労働審判法に基づき地位確認や未払賃金を求める申立書の記載例です。申立ての趣旨、理由、予想される争点と証拠を整理します。後日の紛争を防ぐための確認欄をあらかじめ設けています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
労働審判手続申立書
第1部: 書式本文
労働審判法第5条に基づき、下記のとおり労働審判手続の申立てをする。
労働審判手続申立書
【令和〇年〇月〇日】
〇〇地方裁判所 御中
申立人 住所【 】 氏名【 】
第1 当事者の表示 1 申立人 氏名【 】、住所【 】、連絡先【 】 2 相手方 名称【株式会社〇〇】、本店所在地【 】、代表者【代表取締役〇〇】
第2 申立ての趣旨 1 【地位確認を求める場合】 「申立人が相手方に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。」 2 【未払賃金を求める場合】 「相手方は申立人に対し、金〇〇円及びこれに対する令和〇年〇月〇日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。」 3 【付随的請求】 「手続費用は相手方の負担とする。」との審判を求める。
第3 申立ての理由 1 当事者の関係 申立人は、令和〇年〇月〇日、相手方との間で期間の定め【あり・なし】の労働契約を締結し、職種【 】、賃金【月額〇〇円、支払日毎月〇日】の労働条件で勤務していた。 2 紛争に至る経緯 (1) 【令和〇年〇月〇日】相手方は申立人に対し【解雇通告・雇止め通知・懲戒処分の告知等】を行った。 (2) その理由として相手方が示したのは【 】であった。 (3) 申立人は当該措置について、次の理由により無効ないし違法であると考える。【解雇権濫用法理(労働契約法第16条)に反する、就業規則所定の解雇事由に該当しない等】 3 損害額・請求額の算定根拠 未払賃金がある場合は算定期間、単価、勤務日数等の計算根拠を明示する。 4 交渉経過 相手方との間で行った交渉、労働局あっせん等の先行手続の有無及びその結果
第4 予想される争点 1 解雇(雇止め)の有効性に関する事実関係の争い 2 賃金額・残業代の算定方法に関する争い 3 その他【 】
第5 予想される争点に関する証拠 1 雇用契約書、労働条件通知書 2 給与明細書、賃金台帳の写し 3 解雇通知書、懲戒処分通知書等 4 タイムカード、業務日報等の労働時間関係資料 5 その他の証拠(メール、録音反訳書等)
第6 申立てまでの経緯に関する特記事項 1 労働局あっせん等の先行手続を経た場合はその結果 2 本申立てにおいて相手方に求める話し合いによる解決の可能性についての申立人の考え
第7 添付書類目録 1 資格証明書(相手方が法人の場合) 2 証拠説明書 3 甲号証一覧
以上
【申立人署名押印欄】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 申立人(労働者)の立場
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申立ての趣旨の書き換え例 地位確認と未払賃金の両方を求める場合、「地位確認に加え、解雇後の賃金として月額〇〇円の割合による金員の支払いを求める」のように、バックペイ(解雇時から解決までの賃金相当額)の請求を明記する。労働審判は原則3回以内の期日で審理を終結する制度(労働審判法第15条第2項参照)であるため、請求を後から追加すると審理計画が崩れやすく、当初の申立書に想定される請求を漏れなく盛り込むことが重要である。
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予想される争点欄の書き換え例 「相手方は解雇理由として業務命令違反を主張する見込みであるが、当該命令自体が権限の範囲を超えるものであった」のように、相手方が主張してくるであろう反論を先回りして記載し、それに対する再反論の骨子を示しておく。労働審判委員会は第1回期日までに主要な争点を把握しようとするため、争点を整理した申立書は審理の効率化に資する。
B節: 相手方(会社)の立場
会社は原則として申立人にはならないが、申立てを受けた後の防御方針検討や、逆に会社側から地位不存在確認等を求める場合の想定書面として、以下を検討する。
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事実関係に対する認識整理 「申立人の主張する〇月〇日の懲戒事由については、就業規則第〇条に基づき手続を履践している」のように、手続的な適法性(弁明の機会の付与等)を具体的に示す準備をしておく。労働審判は迅速な手続であるため、答弁書提出までに事実関係の裏付け資料を揃えておく必要がある。
