労働災害の民事賠償について解決金額と支払条件を定める和解合意書です。労災保険給付との調整と清算条項を明記します。記載例と注記を添えており、初めての担当者でも作成できます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
労働災害に関する損害賠償和解合意書
第1部: 書式本文
【会社】(以下「甲」という)住所【 】 商号【 】 代表者【 】 【被災労働者・遺族】(以下「乙」という)住所【 】 氏名【 】(遺族の場合は被災労働者との続柄【 】)
甲及び乙は、令和【 】年【 】月【 】日に発生した災害(以下「本件災害」という)に関する損害賠償について、下記のとおり和解する。
第1条(解決金の支払) 甲は乙に対し、本件災害に関する解決金として金【 】円の支払義務があることを認め、これを令和【 】年【 】月【 】日限り、乙が指定する下記口座に振り込む方法により支払う。 【振込先口座】【 】 (振込手数料は甲の負担とする)
第2条(分割払いとする場合の特則) 第1条の解決金を分割して支払う場合、支払期日・各回の金額・期限の利益喪失事由(【 】回分の支払を怠ったとき等)を本条に定める。
第3条(労災保険給付との調整) 本件解決金は、乙が既に受給した労働者災害補償保険法に基づく保険給付(休業補償給付、障害補償給付等)の額を考慮のうえ算定したものであり、甲は当該給付分について重ねて支払う義務を負わない。
第4条(後遺障害・将来の損害に関する取扱い) 本件解決金は、本合意書締結日までに判明している後遺障害及び損害を対象とするものとし、締結日以降に新たに症状が悪化し、又は新たな後遺障害が判明した場合の取扱いについては【別途協議する/本条により清算済みとする】(いずれかを選択)。
第5条(口外禁止) 甲及び乙は、本合意の内容及び本件災害の内容について、法令上の義務がある場合又は税務・会計上必要な範囲を除き、正当な理由なく第三者に開示しないものとする。
第6条(清算条項) 甲及び乙は、本件災害に関し、本合意書に定めるもののほか、甲乙間に何らの債権債務がないことを相互に確認する。
第7条(合意管轄) 本合意に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第8条(公正証書化) 乙の希望により、本合意書の内容を公正証書(強制執行認諾文言付き)とする場合は、甲乙協力して手続を行い、公証人手数料の負担については【甲乙折半/甲負担】とする。
以上、本合意の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
令和【 】年【 】月【 】日 甲【 】 乙【 】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 会社側
- 記載例1: 「解決金を分割払いとする場合、第2条に期限の利益喪失条項を設け、『【 】回分の支払を怠り、乙から【 】日以内に催告してもなお支払わないとき』は残額を一括して支払う旨を明記する。」 一言解説: 分割払いは会社の資金繰りに配慮した方法であるが、不履行時の対応を定めておかないと乙側の回収リスクが高まり、和解自体が成立しにくくなる。
- 記載例2: 「口外禁止条項(第5条)について、乙の家族・税理士等、業務上又は生活上必要な範囲での開示を例外として認める形に修正し、過度に広範な口外禁止による無効リスクを避ける。」 一言解説: 口外禁止条項が労働者の正当な利益(税務申告、家族への相談等)を過度に制約すると、条項の有効性そのものが争われるおそれがある。
B節: 被災労働者・遺族側
- 記載例1: 「後遺障害の内容が症状固定に至っておらず今後悪化する可能性がある場合、第4条を『本合意締結日までに判明している損害を対象とし、将来新たな後遺障害等級が認定された場合はその部分について別途協議する』との留保付きの条項に書き換える。」 一言解説: 清算条項を無限定に定めると、後日判明した後遺障害についても請求ができなくなるおそれがあるため、将来の損害を明示的に留保しておくことが乙側の利益を守るために重要である。
- 記載例2: 「遺族が複数いる場合、第1条の受領者を代表者一名とするか、各相続人の相続分に応じて按分するかを明記し、他の相続人からの異議がないことを確認する条項を追加する形に書き換える。」 一言解説: 相続人間の受領方法が不明確なまま和解すると、後日相続人間で紛争が生じ、会社が二重払いのリスクを負う可能性があるため、受領方法を明確にしておく必要がある。
- 記載例3: 「解決金の支払確実性に不安がある場合、第8条により本合意書を公正証書化し、強制執行認諾文言を付す形に書き換える。」 一言解説: 公正証書化しておけば、不払いが生じた場合に訴訟を経ずに強制執行が可能となり、乙側の回収リスクを軽減できる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、労働災害に起因する損害賠償について、会社と被災労働者又はその遺族との間で解決金額及び支払条件を合意する際に使用する和解合意書である。使用すべき場面は、労災保険給付では填補されない損害(慰謝料等)について当事者間で金額の合意に至った場合であり、使ってはならない場面は、後遺障害の症状固定前など損害の全体像が確定していない段階で、将来の損害まで一括して放棄させる内容の清算条項を安易に締結する場面である。特に労働者側の代理人がついていない状態での早期の和解締結は、後日「知らずに将来の請求権まで放棄させられた」との紛争を招きやすい。
法的性質として、本合意書は民法上の和解契約(民法第695条)に該当し、当事者が互いに譲歩して争いをやめることを内容とする。和解が成立すると、原則として合意された内容に既判力に準ずる拘束力が生じ、後日「本来はもっと高額の損害があった」と主張しても、錯誤取消し(民法第95条)等の特別な事情がない限り、これを覆すことは困難となる。したがって、清算条項の範囲(将来の後遺障害を含むか否か)を明確にすることが特に重要である。また、既に労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受けている場合、民事上の損害賠償額との調整(給付済み部分の控除)を行うのが一般的であり、この調整を怠ると、会社が同一の損害について二重に填補する結果となりかねない。さらに、慰謝料等の人身損害に関する損害賠償金は所得税法上非課税とされるのが一般的であるが、名目や算定根拠によって取扱いが異なり得るため、税務上の整理も別途必要となる。
実務でよくある失敗として、第一に、清算条項を無限定に定め、締結後に判明した後遺障害について乙が請求できなくなる例がある。対策として、第4条に将来の損害の取扱いを明示する構成とした。第二に、分割払いとした場合の不履行時の対応を定めず、不払いが生じても法的手段に移行しにくい例がある。対策として、期限の利益喪失条項を第2条に設けた。第三に、口外禁止条項を過度に広範に定め、労働者の税務申告や家族への相談まで制約してしまう例がある。対策として、正当な範囲での例外を認める記載を第2部A節で示した。なお、和解金額の相当性や清算条項の範囲、税務上の取扱いについては事案ごとの事情により異なるため、個別事案については弁護士や税理士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 解決金額及び支払期日・方法を明確に定めているか
- [ ] 分割払いの場合、期限の利益喪失条項を設けているか
- [ ] 労災保険給付との調整(既払い分の控除)を明記しているか
- [ ] 将来の後遺障害・症状悪化の取扱い(清算対象か留保するか)を明確にしているか
- [ ] 口外禁止条項が正当な例外(家族・税務申告等)を認めているか
- [ ] 清算条項の範囲が明確か(将来請求権の放棄範囲を含む)
- [ ] 遺族が複数いる場合、受領方法・相続人間の合意を確認しているか
- [ ] 合意管轄条項を定めているか
- [ ] 症状固定前の早期和解になっていないか確認したか
- [ ] 税務上の取扱い(非課税の該当性)を別途確認する予定になっているか
- [ ] 公正証書化の要否・費用負担を検討したか