タイムカードや入退館記録など労働時間に関する記録の開示を求める書面です。開示範囲、方法、期限を特定して交渉の材料とします。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
労働時間記録の開示請求書
第1部: 書式本文
【文書日付】令和【 】年【 】月【 】日 【宛先】【会社名】 【代表者役職・氏名】殿 【差出人】【所属部署/退職済みの場合は「元従業員」と記載】【氏名】(従業員番号【 】)
労働時間記録の開示請求について
私は、下記のとおり貴社に対し、私の労働時間に関する記録の開示を請求いたします。
【開示対象期間】令和【 】年【 】月【 】日から令和【 】年【 】月【 】日まで 【開示を求める記録の種類】 1. タイムカード又は勤怠管理システムの打刻記録 2. 入退館(入退室)記録 3. パソコンのログオン・ログオフ記録 4. 業務用携帯電話・社用車の位置情報記録(該当する場合) 5. 賃金台帳のうち労働時間・時間外労働時間に関する部分 【開示方法】書面(写しの交付)/電磁的記録(PDF等でのデータ送付)のうちいずれか貴社にて選択可能な方法 【開示に要する費用】実費を超える費用負担がある場合は事前に金額と算定根拠を明示すること 【回答期限】本書面到達後【 】日以内(目安として2週間程度) 【回答方法】書面又は電子メール(【連絡先メールアドレス】) 【請求理由(任意記載)】【時間外労働に関する疑義の確認/退職後の未払賃金精算の検討等、記載する場合のみ】 【本人確認資料】運転免許証の写し等、本人確認に資する資料を同封する場合はその旨記載 【添付書類】本人確認資料の写し【 】通 【個人情報保護法上の位置づけ】本請求は個人情報の保護に関する法律第33条第1項に基づく保有個人データの開示請求として行うものである旨(該当する場合に記載) 【一部開示に留まる場合の希望】全部開示が困難な場合には、開示可能な範囲及びその理由を書面で示すよう求める旨
以上
【署名】【 】 【捺印又は署名】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 請求する労働者側
- 記載例1: 「在職中に請求する場合は、宛先を直属の上司ではなく人事労務担当部署とし、『在職中であることを理由に開示を拒まないでください』との一文を追記する。」 一言解説: 在職中の請求は人事評価への影響を懸念して控えられがちだが、開示請求自体は正当な権利行使であることを明示しておくと心理的な圧力を受けにくくなる。
- 記載例2: 「退職後に請求する場合は、差出人欄に『元従業員』と明記し、退職日と在籍時の所属部署を併記して本人特定を容易にする。」 一言解説: 退職者は社内システムの記録が閲覧できないため、開示請求が唯一の情報入手手段となることが多く、対象期間を明確にすることが円滑な対応につながる。
- 記載例3: 「弁護士や労働組合を通じて請求する場合は、代理人の資格を証する書面(委任状の写し等)を添付し、以後の連絡窓口を代理人に一本化する旨を明記する。」 一言解説: 代理人経由の請求では会社側が本人確認や委任範囲の確認に時間を要することがあるため、委任状の添付により手続を迅速化できる。
B節: 会社側
- 記載例1: 「開示範囲を一部に限定する場合は、拒否する項目ごとに理由(第三者の個人情報が含まれる、システム上抽出が著しく困難である等)を具体的に記載した回答書に転用する。」 一言解説: 理由を示さない一部拒否は開示請求権の実質的否定と受け取られやすく、後日の紛争リスクを高めるため、項目ごとの理由付記が望ましい。
- 記載例2: 「開示に相当の費用を要する場合は、事前に見積りを示し労働者の同意を得たうえで対応する回答書に書き換える。」 一言解説: 費用負担を理由に一方的に開示を拒むと不誠実な対応と評価されるおそれがあるため、見積り提示による透明性確保が有効。
- 記載例3: 「複数回にわたり開示済みの記録を重複して請求された場合は、既存の開示内容を援用し、追加開示が必要な範囲のみを確認する回答に書き換える。」 一言解説: 重複請求への対応履歴を残しておくことで、後日『開示に応じなかった』との誤解を防止できる。
