だまされ又は脅されて意思表示をした場合に、民法第96条に基づき取消しの意思表示を行い、支払済み金銭の返還を求める通知書です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
詐欺・強迫による取消通知書
第1部: 書式本文
【差出人住所】 【差出人氏名】 印
【送付日:西暦〇〇〇〇年〇月〇日】
【宛先住所】 【宛先氏名又は名称】 御中
通知書
前略、貴殿(貴社)より下記のとおり通知いたします。
第1. 当事者及び契約の特定 私(以下「通知人」という。)は、〇〇〇〇年〇月〇日、貴殿(貴社。以下「被通知人」という。)との間で、【契約の名称・内容(例:〇〇売買契約、〇〇サービス利用契約)】(以下「本契約」という。)を締結しました。
第2. 事実経過 被通知人は、本契約締結に際し、通知人に対し、【欺罔行為又は害悪の告知の具体的内容。例:「本商品は必ず値上がりする」「支払わなければ〇〇するぞ」等の発言・表示】を行いました。通知人は、上記の言動により【錯誤に陥った内容/畏怖した内容】、その結果として本契約の申込み(承諾)の意思表示を行い、〇〇〇〇年〇月〇日、代金として金【 】円を支払いました。
第3. 法的根拠 上記事実によれば、被通知人の言動は民法第96条第1項にいう詐欺又は強迫に該当し、通知人の本契約に係る意思表示は詐欺又は強迫による意思表示です。よって、通知人は本書をもって、民法第96条第1項に基づき、本契約の申込み(承諾)の意思表示を取り消します。 【第三者が欺罔行為を行った場合の追記例】なお、本件は被通知人以外の第三者【氏名】が欺罔行為を行ったものですが、被通知人は当該事実を知り、又は知ることができたものであるため、民法第96条第2項により本取消しを被通知人に対抗できます。
第4. 取消しの効果及び請求事項 本契約は民法第121条により、初めから無効であったものとみなされます。よって被通知人は、通知人から受領した金【 】円について、民法第121条の2に基づく原状回復義務として、通知人に返還する義務を負います。 通知人は被通知人に対し、下記期限までに、上記金【 】円を下記口座に振込送金する方法により返還するよう請求します。
第5. 期限及び対応 支払期限:本書到達後【14】日以内 振込先:【銀行名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義】 上記期限までに誠意ある対応がない場合、通知人は法的措置(民事訴訟の提起、及び事案によっては刑事告訴)を検討せざるを得ないことを申し添えます。
第6. 末尾文言 以上のとおり通知いたします。本書面到達後の対応につき、書面にて回答くださいますようお願い申し上げます。
草々
【差出人氏名】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 取り消す側(だまされた・脅された消費者や事業者)の視点
修正条文例: 「通知人は、被通知人の欺罔行為により本契約の内容につき錯誤に陥り、これがなければ本契約を締結しなかったものであるところ、民法第96条第1項に基づき本契約に係る意思表示を取り消す。」
一言解説:欺罔行為・錯誤への陥り・因果関係・意思表示という要件を時系列に沿って明示すると、後の交渉や訴訟で立証責任を果たしやすくなります。
修正条文例(強迫の場合): 「被通知人は通知人に対し『応じなければ〇〇する』旨を告知し、通知人はこれにより畏怖して本契約の申込みをしたものであるから、民法第96条第1項に基づき取り消す。」
一言解説:強迫の場合は詐欺と異なり被害者の錯誤を要件としないため、畏怖と意思表示との因果関係の記載に重点を置きます。
B. 取消しを受けた側(通知を受領した事業者等)の視点
修正条文例: 「貴書面記載の事実は当社の認識と相違する。当社担当者の説明は事実に基づくものであり、欺罔の故意はなく、民法第96条第1項の要件を欠くものと考える。」
一言解説:取消通知を受けた側は、まず欺罔の故意(二段の故意)の有無、説明内容の客観的裏付けの有無を確認し、安易に返還に応じる前に事実関係を精査する姿勢を示すことが重要です。
修正条文例: 「本契約締結の経緯につき、貴殿からの具体的な発言内容・日時・場所の特定を求める。特定なき限り、民法第96条第2項の第三者保護規定の適用も含め検討する。」
一言解説:第三者による詐欺が疑われる事案では、相手方の悪意・有過失の立証責任は取消しを主張する側にあることを踏まえ、具体的事実の特定を求める対応が有効です。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本書式は、欺罔行為や害悪の告知により意思表示をさせられた場合に、民法第96条に基づき当該意思表示を取り消し、既払金の返還を求める場面で使用します。単に「後悔した」「思っていたのと違った」という理由では詐欺・強迫の要件を満たさないため、そのような場合には本書式ではなくクーリング・オフ制度や錯誤取消し(民法第95条)の検討が適切です。
根拠法令は民法第96条です。第1項は詐欺又は強迫による意思表示の取消しを認め、第2項は相手方以外の第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り又は知ることができたときに限り取消しができると定めます。第3項は、詐欺による意思表示の取消しは善意無過失の第三者に対抗できないと定めており、既に目的物が第三者に転売されている場合などに問題となります。
詐欺の要件は、①欺罔行為、②それによる錯誤への陥り、③錯誤に基づく意思表示という因果関係、④欺罔行為者の二段の故意(相手を錯誤に陥らせる故意及びその錯誤により意思表示をさせる故意)です。強迫の要件は、①害悪の告知、②それによる畏怖、③畏怖に基づく意思表示という因果関係であり、強迫者の故意の内容(二段の故意)は詐欺ほど厳格には問題とされない点が異なります。
実務でよくある失敗として、第一に、欺罔行為や害悪の告知の具体的な日時・発言内容を特定せずに通知してしまい、相手方から事実を争われた際に立証ができないケースがあります。対策として、本書式第2項のように会話内容・日時・場所をできる限り具体的に記載します。第二に、詐欺と単なるセールストークの誇張(社交辞令的な誇大表現)を混同し、要件を満たさないまま取消しを主張してしまうケースがあります。第三に、刑事告訴(刑法第246条詐欺罪、同法第223条強要罪)と民事上の取消請求を混同し、告訴すれば当然に返還を受けられると誤解するケースです。刑事責任の追及と民事上の原状回復請求は別個の手続であり、返還を求めるには民事上の請求として本書式のような通知を行う必要があります。個別の事案については、証拠の評価や取消しの可否につき専門家に確認することを推奨します。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 欺罔行為又は害悪の告知の具体的内容(発言・表示・日時・場所)を特定したか
- [ ] 錯誤又は畏怖に陥った経緯と意思表示との因果関係を時系列で整理したか
- [ ] 欺罔行為者が契約の相手方本人か、第三者かを確認したか
- [ ] 第三者による詐欺の場合、相手方の悪意又は有過失を基礎づける事実を検討したか
- [ ] 支払済み金額及び支払日を裏付ける証拠(領収書・振込明細等)を確認したか
- [ ] 取消権の期間制限(民法第126条、追認可能時から5年、行為時から20年)を確認したか
- [ ] 目的物が既に第三者へ譲渡されていないか、第三者保護規定の適用可能性を確認したか
- [ ] 返還請求金額及び振込先口座情報を正確に記載したか
- [ ] 回答期限を明記し、期限後の対応方針(法的措置の予告)を記載したか
- [ ] 刑事告訴を検討する場合、民事上の取消請求と手続を区別して整理したか
- [ ] 送付方法(内容証明郵便等、記録が残る方法)を検討したか