境界上の塀や擁壁の所有関係・築造費用・補修負担を隣地と定める覚書。民法第225条の囲障設置と第229条の共有推定、宅地造成に関する安全確保にも配慮する。

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隣地との塀・擁壁に関する覚書

第1部: 書式本文

第1条(前提) 土地所有者甲及び隣地所有者乙は、甲地と乙地の境界上に存する塀又は擁壁(以下「本工作物」という。)の所有関係、築造費用及び補修負担について、次のとおり確認する。

第2条(本工作物の所有関係) 本工作物は、〔選択A: 甲の単独所有/選択B: 乙の単独所有/選択C: 甲乙の共有(民法第229条の推定)〕であることを相互に確認する。

第3条(囲障設置の費用負担) 甲及び乙が新たに囲障を設置する場合、民法第225条に基づき、その設置費用は甲乙で等しい割合により負担する。ただし、当事者が別段の定めをしたときはその定めによる。

第4条(囲障の種類) 新設する囲障の種類は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものとし、高さは2メートルとする。ただし、甲乙間で協議のうえこれと異なる種類・高さの囲障を設けることができる。

第5条(擁壁の構造及び安全性) 本工作物が擁壁である場合、甲及び乙は、当該擁壁が宅地造成及び特定盛土等規制法(旧宅地造成等規制法)その他の関係法令に適合する構造であるかを相互に確認し、疑義がある場合は専門家(建築士、地盤調査業者等)による調査を実施する。

第6条(補修費用の分担) 本工作物の補修又は建替えに要する費用は、所有関係に応じて次のとおり分担する。単独所有の場合は所有者が、共有の場合は甲乙が等しい割合で負担する。

第7条(補修工事への協力) 甲及び乙は、本工作物の補修工事の実施にあたり、相互の土地への一時的な立入りを認め、工事に協力する。

第8条(工作物責任の確認) 本工作物の設置又は保存に瑕疵があり、これによって他人に損害が生じたときは、民法第717条に基づき、当該工作物の占有者又は所有者が損害賠償責任を負う。

第9条(承継人への効力) 本覚書の内容は、甲及び乙それぞれの承継人(相続人、譲受人)に対しても効力を有する。

第10条(既存擁壁の適法性の確認) 甲及び乙は、本工作物が擁壁である場合、確認済証又は検査済証の有無を相互に確認し、これを確認できないときは特定行政庁への照会を検討する。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 土地所有者(擁壁の維持を望む側)向けの修正

A-1. 定期点検の実施義務の追加

追加条文例:「甲及び乙は、本工作物が擁壁である場合、〇年ごとに専門家による点検を実施し、その結果を相互に共有する。」 一言解説: 擁壁は経年劣化により崩壊のリスクがあるため、定期的な点検を義務付けることで早期の異常発見と補修費用分担の予見可能性を高める修正である。

B. 隣地所有者(補修費用の負担を懸念する側)向けの修正

B-1. 補修の必要性の判断基準の明確化

追加条文例:「補修工事の要否は、専門家による調査報告書に基づき甲乙協議のうえ決定するものとし、一方当事者のみの判断で補修を強行し、その費用を相手方に請求することはできない。」 一言解説: 一方的な判断で高額な補修工事を実施し、後から費用分担を求められることを防ぐため、専門家調査に基づく合意形成のプロセスを明記する修正である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、隣接する土地の境界上に存する塀又は擁壁について、所有関係が不明確な場合や、将来の補修・建替えに備えて費用分担のルールをあらかじめ取り決めておく場面で用いる。擁壁が既に崩壊の危険がある等、緊急性の高い状況にある場合には、覚書による将来の取り決めでは対応が追いつかないため、速やかに専門家による調査と行政への相談(がけ地に関する条例上の指導等)を優先すべきである。

根拠法令 民法第225条は、2棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる旨を定め、同条第2項は囲障の種類を板塀又は竹垣その他これらに類する材料のもので高さ2メートルのものとする旨を定める(当事者間の協議で異なる定めも可能)。民法第226条は囲障の設置及び保存の費用を等しい割合で負担する旨を、同法第229条は境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する旨を定める。擁壁については、宅地造成及び特定盛土等規制法に基づく規制区域内であれば、一定規模以上の擁壁の設置・変更に許可が必要となる場合がある。工作物の設置又は保存の瑕疵により生じた損害については、民法第717条に基づき占有者(一次的責任)又は所有者(占有者が免責される場合の二次的責任)が責任を負う。

実務でよくある失敗と対策 第一に、境界上の塀の所有関係を確認せずに「共有」と決めつけてしまい、実際には一方の単独所有(自己の土地内に設置されている)であった場合に、補修費用の請求根拠を誤る失敗がある。第2条のように所有関係を測量図等に基づき正確に確認することが重要である。第二に、擁壁の老朽化リスクを軽視し、補修義務や責任の所在を定めないまま放置し、崩壊事故が発生した際に工作物責任の追及に発展する失敗がある。A-1のように定期点検を義務付け、B-1のように専門家調査に基づく合意形成プロセスを設けることが有効である。第三に、囲障の設置費用を等しい割合で負担する原則(民法第225条・第226条)を知らず、一方が全額を負担させられると誤解して協議が難航する失敗がある。法定の原則と異なる合意をする場合は、その旨を条項上明記しておく必要がある。

第四に、擁壁が建築確認を要する規模のものであるにもかかわらず、既存の擁壁が確認申請を経ずに築造された違法な状態(既存不適格ですらない無許可の擁壁)であることに気づかず取引や補修を進めてしまう失敗もある。既存の擁壁について確認済証や検査済証の有無を事前に確認し、不明な場合は特定行政庁に照会することが望ましい。第五に、塀の建替えにあたり高さを変更する際、民法第225条第2項の原則(高さ2メートル)を超える塀を一方的に築造し、隣地の日照やプライバシーをめぐって紛争になる失敗もある。高さや材質を法定の原則と異なる内容にする場合は、必ず隣地所有者との事前協議と書面での合意を経ることが望ましい。

擁壁の構造上の安全性の評価には専門的な調査を要するため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。建築士や地盤の専門家、必要に応じて弁護士への相談が有用である。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 塀又は擁壁の所有関係(単独所有か共有か)を測量図等で確認したか
  • [ ] 擁壁の構造的な安全性について専門家による調査の要否を検討したか
  • [ ] 宅地造成及び特定盛土等規制法等の規制区域内に該当しないか確認したか
  • [ ] 補修・建替え費用の分担割合を明確にしたか
  • [ ] 定期点検の実施頻度及び費用負担を定めたか
  • [ ] 補修工事のための隣地への立入りに関する協力条項を設けたか
  • [ ] 工作物責任(民法第717条)の所在について当事者双方が理解しているか確認したか
  • [ ] 承継人への効力について明記したか
  • [ ] 既存擁壁の確認済証・検査済証の有無を確認したか
  • [ ] 塀の高さ・材質を法定原則と異なる内容にする場合、隣地所有者との事前協議を行ったか