著名人の氏名や肖像がもつ顧客吸引力を商業利用する契約書。判例上のパブリシティ権と民法第709条の不法行為責任を踏まえた設計です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
パブリシティ権利用許諾契約書
第1部: 書式本文
【所属事務所名】(以下「甲」という。)と【起用企業名】(以下「乙」という。)は、甲の所属タレント【タレント名】(以下「本タレント」という。)の氏名及び肖像の商業的利用に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(定義) 本契約において「本パブリシティ権」とは、本タレントの氏名、肖像その他本タレントを特定させる表示が有する顧客吸引力を専ら利用する権利をいう。「利用媒体」とは第4条に定める媒体をいう。
第2条(許諾の付与) 甲は乙に対し、本契約に定める条件のもと、乙が利用媒体において本タレントの氏名及び肖像を商業的に利用することを許諾する。本許諾は、本タレントの氏名・肖像を専ら顧客吸引力の利用を目的として使用する行為を対象とする。
第3条(独占的利用) 本許諾は、対象商品区分【】について独占的とし、甲は許諾期間中、乙と競合する事業者【業種を具体的に列挙】のために本タレントを起用させてはならない。
第4条(利用媒体及び態様) 利用媒体は、テレビCM、新聞・雑誌広告、屋外広告、乙の公式ウェブサイト及び公式SNSアカウントとする。乙は、甲の事前承認を得た素材のみを使用でき、素材の切り抜き・加工・トリミングを行う場合は別途甲の承認を得るものとする。
第5条(ロイヤリティ及びミニマムギャランティ) 乙は甲に対し、起用料として契約締結時に金【〇〇】円(以下「本ギャランティ」という。)を支払う。本ギャランティは、乙の売上実績にかかわらず最低保証額として扱われ、利用態様の追加(グッズ展開、店頭POP追加等)がある場合は別途協議のうえ追加報酬を支払う。
第6条(本タレントの活動制限) 甲は、許諾期間中、本タレントが乙の競合他社の広告に出演し、又は競合他社商品を推奨する行為をさせてはならない。
第7条(表明保証) 甲は乙に対し、本契約締結にあたり本タレント本人から本契約内容について有効な同意を取得済みであること、及び本タレントとの専属マネジメント契約に基づき本パブリシティ権の許諾権限を有することを表明し、保証する。
第8条(品位保持) 甲は、本タレントが公序良俗に反する行為、乙の信用を毀損する行為(以下「不祥事」という。)を行わないよう指導する。不祥事が生じた場合、甲は乙に速やかに報告する。
第9条(契約期間) 本契約の有効期間は、契約締結日から【1】年間とする。
第10条(中途解除) 乙は、本タレントに不祥事が発生し、乙の企業イメージを著しく毀損すると乙が合理的に判断した場合、甲に書面通知のうえ本契約を直ちに解除できる。この場合、乙は既払いのギャランティの返還を甲に請求できる。甲が第3条の独占的利用義務に違反した場合、乙は本契約を解除し、損害賠償を請求できる。
第11条(契約終了後の措置) 本契約終了後、乙は本タレントの氏名・肖像を使用した広告物を速やかに撤去・廃棄する。ただし既に印刷・放映済みの媒体で撤去に時間を要するものは、終了日から【30】日間に限り継続使用を認める。
第12条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の内容及び交渉過程で知り得た相手方の秘密情報を第三者に開示してはならない。
第13条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己及び本タレントが暴力団員等の反社会的勢力に該当しないことを表明し保証する。
第14条(準拠法及び合意管轄) 本契約の準拠法は日本法とし、本契約に関する紛争は【】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【契約締結日】 甲(所属事務所):住所 名称 代表者 印 乙(起用企業):住所 名称 代表者 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 芸能事務所向けの修正
A-1. ギャランティ不返還の原則明記
追加条文例:「本ギャランティは、本タレントの責めに帰すべき不祥事が生じた場合を除き、既に経過した期間分について乙は返還を請求できない。」 一言解説: 解除時の返還範囲を明確にし、事務所側が期間経過分のギャランティまで一律に返還させられる事態を防ぐ修正である。
A-2. 乙による素材改変への事前承認強化
