負か準委任かを確認し、適用根拠条文を整合させたか