団体交渉の妥結内容を労働組合法第14条の要件を満たす形で文書化した労働協約です。有効期間、解約手続、規範的効力の範囲を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
労働協約書
第1部: 書式本文
労働協約書
【会社名】(以下「甲」という。)と【労働組合名】(以下「乙」という。)は、団体交渉における協議の結果、下記のとおり労働協約(以下「本協約」という。)を締結する。
第1条(目的) 本協約は、労働組合法第14条に基づき、甲乙間の団体交渉により合意した事項を書面化し、両当事者の署名又は記名押印をもって効力を発生させることを目的とする。
第2条(組合員の範囲) 乙の組合員の範囲は【組合員の範囲:例 甲の従業員のうち、係長職未満の者】とする。
第3条(ユニオン・ショップ等の取扱い) 【条項の有無を選択:例 甲は、乙の組合員でない者を新たに採用したときは、採用後【日数】日以内に乙への加入を勧奨する/本協約はユニオン・ショップ条項を定めない】
第4条(組合活動) 甲は、乙が就業時間外に行う組合活動について【便宜供与の内容:例 社内掲示板の使用、組合事務所の貸与】を認める。ただし、就業時間中の組合活動については別途甲乙協議のうえ定める。
第5条(団体交渉) 甲及び乙は、労働条件その他の待遇及び団体的労使関係の運営に関する事項について、相手方から団体交渉の申入れがあったときは、労働組合法第7条2号の趣旨に従い誠実にこれに応じるものとする。
第6条(賃金等の労働条件) 【合意した労働条件:例 令和【年】年度の基本給を一律【金額】円引き上げる】
第7条(労働時間・休日・休暇) 【合意事項:例 所定労働時間、休日日数、特別休暇の内容等】
第8条(人事異動・懲戒に関する協議) 甲は、組合員に対する【異動・懲戒等の範囲】を行うにあたり、事前に乙に通知し、必要に応じて協議する。
第9条(平和条項及び争議行為) 本協約の有効期間中、甲乙は本協約に定める事項について、正当な手続によらない争議行為又は対抗措置を行わないものとする。
第10条(苦情処理) 本協約の解釈又は運用に関し疑義が生じたときは、甲乙協議のうえ解決する。協議が調わないときは、【苦情処理機関の名称】に付託することができる。
第11条(有効期間) 本協約の有効期間は、【西暦】年【月】月【日】日から【西暦】年【月】月【日】日までの【期間:3年以内】とする。労働組合法第15条第1項により、3年を超える有効期間を定めた場合は3年の定めをした労働協約とみなされることに留意する。
第12条(自動更新) 有効期間満了の【日数】日前までに甲乙いずれからも改定又は解約の申出がないときは、本協約は同一条件でさらに【期間】更新するものとする。
第13条(解約) 甲乙いずれも、労働組合法第15条第3項及び第4項に基づき、署名し又は記名押印した文書により相手方に予告することにより、本協約(有効期間の定めのない部分を含む。)を解約することができる。この場合の予告期間は解約日の90日前とする。
第14条(規範的効力) 本協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準は、労働組合法第16条により、これに違反する労働契約の部分を無効とし、無効となった部分は本協約の基準による。労働契約に定めがない部分についても同様とする。
第15条(効力発生) 本協約は、甲乙両当事者が署名し又は記名押印した日から効力を生じる。
以上、本協約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【西暦】年【月】月【日】日
甲:【会社名】 【代表者役職・氏名】 印\ 乙:【労働組合名】 執行委員長【氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 会社の立場からの記載例
会社側が労働協約書を作成する場合、規範的効力(第16条)が組合員全体の労働契約内容を直接規律することを踏まえ、条文の適用範囲を明確に限定する記載が重要である。例えば第2条の組合員範囲を曖昧にすると、管理職を含む全従業員に規範的効力が及ぶかどうかで解釈上の争いが生じ得る。また、第11条の有効期間について、会社側は経営環境の変化に対応できるよう、3年より短い期間(例:1年〜2年)を提案し、更新時に再協議する形にすることで、固定的な労働条件の長期化を避ける工夫が考えられる。第13条の解約条項についても、90日という予告期間は労働組合法第15条3項・4項の定めであり短縮はできないため、会社側が独自に予告期間を短縮する条項を設けることは法的に無効となるおそれがある点に留意する必要がある。