- 記載例4: 「システムの仕様上、打刻記録の生データを抽出できない場合は、集計後の月次データと抽出困難である旨の技術的説明を併記した回答書に書き換える。」 一言解説: 『対応できない』とだけ回答すると不誠実な対応と受け取られやすいため、技術的な制約の具体的説明を添えることで開示請求への誠実な対応を示すことができる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、労働者が自らの労働時間に関する記録の開示を会社に求める場面で使用する。典型的には、未払残業代の有無を検討する段階、退職後に在職中の実労働時間を確認したい場合、あるいは労働基準監督署への申告を検討する前段階で、まず任意開示を求める初動として活用する。使用してはならない場面としては、第三者(同僚等)の労働時間記録や人事評価情報のように、請求者本人の記録に該当しない情報まで一括して求める場合であり、この場合は開示範囲が過大となり会社側の拒否事由を生じさせやすい。
法的根拠としては、タイムカードや入退館記録は請求者個人を識別できる情報であるため、個人情報の保護に関する法律第33条に基づく保有個人データの開示請求として位置づけることができる。会社が個人情報取扱事業者に該当する限り、同条に基づき原則として開示に応じる義務が生じ、同法第35条により拒否する場合には理由の説明が求められる。また、賃金台帳及びこれに類する労働時間の記録は労働基準法第109条により使用者に一定期間の保存義務(記録の種類により3年から5年、当分の間は経過措置により3年)が課されており、保存されている限り開示請求の対象となり得る。もっとも、同条は保存義務を定めるにとどまり、労働者本人への開示請求権を直接規定するものではないため、開示を拒まれた場合には個人情報保護法の枠組みや、後述の労働基準監督署への相談と組み合わせて対応する必要がある。
実務でよくある失敗として、第一に、開示対象期間を特定せず「全期間」と記載してしまい、会社側からシステムの保存期間を理由に対応を拒まれる例がある。対策として、在籍期間や疑義のある時期をあらかじめ絞り込んで記載する。第二に、開示方法を指定せず、会社が閲覧のみで対応しようとして手元に証拠が残らない例がある。対策として、写しの交付又は電磁的記録での送付を明記する。第三に、回答期限を設けずに催促のタイミングを逃す例がある。対策として、具体的な期限と回答方法を明記する。
また、会社が開示を拒否した場合や合理的な理由なく長期間放置した場合、労働者は労働基準監督署への相談・申告を検討することができる。労働基準法第104条は、事業場に法令違反の事実がある場合に労働者が監督署へ申告できる旨を定め、同条第2項は申告を理由とする不利益取扱いを禁止している。もっとも、記録の不開示それ自体が直ちに同条の申告対象となる法令違反に当たるとは限らず、未払賃金の有無等、開示請求の背後にある実体的な問題と切り分けて検討する必要がある。なお、開示請求への対応可否や個人情報保護法上の該当性の判断は事案ごとの事情によって異なり得るため、個別事案については弁護士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 開示対象期間が具体的に特定されているか
- [ ] 開示を求める記録の種類(タイムカード、入退館記録等)が列挙されているか
- [ ] 開示方法(書面・電磁的記録)を指定しているか
- [ ] 費用負担が発生する場合の取扱いを明記しているか
- [ ] 回答期限と回答方法(宛先の連絡先)を明記しているか
- [ ] 在職中・退職後のいずれかに応じて宛先・差出人表記を調整したか
- [ ] 代理人(弁護士・労働組合)を通じて請求する場合、委任状等を添付したか
- [ ] 本人確認資料の要否を確認したか
- [ ] 請求理由を記載する場合、断定的・攻撃的な表現になっていないか
- [ ] 第三者の情報まで含めた過大な請求になっていないか
- [ ] 会社から一部開示・不開示の回答があった場合の再請求方法を検討済みか
- [ ] 労働基準監督署への相談を視野に入れる場合、申告と本請求の関係を整理しているか