裁判員候補者となった社員に対応する企業向け。休暇の日数と賃金の取扱いを定め、裁判員法第100条の不利益取扱いの禁止に沿った運用を確保します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
裁判員休暇規程
第1部: 書式本文
第1条(目的) 本規程は、【株式会社〇〇】(以下「会社」という。)の従業員が裁判員又は補充裁判員に選任され、又は裁判員候補者として裁判所に出頭する場合に取得できる休暇(以下「裁判員休暇」という。)について、対象となる範囲、日数及び手続を定め、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)の趣旨に沿った公正な運用を確保することを目的とする。
第2条(定義) 本規程において「裁判員休暇」とは、次の各号のいずれかに該当する従業員が、当該事由により就労できない期間について取得する休暇をいう。 一 裁判員法第27条の規定により裁判員候補者として裁判所から呼出しを受け、選任手続の期日に出頭するとき 二 裁判員法の定めるところにより裁判員又は補充裁判員に選任され、公判期日、公判前整理手続期日又は評議に立ち会うとき 三 前二号に付随して、裁判所への移動その他裁判員としての職務の遂行に直接必要な行為を行うとき
第3条(適用対象者) 本規程は、就業規則第【 】条に定める全ての従業員に適用する。勤続年数、雇用形態その他の理由により適用を制限しない。
第4条(付与日数) 裁判員休暇は、裁判所からの呼出し又は選任の通知に係る期間に応じ、必要な日数を付与する。会社は、あらかじめ日数の上限を設けない。
第5条(賃金の取扱い) 1. 裁判員休暇の取得日は、【有給とし、通常の賃金の全額を支払う/有給とし、通常の賃金の【 】割を支払う/無給とする】ものとする。 2. 従業員が裁判所から旅費、日当等の支給を受けた場合であっても、前項の会社の賃金支払いに影響しない。
第6条(申請手続) 1. 従業員は、裁判所から裁判員候補者としての呼出状又は裁判員選任の通知を受けたときは、速やかにその内容を所属長に届け出るとともに、裁判員休暇の取得を申請しなければならない。 2. 会社は、前項の届出があったときは、裁判所への出頭を確保するため、当該従業員の業務の調整その他必要な措置を講じる。 3. 従業員は、呼出状、質問票の写しその他裁判所が交付する書類の提出を求められたときは、これに応じるものとする。
第7条(不利益取扱いの禁止) 1. 会社は、従業員が裁判員候補者として出頭したこと、又は裁判員若しくは補充裁判員の職務を行ったことを理由として、解雇、降格、減給その他いかなる不利益な取扱いも行わない。 2. 前項は、裁判員法第100条の規定を確認的に定めたものである。
第8条(守秘義務への配慮) 1. 会社は、従業員が裁判員法第9条第2項及び第70条の規定により評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を保持する義務を負うことを踏まえ、当該従業員に対し、裁判の内容、評議の経過等について報告又は開示を求めない。 2. 会社は、裁判員休暇を取得した従業員の氏名その他選任に係る情報について、本人の同意なく社内外に公表しない。
第9条(所定労働時間中の呼出しへの対応) 従業員が裁判員候補者として呼出しを受けた期日が所定労働日と重複する場合、会社は、労働基準法第7条の規定を踏まえ、裁判所への出頭に必要な時間の確保を優先し、業務の都合を理由にこれを拒まない。
第10条(選任されなかった場合の取扱い) 裁判員候補者として出頭したものの、裁判員又は補充裁判員に選任されなかった従業員についても、出頭に要した時間は裁判員休暇として取り扱う。
第11条(長期にわたる場合の取扱い) 審理が長期にわたり、裁判員休暇が連続する場合、会社は当該従業員の業務を代替する体制を整え、休暇取得を理由とする代替要員の恒常的な配置転換その他の不利益な取扱いを行わない。
第12条(記録の管理) 会社は、裁判員休暇の取得状況に関する記録を、目的外利用を行わないよう適切に管理し、選任に係る個人情報については個人情報の保護に関する法律の定めるところにより厳重に取り扱う。
第13条(改廃) 本規程の改廃は、就業規則の変更手続に準じて行う。
第14条(附則) 本規程は【西暦年】年【 】月【 】日から施行する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 有給付与型向け(裁判員休暇を有給とする企業)
A-1 第5条の修正例 「裁判員休暇の取得日は、有給とし、通常の賃金の全額を支払う。ただし、裁判所から支給される日当相当額を会社の賃金支払額から控除しない。」 一言解説: 有給とする企業では日当を控除する例があるが、裁判員法第100条の不利益取扱い禁止の趣旨に照らし、控除しない設計の方が紛争を避けやすい。