B節: 労働組合の立場からの記載例
労働組合側は、規範的効力による保護を実効的なものとするため、賃金や労働時間など基幹的な労働条件については協約本文に具体的な数値を明記し、「別途協議する」といった曖昧な表現を避けるよう求める姿勢が重要である。曖昧な合意は規範的効力が及ぶ範囲を不明確にし、後日会社側が「協約上の合意ではなく単なる方針表明であった」と主張する余地を残す。また、第9条の平和条項については、対象を「本協約に定める事項」に限定し、協約に定めのない新たな労使紛争についてまで争議権を制限されないよう、適用範囲を明確に区切ることが組合側の利益にかなう。第12条の自動更新条項についても、組合側からは会社側の一方的な改定申出により有利な条件が失われることを防ぐため、「改定の申出があった場合でも、新協約締結までは旧協約の内容を維持する」旨の暫定効力条項を追加することが有効である。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本書式は、団体交渉で合意に至った事項を正式な労働協約として文書化する場面で用いる。使用すべき場面は、団体交渉における合意内容を確定的な規範として労使双方を拘束させたい場合である。他方、交渉途中の一部合意や、確認的な申合せにとどまる事項について、正式な労働協約の形式で締結すると、後で変更する際に労働組合法第15条の解約手続(90日前予告)を要することになり、機動的な見直しが困難になる点に留意が必要である。暫定合意にとどめたい場合は「確認書」や「覚書」など別形式の使用を検討すべきである。
根拠法令は、労働組合法第14条(労働協約は書面に作成し、両当事者が署名し又は記名押印することによってその効力を生ずる)、同法第15条(有効期間の上限を3年とし、それを超える定めをした場合は3年の協約とみなす旨、及び期間の定めのない協約の解約手続として90日前の予告を要する旨)、同法第16条(労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効とし、無効となった部分及び労働契約に定めのない部分は協約の基準による、いわゆる規範的効力)である。
よくある失敗の一つは、口頭合意や議事録の記載のみで満足し、労働組合法第14条が要求する書面性・署名又は記名押印を欠いたまま「合意した」と扱ってしまうことである。この場合、規範的効力が生じない可能性があるため、対策として必ず本書式のような独立した協約書を作成し、両当事者の署名又は記名押印を得る。二つ目の失敗は、有効期間を4年、5年など3年を超える期間で定めてしまうことである。対策として、労働組合法第15条1項の規定により3年を超える期間を定めても3年とみなされることを踏まえ、長期の安定を望む場合は自動更新条項(第12条)を活用する。三つ目の失敗は、解約予告期間を90日未満に短縮する条項を設けてしまうことである。対策として、解約予告期間は労働組合法第15条3項・4項の強行的な定めであるため、これを下回る期間を設定しないよう確認する。規範的効力の及ぶ範囲や条項の有効性については個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- 甲乙双方の署名又は記名押印欄が設けられているか(労組法第14条)
- 組合員の範囲が明確に定義されているか
- 有効期間が3年以内で定められているか、又は3年を超える場合の扱いを理解しているか(労組法第15条1項)
- 解約予告期間が90日以上に設定されているか(労組法第15条3項・4項)
- 自動更新条項を設ける場合、更新後の効力について明記されているか
- 規範的効力の対象となる労働条件(賃金・労働時間等)が具体的数値で記載されているか(労組法第16条)
- 平和条項の適用範囲が本協約記載事項に限定されているか
- 苦情処理の手続・機関が明記されているか
- 団体交渉に関する誠実対応の条項が含まれているか
- 便宜供与(組合事務所・掲示板等)の内容が具体的に記載されているか
- 締結後の保管方法(甲乙各1通保有等)が明記されているか
- 締結前に弁護士等専門家へ内容の確認を行ったか