追加条文例:「乙は、本タレントの肖像を用いた素材をAI技術等により加工・生成する場合、必ず事前に甲の書面承認を得るものとし、無断改変が判明した場合、甲は直ちに使用差止めを求めることができる。」 一言解説: 生成AIによる肖像の無断加工・合成が想定される時代において、事務所側がタレントのイメージコントロールを維持するための修正である。
B. 起用企業(広告主)向けの修正
B-1. 不祥事発生時の解除権の明確化
追加条文例:「『不祥事』には、刑事事件での逮捕・起訴、反社会的勢力との交際、SNS上の炎上により社会的信用を著しく損なう事態を含む。乙は、これらの事実を知った日から【7】日以内に解除の可否を通知する。」 一言解説: 「著しく毀損」という抽象的要件のみでは解除の可否判断が遅れるため、不祥事の類型を具体的に例示し迅速な意思決定を可能にする修正である。
B-2. 独占範囲の競合他社リストの別紙化
追加条文例:「第3条の競合事業者は別紙競合リストに定めるとおりとし、乙は市場環境の変化に応じ、甲との協議により年1回リストを更新できる。」 一言解説: 業種の抽象的記載では独占範囲の解釈が曖昧になるため、具体的な競合他社名を別紙で管理し、契約期間中の紛争を予防する修正である。
C. 商品化・グッズ展開対応の修正
C-1. グッズ展開時の追加許諾条項
追加条文例:「乙が本タレントの氏名・肖像を付したグッズ(缶バッジ、ポスター等)を商品化・販売する場合、甲は別途商品化権許諾契約を締結するものとし、本契約のみでは当該利用を許諾しない。」 一言解説: 広告利用と物品への付随的な商品化は法的性質が異なるため、両者を明確に区別し、グッズ展開には別途の合意を要することを確認する修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、著名人の氏名・肖像を継続的・独占的に商業利用する場面(CM専属契約、イメージキャラクター起用等)で用いる。単発の広告写真撮影や特定の交通広告への一時的な掲載のみを想定する場合は、より簡易な媒体・期間限定型の覚書(タレント肖像の広告利用に関する覚書)を用いるほうが実務上適合的である。
根拠法令 パブリシティ権は、著作権法や商標法のような制定法上の明文規定を持たず、判例上確立された権利である。最高裁平成24年2月2日判決(いわゆるピンク・レディー事件)は、肖像等を無断で使用する行為が、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合には、パブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となる旨を判示した。したがって本契約に基づく利用も、この判例法理を前提として設計する必要があり、成文法による明確な要件・効果の定めがない以上、契約書上で利用範囲・独占性・対価を具体的に定めておくことの重要性が高い。侵害があった場合の法的根拠は民法第709条の不法行為に基づく損害賠償請求である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、独占的利用と定めたにもかかわらず、事務所が同時期に競合他社の広告にも本タレントを起用させ、独占条項違反が生じる失敗がある。第3条・第6条のように競合事業者を具体的に特定し、活動制限義務を明記することが有効である。第二に、タレント本人の同意取得を事務所任せにした結果、後日タレント本人から契約内容について同意していないとの主張がなされる失敗がある。第7条のように事務所による表明保証を明記し、同意取得の責任の所在を明確にすべきである。第三に、タレントの不祥事発生時の解除条件を曖昧にしたため、企業イメージ毀損時に迅速な契約解除ができなかった失敗がある。第8条・第10条のように品位保持義務と具体的な解除事由を組み合わせて定めることが望ましい。パブリシティ権は判例法理にとどまり、その射程や損害算定について確立した基準があるわけではないため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本タレントが専属マネジメント契約に基づき事務所に許諾権限があることを確認したか
- [ ] タレント本人からの個別同意の取得状況を確認したか
- [ ] 独占的利用の対象商品区分・競合事業者を具体的に特定したか
- [ ] 利用媒体(CM・SNS・屋外広告等)の範囲を明記したか
- [ ] ミニマムギャランティの金額及び追加報酬の要否を確認したか
- [ ] 素材の加工・トリミング・AI利用時の事前承認手続を定めたか
- [ ] 品位保持義務及び不祥事発生時の解除事由を具体的に定めたか
- [ ] 契約終了後の広告物撤去・廃棄期限を定めたか
- [ ] グッズ展開等の商品化を想定する場合、別途契約の要否を確認したか
- [ ] 契約期間及び更新の有無を確認したか