A-2 第4条の修正例 「裁判員休暇は、裁判所からの呼出し又は選任の通知に係る全期間について、日数の上限を設けず有給休暇として付与する。」 一言解説: 有給付与型では上限を設けないことを明記し、裁判員としての職務遂行を経済的理由で妨げない姿勢を規程上明確にする。
B節: 特別休暇統合型向け(既存の特別休暇規程の一項目として位置付ける企業)
B-1 第2条の修正例 「本規程に定める裁判員休暇は、就業規則第【 】条及び特別休暇規程第【 】条に定める特別休暇の一種とし、特別休暇規程に定める申請様式及び承認手続を準用する。」 一言解説: 特別休暇規程が既にある企業では、手続を二重に定めず準用することで、従業員にとって分かりやすい制度設計になる。
B-2 第5条の修正例 「裁判員休暇の賃金の取扱いは、特別休暇規程第【 】条に定める慶弔休暇と同様に、有給とし通常の賃金の【 】割を支払う。」 一言解説: 統合型では既存の特別休暇の賃金水準に揃えることで休暇間の不公平感を避けられるが、割合設定によっては裁判員法の不利益取扱い禁止の趣旨に反しないか慎重に検討する必要がある。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本規程を導入すべき場面は、従業員数が一定規模以上あり、裁判員候補者名簿への記載通知や裁判所からの呼出しが現実に発生し得る企業、あるいは既に裁判員候補者となった従業員が生じ、休暇制度の未整備により対応に苦慮した企業である。逆に、常時使用する労働者が数名程度の極小規模の事業場で、既存の特別休暇規程や年次有給休暇の柔軟な運用で足りると判断できる場合は、独立した規程を新設せず、特別休暇規程の一項目として簡潔に定める運用でも対応可能である。
根拠法令の中心は裁判員の参加する刑事裁判に関する法律である。同法第27条は裁判員候補者に対する裁判所からの呼出しを定め、第100条は使用者が労働者の裁判員候補者としての出頭又は裁判員若しくは補充裁判員の職務遂行を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を明記している。第7条のように不利益取扱い禁止を規程上でも確認的に定めておくことで、従業員が萎縮せずに裁判所からの呼出しに応じられる環境を整えることができる。また、裁判員法第9条第2項及び第70条は評議の秘密その他職務上知り得た秘密の保持義務を定めており、会社が従業員に裁判の内容を報告させることは、この守秘義務との抵触を招きかねないため、第8条のように会社側が報告を求めない旨を明記することが望ましい。労働基準法第7条は、労働者が公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合に使用者がこれを拒んではならない旨を定めており、裁判員としての職務は同条にいう公の職務に該当すると解されているため、第9条のように所定労働時間中の呼出しに優先的に対応する姿勢を規程化する意義がある。
実務でよくある失敗の一つ目は、裁判員休暇の日数に上限を設けてしまい、審理が長期化した場合に休暇日数が不足し、従業員が欠勤扱いとなってしまうことである。第4条のように、裁判所の呼出し・選任に係る期間全体を対象とし、あらかじめ上限を設けない設計とすることでこれを避けられる。
二つ目の失敗は、裁判員候補者となった従業員の氏名や選任状況を社内で周知してしまい、本人の意思に反してプライバシーが害されることである。第8条第2項のように、本人の同意なく社内外に公表しない旨を明記しておく必要がある。
三つ目の失敗は、裁判員候補者として出頭したが結果的に裁判員に選任されなかった従業員について、休暇として扱わず欠勤や年休消化を強いてしまうことである。第10条のように、選任の有無にかかわらず出頭に要した時間を裁判員休暇として扱う旨を明確にしておくことが必要である。
裁判員休暇の賃金水準の設定や、特別休暇規程との統合の可否については、企業ごとの就業規則の体系や賃金制度によって適切な設計が異なるため、個別事案は専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 裁判員候補者としての呼出しと裁判員選任の双方を休暇の対象としたか
- [ ] 裁判員休暇の日数に不当な上限を設けていないか
- [ ] 有給・無給の別及び有給の場合の賃金水準を明記したか
- [ ] 裁判員法第100条に基づく不利益取扱い禁止を規程上に明記したか
- [ ] 評議の秘密等の守秘義務(裁判員法第9条第2項・第70条)に配慮し会社が報告を求めない旨を定めたか
- [ ] 裁判員候補者・裁判員となった事実の非公表原則を定めたか
- [ ] 選任されなかった場合の出頭時間の取扱いを明記したか
- [ ] 労働基準法第7条(公民権行使の保障)との整合を確認したか
- [ ] 既存の特別休暇規程との重複・整合を確認したか
- [ ] 記録管理における個人情報保護法上の取扱いを定めたか