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解決の方向性の検討メモ 「金銭解決に応じる場合の上限額」「地位確認に応じられない理由(既に後任者を採用している等)」を第1回期日前に整理する。労働審判は調停的性格も併せ持つため、審判官・審判員が期日内で心証を開示し和解を勧めることが多く、会社側は決裁権限を持つ担当者を出頭させる準備が必要である。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本書式は、労働審判法第5条に基づき、個々の労働者と事業主との間の労働関係に関する民事紛争について、地方裁判所に対して労働審判手続の申立てを行う場面で使用する。労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名(労使の実務経験者)で構成される労働審判委員会が、同法第7条により原則として3回以内の期日で審理を終え、調停の成立、労働審判の言渡し、または不成立による訴訟移行のいずれかの結果に至る制度である。使う場面としては、解雇・雇止めの効力を争う事案、未払賃金・残業代を請求する事案など、比較的争点が整理しやすく、迅速な解決になじむ事案が想定される。他方、複雑な事実認定や多数当事者が関わる事案、あるいは集団的労使紛争(不当労働行為等)には労働審判はなじまず、通常訴訟や労働委員会の手続によるべき場合がある。
よくある失敗として、第一に、申立ての趣旨と申立ての理由の対応関係が不明確で、審判官が請求の全体像を把握しにくいケースがある。対策として、申立ての趣旨に記載した請求ごとに、理由欄で対応する事実と算定根拠を明示する構成とする。第二に、証拠の整理が不十分なまま申し立ててしまい、第1回期日までに主張立証を尽くせないケースがある。労働審判は原則3回以内で審理が終結するため、通常訴訟のように後から証拠を小出しにする戦術は機能しにくい。対策として、申立て段階で想定される争点に関する証拠をできる限り網羅的に添付する。第三に、解決の落としどころ(和解による金銭解決の水準等)を検討せずに申し立て、期日内での柔軟な対応ができなくなるケースがある。対策として、申立て前に希望する解決の幅(最低ラインと理想ライン)を整理しておく。
労働審判は迅速性を重視した制度であり、複雑困難な事案では通常訴訟への移行も想定される。個別事案は専門家に確認することが望ましい。
労働審判法第22条により、労働審判に対して当事者が2週間以内に異議を申し立てた場合、労働審判はその効力を失い、当該申立てに係る請求については訴えの提起があったものとみなされ、通常の訴訟手続に移行する。このため、労働審判はあくまで訴訟への移行も見据えた入口の手続として位置づけられており、労働審判の段階で提出した申立書や証拠は、後続の訴訟においてもそのまま基礎資料として引き継がれることが多い。したがって、労働審判段階だからといって主張立証を簡略化してよいわけではなく、訴訟に移行した場合を見据えた正確な事実整理と証拠収集が求められる。
また、労働審判委員会は、審理の過程で当事者の一方に有利・不利な心証を形成した場合、それを率直に開示しながら調停を試みる運用が一般的である。このため、申立人としては、第1回期日で提示される心証を踏まえて柔軟に解決水準を修正できるよう、あらかじめ交渉の落としどころに幅を持たせておくことが実務上重要である。逆に、当初から強硬な主張のみに終始すると、調停の機会を逃し、労働審判(裁判所による終局判断)に進んだ結果、双方が想定していなかった内容の審判が下されるリスクもある。
第4部: 使用前のチェックリスト
- 申立ての趣旨に記載した請求と、理由欄の事実・算定根拠が対応しているか確認したか
- 地位確認・未払賃金等、請求を漏れなく当初の申立書に盛り込んだか
- 予想される争点とそれに対応する証拠を一覧化したか
- 雇用契約書、給与明細、タイムカード等の基礎資料を収集済みか
- 相手方が主張してくるであろう反論を想定し、再反論の骨子を準備したか
- 労働局あっせん等の先行手続を経ている場合、その結果を記載したか
- 未払賃金の遅延損害金の起算日・利率(商事法定利率等)を確認したか
- 希望する解決の幅(最低ラインと理想ライン)を事前に整理したか
- 管轄裁判所(相手方の住所地または就業場所を管轄する地方裁判所等)を確認したか
- 第1回期日に出頭できる日程・担当者を確保したか
- 労働審判に対する異議申立て(労働審判法第22条)により訴訟へ移行した場合を見据えた証拠整理をしているか
- 第1回期日での心証開示を踏まえて解決水準を修正できるよう、交渉方針に幅を持たせているか
- 通常訴訟移行後の主張立証にも耐えうる証拠(客観的資料)を優先的に確保しているか